
『日本歯技』2016年7月号巻頭言
価値創造
最近、“今までなかった価値を創る”という意味で「価値創造」という言葉をよく耳にする。そもそも価値も個々の主観であって、誰もが均一した価値を感じるものではなく、絶対的な価値は存在しないと言われている。では、そのような価値をどのように創造するのか。価値創造という語源と最も関わりのある企業のマーケティング等の専門書には数々の方法が示されている。それらが歯科技工士にも役に立つことが多々あるように思う。
例えば、製作した歯科技工物の価値の伝達方法もその一つではないだろうか。日本の歯科技工が世界トップクラスと言われるのは、熟練の技とも言うべき技術の部分はもちろん、しっかりとした理論に基づき製作されているものだからである。しかしながら、一部の歯科技工士は、それらに注がれた技術や理論を伝達するのが苦手で、製作した歯科技工物のメリットや技術的背景を十分に伝えていないと感じる。この部分を高めることができれば、それは歯科技工における一つの価値創造になるのではないか。
日本歯科技工士会の公益目的事業の一つに国際貢献事業があり、現在“日技新発展『7』プラン”の外部組織交流戦略の中で「開発途上国への歯科技工技術支援の展開」という施策を掲げている。これまでも公益法人の社会貢献事業として海外から歯科技工士研修生を受入れてきたが、今後は、熟練した歯科技工士を当該協力員として組織内に登録し、相手国の要請に応じて派遣するという施策である。これも価値を伝える相手を変えることによる価値創造ではないだろうか。
島国であった日本も、インターネットや衛星放送を通じてグローバル化が進み、瞬時に海外の出来事や情勢を知ることができる。昔では考えられないほどに、地球が狭くなっているとも言える。これからの時代を担う若者には、最新の技術や理論をいち早く吸収し、それらを先人たちが築いてくれた技術や理論、教育に上乗せして、日本の歯科技工の価値を、日本国内に留まらず世界に伝えていってほしい。それが歯科技工の新たな価値創造に繋がるのではないだろうか。伝える方法や伝える相手を変えることにより、日本の歯科技工の価値を届けてもらいたいと願う。