現実逃避妄想
ルルーシュinワンダーランド/その13>
のどかな野原に続く一本道。そこを歩く二つの人影が見える。
前を歩いている人物は、水色のワンピースに白いエプロンドレスという可愛らしい姿をしていた。
その容姿はというと、遠目にも映える艶やかな漆黒の髪に、それによって一層際立って見える透けるような白い肌。
10人いれば10人とも目を奪われる驚くほど整った面立ちに、女性なら溜息ついて羨む細くしなやかな肢体。
何よりも惹きつけられるのは、本物のアメジストさえ只の石ころと思わせる美しく輝く両眼の紫暗。
しかしその瞳は今、見たものを心底震え上がらすような怒りに彩られている。
目だけではない。『彼』は全身から怒りと不機嫌のオーラを撒き散らせ、その感情のまま足を進めていた。
そう、この一見アリスのコスプレをしている人物はかわいい女の子ではなく、もうすぐ青年期を迎えようという大変美しいが18歳の紛れもない男子。
18にもなる男がこんな格好をしていたら、普通は滑稽か気色悪いだけだろうが、彼・ルルーシュにいたってはそれに当てはまらない。
むしろ違和感がなく、見事に似合っている。
ダム戦争を起こした某村のかわいい物好きな某少女が目にすれば、即「お持ち帰りぃ
」するだろう破壊的な可愛らしさだ。
(本人は断固否定するだろうが、本人以外の人間は納得するだろう)
そんな話はさておき、今のルルーシュは自分の格好を気にする余裕がないほど、超低気圧な状態だ。
その原因といえるのが・・・。
「ねぇ、ルルーシュ。ルルーシュってば」と、脇目も振らずズンズン前を行くルルーシュの背後からずっと声を掛けてついてくるもう一つの人影。
「ルルーシュ、いい加減に機嫌直してよ~」
「うるさいっ!ついてくんな!」
あまりにしつこいので止む終えず足を止め、きつい視線で振り返った。そこにいたのは。
日本人にしては色素の薄い茶色のくせっ毛。健康的に日焼けした肌。着やせするが、脱げば女性が釘付けになるような均整の取れた肉体美を持っているくせに、童顔で。
明るく大きな碧の瞳で笑いかけられれば、よろめく異性は少なくないとか。
そんな情報を、彼の同僚で自分の幼馴染であるジノ・ヴァンベルグから入ってくる。
正直面白くない。だが、仕方がないと思っている。
(だって、スザクは誰が見ても惹かれる)
容姿は十分整っていて腕も立つ。男としての技量も申し分ない。それに、優しい。
そんなスザクを女性たちがほっておかないだろう。スザクだって、好意を持たれて嬉しくないはずない。だから・・・。
自分に話はしないが、彼と過ごす時ふとしたことで色々経験を積んできたのだと解る。
特に、初めて彼と肌を合わせたときに思い知らされた。
10歳で別れ、17歳で再会するまでの間、スザクは何人もの女性と付き合ってきたんだろう・・・。
つきんと、胸の奥が痛む。
でもスザクは「僕が愛しているのは、ずっとルルーシュだけ」と、言ってくれる。
嬉しかった。でも。
(俺は本当にスザクにふさわしい人間なのか?)
スザクは早くに両親を失い、孤独な身。だから、家族が欲しいんじゃないだろうか。
自分が心休める場所<優しい家庭>が。
(それなのに、俺は・・・)
自由に外へ出歩くことすら出来ない。好きなときに好きなだけ、側にいることもままならない。ましてや、女性のように子供なんて作れない。
(俺じゃスザクに何も与えてやれない)
だから、何度も思った。自分よりもっとふさわしい女性と、スザクはいるべきなんだと。
でも、スザクが他の女性と・・・。それを想像するだけで、胸が張り裂けそうになる。
スザクが好きだ。だから、手放せない。
ぎゅっと抱きしめてくれる腕が、愛していると言ってくれるその言葉が嬉しくて、つい甘えてしまう。
いけないとわかっているのに。
(ごめん、スザク。でも・・・)
(愛している)
枢木スザクを、世界で一番愛している。
なのに。
「ねぇってば!聞いているの?ルルーシュ」
あきれ風味のすねた口調な目の前の男に、むかむかしてくる。
愛して止まない枢木スザクとうり二つ(いや、頭には猫耳とお尻から尻尾が生えているが)なこいつは、自称「チェシャ猫」。
このおかしな世界で、最初に出会った住人だ。
(くそっ!むかつく)
容姿だけでなく、話し方もスザクそっくりなところがますます腹立たしい。
外見は一部を除いてそっくりだが中身は違う。スザクは初対面の人間をいきなり木に縛りつけ、下着(と言っても実際の下着の上にはいていたかぼちゃパンツだが)を脱がすというハレンチ極まりないことを決してしない。
しかも後から(黒ビキニが)気になって仕方がないから、やっぱりはいててくれと手渡ししてきたのだ、こいつは。
(この、変態猫が!)
スザクの顔で、そんなことを言われた。大切なスザクを汚された気がしてならない。
だから思いっきり張り倒してやったのだが、ちっとも気分が晴れない。
(返されたかぼちゃパンツは、スースーして落ち着かないので不本意だがはいた。そのことが一層ルルーシュの気分を害した)
「お前の顔なんて見たくない!どこか行けって言ってるだろ!」
これ以上一緒にいると、ますますスザクをおとしめされていく。だから、一緒にいたくない。だが、このチェシャ猫スザクときたら。
「でも一人でどうやってウサギ娘を探すの?」
ちょこんと首を傾げられ、ルルーシュはぐっと言葉に詰まる。
「そのコがどこの誰で、どこに行ったか、全然心当たりないんだろ?」
「だから・・・っ、さっさとその心当たりな場所を教えろと何度も言っているだろ!」
チェシャ猫相手にルルーシュの方こそ本物の猫のように、ふーっと威嚇する。
しかし、猫スザクはまったくこたえていない。それどころか、人好きするような満面の笑みで返された。
(ちなみにそれも、ルルーシュが好きなスザクのチャームポイントだ)
「ここは君みたいなかわいい子が一人歩きして無事に済むところじゃないよ?」
そうだったでしょうと、意地悪く碧の目が笑った。
まだ終わってないんですが、長くなったのでここで区切ります。明日またUPしますね。