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森は語る

http://web.archive.org/web/20071228075326/http://angel.ap.teacup.com/gamenotatsujin/78.html

2006/11/17

「森は語る」  
  

          倉本総が語る「森」

 北海道の冬の森はまるで壮大な展覧会場だ。春,生を受けた生き物達は死に絶えあるいは寝込み,すなわち一切の意識を失った累々たる固体の墓場の上に落ち葉が重ねられ,そして雪が降る。

 夏生きたもの,飛び跳ねたもの,恋をしたもの,出合ったもの,別れたもの,あらゆる感情,記憶が雪にとざされ凍結し眠るとき,冬の神の芸術の季節となる。雪の結晶が何一つとして同じものが無いように神は一瞬の芸術が好き。
 雪と氷の無数の造形,万物が動かず,物言わず死に絶えて木々のこずえにその幹に,芽にそして地表の一切のものにこつこつと丹念に刻み上げる創作,神々の作品は一瞬一瞬が作品であり,あらゆる時が美学を主張する。

原生林の奥の奥
 
倒れた大樹のその上に
 
こけときのこが絵を描いた
 
小さな小さなきのこたち
 
白とピンクの服きてた
 
秋の光を背に受けて
 
水の流れの音楽に小人の国の舞踏会
 
 どろ亀先生「無心」より
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 森は無口である。いつもそう思う。人間がどう扱おうと植物達は何も主張しない。抗議の声さえ上げようとしない。それをいいことに人間はこれまで無為の殺戮を森に対して犯してきた事を思う。森の時計はゆっくり時を刻む。

 人は例えば60年の生を完遂するのに較べ森は3百年,4百年かけてその生を築こうとする。森の時間と人間の時間,そこには大きな開きがあるのだ。どろ亀先生は言う。「森は無口だ。でも耳を澄ませば色々聴こえてくる。ただしただしな,ゆっくり聴くんだ。のんびり森に座ってな。

 あっちの時間に合わせてな。森の時間はゆっくり進む。今度生まれかわったら鳥や狐や狸より,数百年生きる樹木のほうがいいな。森には陰もあり愛もある。激しい戦いもある。だが嘘がない。森の世界,森には何一つ無駄が無い。植物も微生物も一生懸命生きている。」

 学生時代,僕は周囲から本を読め読めと言われた。親からも言われたし教師からも言われた。本に詰まっている無数の知識,それらを詰め込むことが学問することだと思っていた。

 先生はこう言われた。「知識は知識さ。本を書いた奴の知識にすぎないのさ。直接知ること,現実から学ぶこと,それに較べたら本は便利すぎる。便利すぎて残らへん。識っても感動せん。科学も芸術も最初はびっくりすることから始まる。本は買うには買うがしまっとく。とことん観察して最後の最後に本を開くのさ。なるほどな~と感じ入るんだ。学ぶってことは本来そういうもんでないのか。」


 夜の森,それも鬱蒼な緑に覆われた真夏の夜の森の世界は我々の知らぬ別の世界がある。かつてそうした原生林の闇にたった一人で夜を過ごしたことがある。闇の中から様々な物音が風もないのに僕を射つずけた。森に棲むものたちの密かなため息,寝言,息ずかい,囁き,木々たちの呻き,深呼吸,ありとあらゆるものが全てひそやかに静寂の中で交わされる。

 僕は恐怖でまんじりともできず朝の来るのをひたすら待った。明け方,何処かで鳥が鳴き始める。木々の輪郭が静かに浮かび上がり,やがて太陽が梢を染めた時,僕はあらためて愕然としたものだ。太陽のくれる光と熱,その重大なありがたさの意味を自分がすっかり忘れていたことに。

 森の中には神様がいる。春の神は陽気だ。活力にとんでいる。眠っていた木々の一つ一つにおどけた調子でモーニングコールをかける。森の目覚めをトントンとうながす。動物たちはそれを待っている。時計も持たない。テレビも持たない。ニュースもマスコミのお知らせもない。なのに彼等は森の神様がそろそろ木々の芽を吹き出させ,食い物を水を,そして光を誕生のために用意することを何の疑いもなく待ちわびる。
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 すると雪が溶け木々が芽を吹き出す。春から初夏の原生林の森の中は忽ち産院となり,幼稚園となりそれぞれがそれぞれの巣立ちの為に関わって祭りの準備をする。
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 (どろ亀先生は2002年1月87歳で息を引き取った。この番組がNHKで放映された時先生は71歳,倉本総は50歳。どろ亀先生は東京大学農学部名誉教授高橋伸清氏)
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どろ亀先生は哲学者の森有正の著書を愛していました。これは釘宮明美氏による分析です。


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            心の煩悩の火

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            ツインパレード
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