これはFF4の「セシカイ」のSSです。
いつものギャグでは無く、ちょっと真面目に書いた作品です。
尚、腐的表現がありますので、閲覧には充分注意して下さい。
大丈夫な方のみ下へスクロールしてご覧下さい。
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<春のわかれ>
鐘の音が聴こえる。
降り頻る桜の花の季節。
セシルとローザは再建されたばかりのバロン城で結婚式を挙げる。
花嫁の控え室で文字通り花のように美しく着飾ったローザが幸せそうに頬を染めている。
セシルは披露宴間近になっても自室を出るのを躊躇っていた。
確かめなくてはいけない事がある。
しかし、その当人は数ヶ月前から行方が分からなかった。
「おい、いい加減にしろ。花嫁が首を長くして待っているぞ?」
心臓が弾けるかと思った。
低く響く声。
セシルは震える唇を噛み締めながら振り返る。
窓から騎竜が顔を覗かせている。
窓に寄り掛かり、夢にまで観た男が柔らかい春の日差しを背に立っていた。
「カイン…」
胸が苦しい。
ここまで狂おしい程に自分はカインを欲していたのかとセシルは眩暈がした。
今すぐに抱き寄せて、その涼しげな目許を仄かに染め上げたい。
薄い唇を開き、自分の名を何度も呼ばせたい。
セシルは、獣のような自分の心に気付き、恐怖する。
別れた時と同じ装備でカインは窓際に立っていた。
其処から動けないかのように立ち尽くして何も言わない。
ただ、セシルの仕草を見守っているかのようだ。
「カイン、君はあれからどうしていたんだい?」
バロンの再建宣言の際、一介の竜騎士としてカインは他の竜騎士と共に参列した。
しかし、その日の夜、何も告げないままカインは自らの騎竜と共に姿を消してしまったのだ。
カインはドラゴンヘルムの奥からセシルを見詰めている。
以前と変わらないアイスブルーの瞳。
春の日の空の青。
凪いだ優しい海の青。
閉ざされた冷たい氷の青。
「カイン、今日は…僕達の式に参列しに来てくれたんだろう?
なら、装備は外して正装してくれよ」
「別れを言いに来た。もう二度と逢わない」
セシルは笑い掛けた表情のまま、凍り付いた。
----今、カインハ何ト言ッタ?----
問い返す言葉が出て来ないセシルを察してか、カインはそのまま続ける。
「バロンでの竜騎士団長の権限も永遠に放棄する。俺の事はもう忘れろ」
セシルは黙ってカインを見詰めている。しかしその表情は心此処に在らずと言ったものだった。
カインはショックを受けて青褪めているセシルの前で、その兜を脱いだ。
金糸のような細い髪がさらさらと春の日を受けて輝く。
ターコイズブルーの瞳を見た途端、セシルは我慢出来ずに口を開いた。
「カイン、僕は君の事を…」
「言うなセシル。それ以上言ったら、俺は一生お前を許せなくなる」
カインは冷徹な言葉でその告白を遮った。
セシルは声を失い茫然とカインを見返す。
ゆっくりと幼子を諭すかのようにカインは首を振った。
「その先は一生言うな。お前は今からローザと結婚するんだ。彼女を幸せにする義務がある」
涙が溢れて来た。
セシルはそれを拭おうともせず、その瞳から逃さぬようにカインを見詰め続ける。
「幸せになれセシル。それが唯一、俺の幸せになる」
格子を開け、再び窓に立ったカインは、少し哀しそうに微笑んだ。
「待っ…!カイン!カイン!待ってくれ!!待ってくれ!!カイン~~~~~!!!」
最後は言葉にならなかった。
兜を被り、窓の外で待機していた騎竜に跨り、竜騎士は空に舞い上がる。
窓から身を乗り出し、空に向かって必死に手を伸ばす新王に、
カインは一度視線を遣ると、バロン城が見えなくなるまで、二度と振り返らなかった。
鐘の音が遠くに聴こえる。
バロン城が遥か下に見える天空に竜騎士はいた。
今頃、あの星を賭けた闘いの仲間達から祝福されているのだろう。
日がもうすぐ沈んで逝く。
バロン城から見た夕暮れは、あの頃と同じ美しさなのに、自分だけが変わってしまった。
カインの頬に涙が一筋流れた。
幼いあの日。
セシルとローザと三人で、城壁から夕陽を見た。
愛する者達と共に在るには、自分は罪を犯し過ぎた。
死ぬ事は出来ない。
手に掛けた人々の分を、自分は生きる義務がある。
一生誰にも愛されないという贖罪を自らに強いる。
愛した者達の幸せを遠くから見守りながら生きていくのだ。
孤独な竜騎士の下で、雌の騎竜が力なく啼いた。
「あぁ、お前が居れば寂しくないさ」
顔の横を軽く叩いてやると「ルルル」と優しい声で甘えてくる。
バロン城に夜の帳が降りてくる。
(セシル、お前が幸せなら、俺は……)
きっと生きていける。
これからも。
ずっと独りで。
<了>
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セシル→I超えられない壁I←←←←カインってのも好きだった頃のSSです。
それから「セシゴル」に繋がってたりして。