概要にも記載しましたが、これは「転生學園幻蒼録(2004年)」の続編、
「転生學園月光録(2006年)」という「魔人学園」に似たゲームのマイナーCPの話です。
ご存知の方がいらっしゃったら嬉しいです。※追記:タイトル変更しました。
腐の露骨な表現もありますので、閲覧には充分注意して下さい。
大丈夫な方のみ下へスクロールしてご覧下さい。
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<この瞳に君を映したい>
剣持昴生(けんもちこうせい)は月詠学園のSGコース訓練施設であるBITルームへ一足先に来ていた。
他の訓練生は死と隣合わせである天魔との闘いに緊張感が無く、
奴等を屠るのに真剣みが足りていない。
彼等は天魔を憎み切っている自分と同じ訓練生でありながら、全く目的も意識も異なっていた。
勿論、天魔に虐殺されてしまった人の為、人に仇なす天魔を屠る使命の為という意義は頭では理解しているだろう。
しかし、闘いに身を置く実感というものを恐らく彼等は出来ていないのだ。
多少の怪我は負った事はあるだろう。
しかし大切な者を失った事もなく、何かを犠牲にしてまで天魔に対して憎悪を抱く、
そんな思いを彼等は想像だに出来ないだろう。
そんな彼等でもチームの仲間である。
未熟な自分だけでは鎮守人(しずもりびと)のように単独で天魔を屠る事は出来ない。
その為チームで連携し天魔と闘うしかないのだ。
剣持に取ってSGコースの仲間は、天魔と闘う手段に過ぎなかった。
だから馴れ合う必要も無いし、一緒にBITルームへ向かう等というお友達ごっこには辟易していたのだ。
剣持は古い家の生まれで、幼い頃から剣とお茶、舞踊などを習い普通の高校生とは異なる世界で生きて来た。
しかし、ある日突然一家は天魔の急襲に遭い、両親も同じ剣を学んだ門下生全てを虐殺されたのだ。
道場で稽古をしていた剣持は彼を庇うように覆い被さって来た兄弟子達に護られ、天魔の虐殺から逃れたのだ。
一人残され真っ赤に染まった白い胴着や袴に、狂ったように泣き叫んだのを昨日の事のように思い出せる。
あれから鎮守人に導かれ、天魔を倒す鎮守人になる為の訓練施設がある月詠学園SGコースへの編入を果たした。
既に正規の鎮守人では無いものの、学生の身でありながら訓練も兼ねて週に何回も出動しては天魔を倒している。
しかし剣持は天魔を鎮める為の力「験力(げんりき)」に目覚め、
その象徴とも言える「魂神(たまがみ)」も発現させてはいるものの、
まだまだ戦闘の経験値が足りなかった。
若さと適用力、そして冷静な判断力で若干1年生の身でありながら小隊のリーダーを任される迄にはなっていた。
しかし剣持は満足していなかった。
それは自分達SGコースの教官である京羅樹の実力を垣間見ているからだった。
京羅樹崇志は月詠学園SGコースの卒業生で、
姫宮学園長や教師でもある御神達とチームを組んで天魔を闘い続けていたと言う。
今は月詠学園の大学院の院生であるのと共に、このSGコースの教官を務めている。
22歳と言うには若いしなやかな身体を持ち、灰金髪を短く清潔に刈り込んでいる。
装飾品や古着集めが趣味という事もあり、女生徒からかなり熱い支持を得ていた。
経験豊かな教官であり、目指すべき師。
剣持に取って、京羅樹はただそれだけの存在だった。この日迄は。
BITルームに入るとすぐミーティングルームになっている。
ミーティングルームから、それぞれシュミレーションルームに入る為の廊下へ続くドアと更衣室やシャワールーム・
リラックスルームへ入る為の廊下へ続くドアがある。
この時間はまだ訓練生も教官もいない。
しかしBITルームのドアを開けると既にミーティングルームの電気が点いていた。
不審に思い誰かが既に訓練をしているのかとドアの灯りを確認する。
しかしシュミレーションルームへのドアも更衣室へのドアも点いては居なかった。
3つあるドアの内の最後のドアは教官や学園長などが入る管理部屋へ続くドアだった。
そのドア1つだけが灯りが点いていたので既に京羅樹教官か、
御神教官が来ているのかと剣持は軽くそのドアをノックして廊下に入った。
廊下から更に管理部屋と教官達が使う教官部屋のドアがある。
時間が早いので、シュミレーションルームを1つ起動させて貰おうと剣持は躊躇いもせず、
教官部屋のドアをノックし、返答も確かめずにドアを開けた。
「あっ…ぐ…、う…ぁ…」
しかし其処にはいつもの軽口で挨拶を返してくる筈の教官達の姿は無く、
苦しげな呻き声しか返って来なかった。
無表情のまま剣持はその声の主を視線だけで探す。
彼は椅子と共に倒れ込んだのだろう、地面に転がって苦しそうに身悶えていた。
