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岸田さんの記憶

2017年07月04日 00時23分09秒 | 日々の日記
精子提供と無関係なので、興味の無い方はさらっと読み流してください。眠れない夜の、名もない投稿です。

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小さな頃、憧れた職業がある。
海外旅行の添乗員、という仕事だ。
今振り返ると、本気の大人に触れた初めての体験が、たまたま私の場合、海外旅行だったのだろうと、働くようになって確信した。
岸田さん(仮名)、というまだ若かったその女性添乗員は、私が小さな少年だった頃に両親に連れていってもらった初めてのヨーロッパ旅行で我々ツアー客のお世話をしてくれた人だ。クレオパトラみたいな髪型で、空気感は、上智か東外大の外国語学部を卒業しました、という雰囲気の女性。
彼女は国と国を渡る長いバス移動の中、自分で調べてきた世界史やヨーロッパ史を、我々ツアー客の睡眠の邪魔にならない程度の声量で、何百キロ走ってもいつまでも全く変わらないドイツの田舎道の光景に飽きた人のために、マイクでやさしく教えてくれた。
私たちツアー客の誘導など、全ての仕事ぶりから、彼女の仕事への情熱が伝わってきた。子供ながらにそれを感じた。
そして、ツアーの最後の晩餐の時、サマータイムが導入されていた夕陽のパリのレストランで、日本への帰り道だけ同行する添乗員とバトンタッチするにあたって彼女は一言コメントを求められ、号泣した。
本気で準備した旅が終わることに安堵したのと、終わることに寂しさを覚えたのだろう。次の日の朝の、彼女の、バスに乗り込んだ我々への熱い投げキッスが忘れられない。もちろん、彼女はまた泣いていた。
小さな少年の胸には、彼女の仕事への真摯さが鮮やかな感動をもって刻まれた。
それまで身近な大人の仕事しか知らなかった少年には、仕事=お金のために我慢してやらなきゃならない大変なもの、という枠を、岸田さんは自由さをもって打ち砕いてくれたのだ。

責任を背負いながら働く様になって、岸田さんへの共感は深まる。
皆、どんな大人も本気の仕事をしたい。
しかし、叶わない。
いや。叶えない。
多くの場合、ただ、勇気が持てないからだろう。
失敗が怖い。
家族との時間を失うのが怖い。
達成まで長い間稼げないのが嫌だ。
周りから低く見られるのが嫌だ。
理由はいくらでもあるだろう。
今の私もそうかもしれない。

私は岸田さんの様な、人の記憶に残る仕事をしたい。
心からそう思う。
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