これは、我が本丸の審神者、東雲千尋(しののめちひろ)と蜻蛉切のSSです。
BLでは有りませんが、腐的表現が有りますので、苦手な方は自己回避でお願いします。
大丈夫な方のみ下へスクロールしてご覧下さい。
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<想いは春風にのせて>
夕刻。出陣からの帰還により、本丸の門にて豪快な声が響き渡る。
「皆の者!主のご帰還である!」
毎回の事ながら審神者である東雲千尋は焦って止めようとする。
「蜻蛉切さん。休んでいる刀剣男士だっているかもしれないので、大袈裟にしないで下さい」
「しかし。主のご帰還は皆、知りたい事かと存じます」
「え、でも、静かに帰らないと、」
毎回の事なので、千尋は少し懲らしめようかと蜻蛉切のもみ上げをくいっと軽く引っ張った。
驚いた蜻蛉切は、その意図は分からず混乱した。
「あっ・・・主!何故モミアゲを引っ張るんですかっ」
「静かにして貰わないと皆が来たら・・・二人切りの時間、減ってしまいますよ。」
耳元でぼそりと千尋は囁くと、自分の甘言に頬を紅潮させ、俯いてしまう。
幾ら朴念仁の蜻蛉切でも、主に其処まで言わせて気付かない程、鈍感では無い。
「そ・・・そうでございますな。はは。では、静かに参りましょう。
お部屋に戻られましたら、この前買っておいた葛切りでも如何でしょうか」
「はい、一緒に食べましょう」
二人は互いに見詰め合ってほわっといい笑顔を浮かべていた。
背後でその光景を見ている第一部隊四振りは「げな~ん」としながら大きな溜息を吐いた。
「これ、毎回やられてるけど、僕は飽きないなぁ」
その中で唯一溜息を吐かなかった髭切が、微笑みながら二人の遣り取りを見続けている。
しかし、丁度良く次郎太刀が突っ込む。
「一回だけならマシだけど、毎回よ!もう見飽きたわよ!全く羨まけしからん!
あたしだって、主とお茶したい!寧ろお酒飲みたぁい!」
「僕は顕現したばっかりだけど、これを毎回観るのか。苦行だね」
これは顕現したばかりで特昇進を目指す日向正宗。初めてらしくまじまじと見入っている。
「「あぁ・・・もう好きにしてくれ・・・」」
山姥切国広と巴形薙刀は無の境地に達したようで、表情が無い。ある意味重傷のようだ。
「わたしだって主に活躍を観て貰うしかないのは寂しいぞ」
巴形薙刀は柳眉を潜めてまた大きな溜息を吐いた。
部屋に戻った千尋は正装を解き、軽装の姿に着替えていた。
暫くして同じく内番の格好に着替えた蜻蛉切が大きな身体で小さな盆を持ってやって来た。
「主。先程話した葛切りを持って参りました。入っても宜しいですかな」
「はい、蜻蛉切さん。着替えましたので、どうぞ、入って下さい」
蜻蛉切は、豪快な槍捌きとは見間違えるかのように、内番の際は器用に何でも熟した。
この葛切りもそうだ。
綺麗に三角に切り分けられ老舗の料亭の水菓子かのように皿に盛り付けられている。
千尋は、蜻蛉切のそんな処が好きだった。
二人の兄を思い出されるからだ。
豪快でも涙脆い長兄と、分析家のように冷静でありながら大胆な次兄。
一真と二海はそんな兄達だった。
二人を一人にするときっとこんな感じなのだろうなと蜻蛉切を見ていると思うのである。
「美味しいですな。主」
「はい。あ、そうです。蜻蛉切さん」
「何でしょう」
「髪の毛を梳かしてもいいですか」
蜻蛉切は大柄ながら器用に小さな皿から葛切りを食べていたが、
主からの拍子抜けしたお願いに、目を何度も瞬きしていたが、やがて小さく頷いた。
「それは構いませんが、こんな痛んだ髪を梳いて頂くなど悪い気がします」
「僕がしたいんです。我が儘に付き合っては頂けませんか」
蜻蛉切は弟に甘えられたかのように、困った顔をして目許を緩めた。それは了承の意味だ。
千尋は蜻蛉切の背後に回り、ゆっくり丁寧にその長い濃紅色の髪を漆の櫛で梳る。
「主。何故わたしの髪を梳ろうかと思われたのですか」
「うん。ちょっと兄達や妹達の事を思い出しちゃって、君の髪の毛に触りたくなったんです」
「触りたくなっ・・・」
まるで挨拶のように紡いだ言葉に、純粋な蜻蛉切は真っ赤に頬を紅潮させた。
千尋とて、そういう意味で言ったのだが、深い意味では無い。同じく頬を染める。
しかし、性的意味では無いのは、お互いに分かっていた。
人恋しいのだ。
蜻蛉切も刀剣男士として人の身に顕現して分かった事だが、一人になりたくない、
そういう気持ちになる事があるのは今は理解している。
更に主は大勢の家族を現世に残して来ているのだ。
だから、なるべく寂しくならないように、近侍の際は二人で居るように留意していた。
千尋は、蜻蛉切のそういう繊細な処も好きだった。
「これからも、ときどき櫛で髪を梳かせて下さいね。何か、落ち着くんです」
「こんな髪で宜しければいつでもお申し出下さい」
サラサラと櫛を梳る音が千尋の審神者の部屋に響く。
それは蜻蛉切の想い遣りと千尋の望郷の想いの音。
その音は障子を隔てて、春風に乗って夕餉の前まで続いた。
<了>
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オチなどありゃしない!
蜻蛉ちゃんにもみあげを引っ張らないで下さい!と言わせたかったのです。