ナマハゲ伝説異聞
岩澤 毅（秋田市）
それは昔のことじゃった。
北の半島にあるこの海辺の村では、異国の船が漂着すると、村人は、「宝船が着い
た」と言い表したものじゃった。
村人たちは、老いも若きも爺も婆も総出で、異人を幾らかの細工をし土に返し、積荷
を山分けしたものじゃった。
異人は、体も大きく目の色も違い、体中が濃い毛で覆われていたものじゃが、漂着す
るまでに疲れ果てていて、村人が少し手を加えると最後の眠りについた。
その日は、村人は皆若返り目を輝かせて、まるでお祭りのようじゃった。
曾孫がいる鍛冶屋の佐助のところのイトが子を孕んだと評判になったものじゃった。
宝船の積荷は、城下にも上方にも運び売りに出した。
城下からの帰りには、皆からの言付け物を買い集め村に持ち帰ったのじゃ。
村に帰り着いた日は、城下からの土産を前に村の宴が開かれた。
宴の話は、祭りで誰が何人仕留めたか、誰が最も服をあの色に染めたか、自慢話とホ
ラ話に幾重にも花が咲き、夜がふけても続いたそうじゃ。
ある時、土に還し損ねた異人が、お山に逃げおった。
村人が、総出で山狩りしたが、捕らえられんかたのじゃ。
村人は、この異人を「青目」と呼んだ。
青目は、その後度々村人の食い物を盗み、畑を荒らし悪さをしでかしたのじゃ。
若かった青目は、村長（むらおさ）の長十郎の器量良しと評判の娘のお清をかどわか
し山に連れて行ってしまったのじゃ。
長十郎は、力自慢の若者組頭の権助に、お清を連れ帰れば夫婦にする約束し山に送り
こんだのじゃった。
権助は、帰ってこんじゃった。
そして、四ヵ月が過ぎた頃、それはそれは賢そうな旅の若者が北の国から村にやって
きた。
長十郎は、この太助という名の旅の若者にお清を助けてくれれば、お清を嫁にやり、
村長（むらおさ）を継がせると約束した。
太助は、知恵を巡らし、青目の水場に罠を掛け青目を仕留めたのじゃ。
太助は、長十郎との約束のお清と夫婦になることを望んだが、お清はどうしても承知
せんかった。
長十郎は、思案の挙句太助に亭主を嵐の海で失った若後家のお鈴を娶わせた。
お鈴は、元気者で前の亭主との間に娘を持っていたが、太助との間にも子を孕んだ。
お清は、実家の離れで男と女の双子を産んだ。
男は太一、娘は竜子と名付けられた。
太一の目は、晴れた日の海の色じゃった。竜子は、色白の娘じゃった。
お清は、婿を迎え、控えめながら実家を盛り立て、子供たちを守り育てた。
お鈴は、丈夫な男の子を産んだのじゃ。これが龍じゃ。
村人は、龍の誕生祝いの夜、太助の仕事振りに感謝し、太助をしたたかに酒に酔わせ
た。村人は、太助を村の守り神にした。太助は、子供たちに思いを残しながら、神に
なった。
お鈴は、丈夫な子を産めるおなごと重宝された。
龍は、体の大きな子じゃった。
村長は、毎年正月三日に、十五歳になる男と十二歳になる女を集め語り聞かせ大人の
村人として迎えるのを習わしとしていた。
「この村は、豊かな海と山がある。皆が、日々真面目に力を合わせ働けば、困ること
は無い。宝は、海の向こうからやってくる。災いもまた、やって来ることがある。流
れ者余所者は、いずれ村に災いをもたらす。村を守るのは、村で生まれ育ったお前た
ちだ。しかし、お前たちの力だけでは足りないものがある、村の強さを絶やさないた
めに、大きく丈夫な選ばれた血筋の種をこの村に接木していくことだ。お前たちも、
今日から大人の村人として、この村を守る仲間になるのだ。」
太一と龍は逞しく成長し、若者組の組頭と副組頭になった。
それは雪の何時までも降り続く夜じゃった。
太一と龍は、いつのまにか知った互いの父の話をした。
「十五歳の日に聞いた、村の掟は確かに正しい。村を守らねば」
「しかし、何時までこれを繰り返すのだろう」
「何時か、海の向こうに行きたいな」
「俺たちの内の一人は、海を渡り別の掟に生きよう。そして、一人が村を守ろう。」
次の夜、また宝船が浜に着き、太一と龍は我先にと鉈を振るい服をあの色に染めた。
村人は、幾人もの異人のために祠を建てて、毎年二百十日にお参りした。
村は、代々そこで生まれた子供たちの手で、末永く栄えた。
幾人かの青目と太助の魂は、大晦日の夜、山から里に降り、村のおどさんの体を借り
て子供たちに会い、村人に愛される子供そして大人となれよと伝えた。
そして、今日に伝わるナマハゲ伝説が生まれた。
海の向こうに消えた、若者の話は伝わっていない。
ぽっぴんぱらりのぷー。
2005.04.11記
