君の微笑みを護りたい（DQ6）

＜君の微笑みを護りたい＞



「何だかさ、最近モンスターが戦闘中にうっとりと眠りに堕ちる事が多くない？」

ある夕食時、皆で食事を採っている最中、イザークが皆に話し掛けた。
フォークとナイフをきちんと扱いつつも庶民のような気安さで変わらず接してくるレイドック王子に、皆食事の手を止め注目する。
此処はレイドック兵士も良く利用するレストランなので、ある程度の大きさのモンスターも出入り可能になっている。
現在連れているのはドラゴンのドランゴにホイミスライムのホイミンだ。
同じテーブルでは無いものの、すぐ横で食事を採っている。
人語を解する二匹もイザークの方を見詰めている。
しかし、イザークの質問に、その場にいたパーティメンバーは呆気に取られた後、お互い目配せをして、それぞれ口を開いた。

「今更気付いたのか。ホントに天然だな、お前」

バカバカしいと言わんばかりにさっさと食事を再開するテリーに、少年のようにイザークが頬を膨らませる。

「何だよ～、じゃぁ、テリーは理由が分かってるの？」

ちらと横目でそれを見るテリーの頬が仄かに赤いのは気のせいだろうか。
首を傾げるイザークを他所に今度は親友と自負するハッサンも同意する。
今度はイザークがきょとんとした。

「え？俺も理由、分かってるぞ？」
「イザークさん、気付いて無かったのですか？」
「まぁ…、うっかりさんね」
「えっへへ、私は勿論分かってるもんね～！」

チャモロが驚きつつも、イザークの自尊心を傷付けないように慎重に言葉を選んで気遣った。
口許を押さえミレーユも目を細め微笑んでいる。
「自覚が無さ過ぎるのも困ったものね」と囁くがイザークには聞こえない。
バーバラも「お行儀が悪いわよ」とミレーユに叱られつつもフォークを振りながら軽くウィンクして主張してきた。
それどころか、モンスターさえ自分達も分かっているとアピールしているのだ。

「ガルルルルル…（嬉しそうに尻尾をズバンズバン地面に打ち付けて）」
「キュピプル～！（くるくるとその場でふわふわ回転し）」

イザークは自分だけが知らなかったのだと改めて自覚させられて、肩を落とした。
これでパーティリーダーを務めているのだからと情けなくなって来る。
すっかりしょげてしまったレイドック王子にパーティメンバーは慌てた。
凹ませるつもりは全く無かったのだ。
寧ろいつも明るい太陽のような王子に戻って欲しい。

「モンスターは誰かさんが余りにも魅力的過ぎて、うっとりして眠くなるのよ？」

狼狽するメンバーに代わっていつも冷静なミレーユが、助け舟を出した。
自己嫌悪より好奇心が勝ったイザークは、魅力という言葉に「え？でも今誰もスーパースターの職業をやってないよね？じゃあ、一番魅力があるミレーユかテリーなのかなぁ」とぶつぶつと独り言を言いつつ首を傾げている。
その様子を見て、パーティメンバー達は、大きく溜息を吐いて会話を始めた。

「これだから…一人に出来ないんだよなぁ…この天然王子サマは」
「全く…自覚が無さ過ぎる」
「でも、それもイザークさんの良い処です」
「いつかそのうち人間にも掛かりそうで怖いよね～」
「あら？既に掛かっている人が何人か居るんじゃなくて？」
「ガル～ガル～！（うんうんと何度も頷いている）」
「キュピ～！キュキュル～！（ふわふわと何度もその場で浮き沈み）」

自分を置いてきぼりにして会話を続けるパーティメンバーに、またイザークが頬を膨らませ剥れる。

「だ～か～ら～！何の事だよ～！僕にも教えてよ～！」

かっこよさの数値とは別にして、この天然で愛らしい王子にパーティメンバーもモンスターも惹かれてしまうのだ。
その春の日差しのような温かなオーラに、心が和み光で満たされてしまうのだ。
本人だけが知らない魅力。
王子に生まれついた者の天性の魅力。
勇者になる事を強いられた心優しい少年は、仲間達と共に生死を賭けた数々の冒険を経て、強さも併せ持った真の救世主へと成長しつつある。
そして命を賭けてでも護りたいと思える程、大切だと思わせる何かを持っているのだ。
誰も質問に答えてくれないと諦めたのか、イザークが唇を尖らせつつもぽつりと呟く。
だから、この王子を放っておけないのだ。皆が微笑む。

「でも、あんなに気持ち良さそうに眠ってると攻撃し辛いよね」



＜了＞



------------------------------------------------------------


イザークはうちは天然で、皆から可愛がられていました。
DQ11の主人公はどんな子なんでしょうね、楽しみです。