短い灰金髪の髪が地面に擦れている。
「京羅樹教官!」
剣持は駆け寄り強引に身体を抱き起こした。
しかし京羅樹は頭痛が酷いのか、身体に激痛が走るのか、
頭を抱え込んだり背を逸らし大きく身を捩ったりして、苦しみ方が尋常では無い。
剣持は混乱し、ズボンの後ろポケットに入った携帯電話を引き摺り出した。
京羅樹が死んでしまうのではないかという焦りに背筋が凍る。
両親や兄弟子達が殺された夜の悪夢が脳裏で繰り返され無表情の顔を能面のように白くした。
しかし火のように熱い手がその動作を止めた。
顔を上げると色の濃いゴーグルの向こう、視線の定まらない視線が剣持の視線を必死で探していた。
「…救急車は…NO Thanksだ。昴生…」
荒い息を必死に吐き出し京羅樹が剣持に寄り掛かって来る。
先程はその身から逃れようとしていたのがやっと分かった。
何から必死に逃げようとしていたのか、一瞬疑問が過ぎるがそんな暇は無かった。
「悪ぃけど…そこのソファまで連れてってくれ…」
脚の覚束無い京羅樹を支え、何とか接客用の3人掛け長ソファに寝かせるとブランケットを見付け、身体に掛けてやる。
荒い呼吸は先程より落ち着いては居たが、頭痛と身体を走る激痛に、
時たま身体を揺らしながら京羅樹はひたすら、何かの波が去るのを必死に耐えているようだった。
色が濃いゴーグルは強化されているとは思えたが、割れた場合の事も想定して念の為外し机に置いてくる。
苦しいのか、金にも見える薄い色の瞳は苦しげに閉じられていて、
汗と共に生理的な涙が目許に滲んでいた。
剣持は中々高まらない験力の強化の為に、ある生体実験に協力した。
その代価が感情の欠落だった。
喜怒哀楽全てを失い、任務最優先の意識は仲間に非情な印象さえ与えていた。
その自分が抱いた感情。
剣持は呆然とするのと同時に感動していた。
京羅樹が苦しむ姿を見て男として欲情したのだ。
自分は男で相手も男で、自分は訓練生で相手は教官で、
相手は病人で自分は感情など既に失っている人間で。
どんな立場で考えても京羅樹を見て、綺麗だとか、
抱いて大丈夫だと言ってやりたいなど思う自分の感情は考えられなかった。
とても普通ではない。
「…昴生…。驚かせて…悪かったな。後少しで…大丈夫だ…。シュミレーションルーム、
使いたかったんだろう?あとの奴等が来る頃には…起きれるまでにはなるから…」
額や首に汗の玉を浮かべ、熱でも出ているのか頬を上気させる京羅樹は、
確かに誰が見ても扇情的だった。
熱い吐息を漏らし、儚そうに微笑む表情や乱れた着衣は、誘ってるとしか思えない。
しかし剣持は誘われたからと言って、今の京羅樹を組み敷く程、非常識な男ではなかった。
「…初めてではないんですね」
小さく目を見開いた京羅樹に剣持は確信した。
しかし深く追求はしなかった。
以前、自分と同じように彼等、元SGコースの卒業生は人工的に験力を植え付けられたと自分に実験を行った研究者に聞いていた。
人工的に験力を高めると何かの代償を払う事になる。
それは他の現役訓練生は勿論知らない事だ。
必ず濃い色付きのゴーグルを掛けている事から京羅樹の失った代償は目であると剣持は感じていた。
しかし恐らくは盲目に近い境遇でありながら京羅樹は、その高い験力で日常生活ばかりか戦闘でも支障を来たしていない。
自分が験力を上げる為の見本、協力者という認識ではあったとしても、
少なからず剣持は京羅樹を評価していたし、尊敬もしていた。
その京羅樹に抱いたあるまじき感情。
「誰にも言いません。その代わりキスしていいですか?」
京羅樹は一瞬何を言われたか分からないといった表情をした。
呼吸は殆んど正常に戻って来てはいたが、まだ起き上がり冗談を言うなと小突く程の体力は無い。
それに剣持が冗談など言う筈も無い事は分かっていた。
「昴生。その発言に責任は持てるんだろうな?」
取り戻して来た教官としての余裕で京羅樹は不敵ににやりと笑って見せた。
京羅樹はそのルックスで学生時代はかなり派手な生活をしていたらしい。
初めて姫宮学園長に紹介された際、女子訓練生に手を出さないように釘を刺されていた位だ。
ベッドの経験どころか、キスの経験も無い剣持に京羅樹を口説き落とす自信は無い。
しかしそんな事はどうでも良かった。
今、此処で苦しむ京羅樹の傍に居て、彼の柔らかそうな唇を自分の物にしたかった。
一人、人知れず苦しまなくていいと行為で示してやりたかった。
黙って頷く。
身動き出来ないのもあるし、口封じの意味でもある。
京羅樹は小さく溜息を吐いた。
しかし、内心まるで少女のように鼓動を逸らせていた。
