JIMTEFレポートNO.5 2016.7
歯科技工に関する国際医療協力
JIMTEF評議員
公益社団法人
日本歯科技工士会会長
杉岡範明
はじめに
美味しく食事をし、健やかに暮らすことは、世界共通の願いです。
わたしたち歯科技工士は、お口と歯の健康を支える失われた歯の一部分や歯の形や機能を回復し、見た目を損なわないようにする仕事、歯科補綴装置等を作る仕事を、歯科医師の指示のもと専門的に行っています。歯科補綴装置等にも影響される歯の噛み合わせは、全身のコンディションにも影響を与えると言われ、現在研究が加速しています。
「明眸皓歯」(めいぼうこうし)という言葉があります。「美しく澄んだ目もとと、白く美しい歯並び」という意味ですが、もともとは非業の死を遂げた楊貴妃をしのんで唐の詩人・杜甫(とほ)が作った詩の中に出てくる言葉で、楊貴妃の美貌を形容したものだそうですが、「眸」は瞳、「皓」は白くきれいなことです。
この言葉からも、歯と歯並びが、人の印象を大きく左右する大切なものであり、また、憧れの対象であったことが理解できるのではないでしょうか。
日本における歯科技工の歴史
日本における歯科技工の歴史は、森林資源が豊富な気候風土を背景に、木床義歯と呼ばれる技法の独自の発展を遂げたことが特徴とされています。この木床義歯は、木(黄楊(つげ),梅,黒柿)を用いて、義歯床と人工歯をノミや彫刻刀等で削って(木彫)作ったものです。
この義歯の技法の発明者や発明時期等の詳細な不明ですが、顎の印象に使う蜜蝋が7世紀に仏教とともに渡来し、その仏像の鋳造時の鋳型用に用いられたことや、仏像彫刻用のノミ等の器具が開発され、木彫仏が盛んに、大発展した平安朝の時期と一致していることや、その頃、僧侶やその関係者の使用した義歯が数多く発見されていることから、仏師によって始まったものと考えられています。
江戸時代に入ると、仏師にかわり入歯師と呼ばれる専業者があらわれ、より広く人々に普及しました。現存するわが国最古の木床義歯は、1538年(天文7年)ごろ、尼僧仏姫(ほとけひめ)(和歌山市願成寺)の用いた上顎、黄楊(つげ)の木で作られたものがあります。
その後、明治に入り、西欧よりゴム床(蒸和ゴムで作る)義歯の技術が伝わり、明治、大正、昭和とさらに発展を続け、産業としての基盤も整い、国民皆保険制度での歯科補綴の給付を見据え、資格の法制化がなされました。
(第18回アジア・太平洋地域歯科技工士連盟協議会 写真)
公益社団法人日本歯科技工士会の国際交流事業
公益社団法人日本歯科技工士会(以下、日本歯科技工士会)は、この歯科技工士による全国組織です。1955年の創立以来、関係行政や関係諸団体と連携し国民歯科医療と口腔保健の向上のための事業を展開しています。昨年、法制定・日本歯科技工士会創立60周年を祝うことが出来ました。
国際交流事業の面では、中国、台湾、韓国、マレーシア、フィリピン、日本の6か国の歯科技工士団体とアジア・太平洋地域歯科技工士連盟協議会として活動し、昨年10月には福岡で「第18回アジア・太平洋地域歯科技工士連盟協議会」を開催しました。活動内容は、各国の教育制度、試験制度、免許制度、技術料等の比較調査などの情報交換が主なものとなっています。
JIMTEF災害医療事業へ積極参加
日本歯科技工士会は、公益財団法人国際医療技術財団(以下、JIMTEF)の会員として、また私が財団評議員として、参加させて頂いています。また、JIMTEF災害医療研修への役員・会員の計画的な参加を進め、大規模災害発生時の多種多様な状況に適切に対応できる技術・知識を有する地域のリーダーとなる歯科技工士の育成を図っています。
ベトナム最大の歯科病院とMOU(覚書)締結
日本歯科技工士会では、事業の一つとして国際交流を掲げ、昨年は、JIMTEFにお世話になり、ベトナム社会主義共和国に視察団を派遣しました。この成果は、JIMTEF、日本歯科技工士会、ベトナム社会主義共和国立歯顎顔病院との間で「歯科技工術分野協力に関する協定書」の締結として結実しました。
今後は、JIMTEFの協力のもと、外務省NGO事業補助金等へ申請を行い、調査活動費予算の獲得等進め、ベトナム国内の歯科技工の現状、ニーズの把握等に努め、具体的支援計画の策定し、国際協力活動を精力的に展開してまいる所存です。
国際歯科技工技術協力 始動
2016年度は早速、日本の歯科技工士をホーチミン、ハノイへ派遣し、MOU締結機関の院長はじめ歯科技工専門家を日本へ招聘し、2017年3月には首都ハノイにて国際セミナーを開催予定です。
歯科技工の技術の普及は、各国の経済の発展段階や歯科医療の普及度、社会保障制度等の様々な条件により左右されます。他国に先行し歯科技工技術を発展させ、関連する産業を育てた国として、双方の国民にとって有益で実りある国際貢献に向け、取り組んで行きたいと思っています。