「社会外之社会」その13
〈津田きみの事例-娼妓について〉
何故に娼妓となることを嫌ひしや
下等社会の婦女子が唯一の楽みとする所のものは髪の飾、衣裳にあり、是れが為めには如何なる恥辱もサラサラ厭ふ所あらず、去れば芸妓娼妓などが、美々しく装ふを見て之を浦山しく思ふは下等社会に於ける女子が一般の通状なり。
津田きみ女の家庭の様子を探るに、彼女の父母及び周囲の有様は、彼女をして娼妓となることを強ひて嫌はしむる程に高尚なる者に非るが如し、然るを何故に幼き彼女は一たび逃走を企てゝ成らざりしに懲りず、又も之を計りて遂に之を遂ぐるには至りけん、推して爰に至る時吾人は教育の効果に向て深く感謝せざるべからざるなり。
談話の次手、彼女に問ふて曰く『御身は何故に、シカく娼妓となることを悪くみしや』
きみ女曰く『まだ家に在りて学校に通ひける頃、先生の仰せられし言葉の中に、人は決して女郎や芸妓などの賤しき稼業をなすまじきものとありき左ればドウしても女郎衆になることがイヤなりき』
と、小学教師の一語は深く彼女の清き脳裡に染みて、能く此の幼き者をして汚穢の巷を逃れ出づることを得せしめき、小学教師諸君よ、諸君が平素偶然或は無意識の一言一語も、決して軽忽に発すまじきものなることを知り給へ。
彼女また語りて曰く『或る日何某と呼べる娼妓に如何なれば斯かる悪るき稼業を止め給はざるやと尋ねしに、否なとよ娼妓と言ふものは左まで苦しき者ならずと言へり、何故に彼の人は去ることを語りけん』
きみ女の疑は道理なり、世には此の破廉恥の稼業を悟らざるものあり、又た習、遂に性となりて感覚の鈍くなれるもあり。(出典 谷川健一編『近代民衆の記録3 娼婦』新人物往来社 1971年6月10日 155頁)
〈津田きみの事例-父のこと〉
父上は罰があたり給ひしならん
話題一たび亡父の事に及べば、麗はしく晴々としたる彼女の眼辺、忽ち愁雲の棚引きて玉の如き涙の雨の沛然として注ぎ来るを見る。
彼女は涙押し拭ひつゝ語りて曰く『父上の亡くなりしは、キツと罰があたツたのです、以前、父上の病み給ひし時、仏様へ御願を掛け鉦を打ち、御経を読みて、全快を祈ツたのです、れを、病気が癒つてからは、鉦もたゝかず、御経も読まないから、私は父上に其れでは仏様の罰が中つて、また病気が悪るくなりますよと言ふたのです、ソシたら御継母が腹を立ちまして、御経を読んで病気にならないものならば、寺の坊さんはドウして死ぬのだと、私は大層叱かられました、其れで、私は父上の病死はキツと仏様の罰が中つたのだと悲しく思ふのです』
無邪気なる少女が父を懐ふ真面目の談話は、自然なる喜劇の裡に云ふべからざる悲劇を含みて、聴く人をしてソヾロに袖を絞らしめぬ。
彼女に就ては記すべき消息尚ほ多し、去れど彼女は毎朝、本紙に我身の記事あるを見て『又た私の事があるノ、イヤな事ネ』と心を痛めり、爰に彼女か自由を得たるを欣び、更に彼女の前途を祝福し
つゝ筆とめ了んぬ。(上掲 156頁)
〈津田きみの事例-その影響〉
芸妓の悔悟きみ女の余響
十三の少女津田きみ子か吉原遊廓を逃れて我社に投じ来れる一事は如何に世の志士仁者の義心を動かし、又た現に賤業を営みつゝある婦女等をして深く反省せしめけん、コヽに一大反響は雪まだ深き越後より来れり、『越後』是れ日本に於ける賤業婦本地の一に非ずや、曩には賤業婦第一本地たる『名古屋』に於て娼妓廃業の訴訟を提起し、今や此の不名誉なる名古屋をして、殆ど廃娼運動の中心たらしめき、而して今や『越後』より『芸妓の悔悟』現はる、社会改善の為め心丈夫の感に湛へず、左の一書は越後中魚沼郡十日町なる高橋源次郎氏より、東京婦人矯風会頭潮田千勢子に宛てゝ『悔悟芸妓』の一身を依頼し来れる者なり、天下幾万の賤業婦女よ、熟読反省する所あれ。
益々御清適奉賀上候未だ拝眉の栄を得ずして甚だ唐突之至に奉存候得共あなた様には賤業に陥りしもの又は陥らんとするものを救護する為め『慈愛館』の事業に御尽力遊被候由『毎日新聞』に依て承知仕り一婦女子の御救護を願申度失礼をも顧みず申上候次第に御座候素より文筆に拙く候故充分に事情を開陳し得ず候得共大躰は下の如き事実によりて御救護を願上るに至りしものに御座候
小生先日或宴会に列せしに、席上『津田きみ子』の話より排賤業論に移り、議論百出中々に熾なりしが、小生は其席に侍せし或る芸妓に向て、排賤業の議論は開かるゝ通りの次第なれば、永く斯る稼業を為し居らんより、一日も早く正業に就くの道を講ずべしと説きしに、始めより無言にて諸氏の議論に耳を傾け居たりし彼女は大に感じたるものゝ如くにて、何れ近日中に処決すべければ、其際は充分の御助力を願ひたしと申居候ひき
やがて散会を告げて帰宅し、其夜の事など別に心にも留めざりしに、翌々日に至り、右芸妓より先夜の御教誨により、大に決心致したれば、是非に御面会を得たしと申込みし故、如何なる事か、兎に角面会致し見んと、彼女の許を訪問仕候
彼女は先づ口を開きて、先夜の御説承りて、能々賤しき稼業の厭になりたれば、抱へられし身にてはなく全く自由の身なるを幸ひ、本日既に廃業したれば是より正き業に就き申度、少しく望もあれば是非とも御尽力相談度と申出候
小生も事の意外に驚きたれ共、其決心の健気なるを感じ、及ぶ限り尽力可致に付其望を申さるべしと尋ね候所、昨夜来種々考へしも御承知の如く賤しき稼業を致居りし故、何一ツ習ひ得たる事もなく、今更何をなすにも充分の艱難辛苦を忍び勉強せざれば能はざる訳なれば、同じく艱難辛苦をなすものならば、今後三ケ年程は仮令如何難義をも忍び勉学して赤十字社の看護婦に相成申度、就ては此地に居りて為さんより東京へ出で、一ト苦み苦み申度、何卒御周旋之程頼み入ると、熱心面に溢れて見え申候 依りて其程の決心ならば是より勉強次第出来ぬ限りにあらざるべし、兎に角周旋致し見んと其日は相別れ申候
其後彼女の様子を其れとなく監視仕候所昼夜熱心に習字読書をなして毫も倦むことあらず候へば、即ち『毎日新聞』によりて承知致候に因み救護方御依頼申上候
彼女は古志郡竹沢字地村原雲八の二女にて名はソヨと申候、明治九年四月生のものに御座候、彼が芸妓中に後日の為とて貯金せしもの五六十円は有之候、其他不必要の晶を売却せば、三十円程の金は得らるべしとの事に御座候、教育とて別に無之仮名綴りの文、又は小説杯は読み得候、身躰は強壮にて年中に病気の為め休みたる如き事は稀なる由にて候(上掲 156-157頁)
〈慰安婦〉
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