岩澤 毅（秋田市）
それは昔のことじゃった。
北の半島にあるこの海辺の村では、異国の船が漂着すると、村人は、「宝船が着い
た」と言い表したものじゃった。
村人たちは、老いも若きも爺も婆も総出で、異人を幾らかの細工をし土に返し、積荷
を山分けしたものじゃった。
異人は、体も大きく目の色も違い、体中が濃い毛で覆われていたものじゃが、漂着す
るまでに疲れ果てていて、村人が少し手を加えると最後の眠りについた。
その日は、村人は皆若返り目を輝かせて、まるでお祭りのようじゃった。
曾孫がいる鍛冶屋の佐助のところのイトが子を孕んだと評判になったものじゃった。
宝船の積荷は、城下にも上方にも運び売りに出した。
城下からの帰りには、皆からの言付け物を買い集め村に持ち帰ったのじゃ。
村に帰り着いた日は、城下からの土産を前に村の宴が開かれた。
宴の話は、祭りで誰が何人仕留めたか、誰が最も服をあの色に染めたか、自慢話とホ
ラ話に幾重にも花が咲き、夜がふけても続いたそうじゃ。
ある時、土に還し損ねた異人が、お山に逃げおった。
村人が、総出で山狩りしたが、捕らえられんかたのじゃ。
村人は、この異人を「青目」と呼んだ。
青目は、その後度々村人の食い物を盗み、畑を荒らし悪さをしでかしたのじゃ。
若かった青目は、村長（むらおさ）の長十郎の器量良しと評判の娘のお清をかどわか
し山に連れて行ってしまったのじゃ。
長十郎は、力自慢の若者組頭の権助に、お清を連れ帰れば夫婦にする約束し山に送り
こんだのじゃった。
権助は、帰ってこんじゃった。
そして、四ヵ月が過ぎた頃、それはそれは賢そうな旅の若者が北の国から村にやって
きた。
長十郎は、この太助という名の旅の若者にお清を助けてくれれば、お清を嫁にやり、
村長（むらおさ）を継がせると約束した。
太助は、知恵を巡らし、青目の水場に罠を掛け青目を仕留めたのじゃ。
太助は、長十郎との約束のお清と夫婦になることを望んだが、お清はどうしても承知
せんかった。
長十郎は、思案の挙句太助に亭主を嵐の海で失った若後家のお鈴を娶わせた。
お鈴は、元気者で前の亭主との間に娘を持っていたが、太助との間にも子を孕んだ。
お清は、実家の離れで男と女の双子を産んだ。
男は太一、娘は竜子と名付けられた。
太一の目は、晴れた日の海の色じゃった。竜子は、色白の娘じゃった。
お清は、婿を迎え、控えめながら実家を盛り立て、子供たちを守り育てた。
お鈴は、丈夫な男の子を産んだのじゃ。これが龍じゃ。
村人は、龍の誕生祝いの夜、太助の仕事振りに感謝し、太助をしたたかに酒に酔わせ
た。村人は、太助を村の守り神にした。太助は、子供たちに思いを残しながら、神に
なった。
お鈴は、丈夫な子を産めるおなごと重宝された。
龍は、体の大きな子じゃった。
村長は、毎年正月三日に、十五歳になる男と十二歳になる女を集め語り聞かせ大人の
村人として迎えるのを習わしとしていた。
「この村は、豊かな海と山がある。皆が、日々真面目に力を合わせ働けば、困ること
は無い。宝は、海の向こうからやってくる。災いもまた、やって来ることがある。流
れ者余所者は、いずれ村に災いをもたらす。村を守るのは、村で生まれ育ったお前た
ちだ。しかし、お前たちの力だけでは足りないものがある、村の強さを絶やさないた
めに、大きく丈夫な選ばれた血筋の種をこの村に接木していくことだ。お前たちも、
今日から大人の村人として、この村を守る仲間になるのだ。」
太一と龍は逞しく成長し、若者組の組頭と副組頭になった。
それは雪の何時までも降り続く夜じゃった。
太一と龍は、いつのまにか知った互いの父の話をした。
「十五歳の日に聞いた、村の掟は確かに正しい。村を守らねば」
「しかし、何時までこれを繰り返すのだろう」
「何時か、海の向こうに行きたいな」
「俺たちの内の一人は、海を渡り別の掟に生きよう。そして、一人が村を守ろう。」
次の夜、また宝船が浜に着き、太一と龍は我先にと鉈を振るい服をあの色に染めた。
村人は、幾人もの異人のために祠を建てて、毎年二百十日にお参りした。
村は、代々そこで生まれた子供たちの手で、末永く栄えた。
幾人かの青目と太助の魂は、大晦日の夜、山から里に降り、村のおどさんの体を借り
て子供たちに会い、村人に愛される子供そして大人となれよと伝えた。
そして、今日に伝わるナマハゲ伝説が生まれた。
海の向こうに消えた、若者の話は伝わっていない。
ぽっぴんぱらりのぷー。
2005.04.11記