幼馴染である彼と重ねてしまう剣持を贔屓しないようにと意識しながら今迄影でそっと見守って来た。
その剣持が冗談ではなく自分にキスしたいと言うのだ。
副作用の発作を見られた不甲斐無さもあったが、それ以上にキスさせろと言われた事に混乱していた。
それはまるで研究の為、異国に行ってしまった彼に言われているかのようで、
頬が更に上気してくる。
気付かれまいかと必死になりながらも、軽口で答える。
「OK。じゃ、来いよ」
そっと腕を伸ばし冷たい剣持の頬に手の平を添えてやる。
せめて経験豊かな自分が主導権を握りたい。
京羅樹の最後の抵抗だった。
しかし重ねられた唇に暫く経つと京羅樹がびくと身体を揺らした。
「んっ…んぅ…っ!やっ…止め…っ…!昴…生…!」
剣持の余りものキスの旨さに京羅樹は身の危険を覚え、必死にその手から逃れようとした。
しかし後頭部に大きな手を回され顔を固定されてしまっている。
口腔を執拗に這い回る舌に京羅樹は剣持が自分以上の性の才能の持ち主であると実感させられる。
何の知識もなく本能のままに此処まで自分を蕩けさせてしまうキスをするのだ。
キスして数分で京羅樹は全面的に降参する事になる。
ぴくんぴくんと腕の中で可愛い反応をする京羅樹に剣持は満足し、
やっとその腕から解放した頃には京羅樹はすっかり意識朦朧になっていた。
「…おま…え…。俺が病人だって事…忘れてないか…?」
口の端から呑み切れなかった唾液が筋を作り、白い首筋に零れている。
感じてしまったのか目許を薄っすらと赤くして、弱々しく睨み付けてくる表情はかなり色っぽい。
剣持は更に口付けようとした。
「待っ…!こら!調子に乗るな!」
やっと体力が戻って来たのだろう。
京羅樹は咄嗟に身を起こしコツンと剣持の頭にゲンコツをした。
相変わらず無表情であるが殴られた頭を片手で擦り剣持は京羅樹を見返して来た。
そして直球に質問をしてくる。
「教官は俺のこと、嫌いですか?」
天然にそのまま聴いてくるのは本当に彼と同じで京羅樹は呆気に取られ
微苦笑すると脱がせて貰っていた靴を履き直してから答えを待つ5歳下の少年を見上げる。
感情の無い瞳、色素の無い銀髪にも見える金髪。
纏う雰囲気は違うものの、剣持は京羅樹の幼馴染、飛河薙に似ていた。
飛河は5年前の闘いで失っていた感情の一部を取り戻し、それから徐々に昔の自分になりつつあるという。
しかし京羅樹の失った視力は悪化する一方だった。
今ではぼんやりと誰かが居るのが分かる程度しか見えない。
剣持の姿も高い験力で認識しているのである。
飛河と同様に感情を失ってしまった剣持を京羅樹は治してやりたいと常に思っていた。
肉体が代償だった自分は駄目だったが飛河同様、感情が代償だった彼にもきっかけさえあれば治る可能性があるのだ。
それは人との交友が大きく関係している。
飛河には月詠学園の姉妹校、天照館高校の伊波飛鳥と関わった事が大きな要因だった。
そういう人物が剣持にも現れて欲しいと心から願っていた。
彼が興味を示し、心を開く事が出来る存在。
京羅樹は先週交換留学生として天照館高校から転入して来た伊波と同じ雰囲気を持つ少年、
草凪八雲がそうだと思っていた。
「まさか…俺とはね…」
独り言を呟くと京羅樹は素早く計算し、いつもの余裕がある笑顔で剣持の額をピンと人差し指で弾いた。
剣持は通常見せる事の無いきょとんとした歳相応の表情で京羅樹を見返して来た。
「そういう野暮な事は聴かない。そん位自分で考えろ」
先程まで倒れていたとは思えない位の軽い身のこなしで、
京羅樹はソファから立ち上がるとバインダーに各訓練生のデータを挟み込んで行く。
剣持は同じく立ち上がると京羅樹の背後から囁いた。
背中を見せたまま京羅樹は大きく目を見開く。
それは伊波にも飛河にも、もう一人の幼馴染である御神にも呼ばれた事は無い。
元チームメイトの姫宮にも鳳翔にも呼ばれた事も勿論無い名前だった。
「崇志。二人の時はこれからそう呼びます。それが答えでしょう?」
「さぁな」
微笑む笑顔は背中ごしの為、剣持には見えない。
しかし京羅樹の真意に剣持は気付いた。
七人居る訓練生の中、京羅樹が名前で呼んでいるのは剣持だけだ。
しかし訓練生としての扱いは特別にはしていない。
しかし京羅樹が剣持を以前から優しく見守ってくれていたのに、剣持は気付いたのだ。
姫宮に何と言い訳しようと京羅樹は考えながら、BITルームのミーティングルームに向かって部屋を出て行った。
二人が相思相愛になるのはもう少し後の話である。
<了>
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もうこのゲームを知っている人は誰も居ないんじゃないかと思ってしまいます。