昔数本書いた「テイルズオブシンフォニア」の親子の話です。
興味のある方のみ自己責任で(笑)御覧下さい。読んでからの苦情は一切受け付けかねます。
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<救いの小屋で>
スピリチュア像を取りに行く羽目になった一行は、ソダ島の間欠泉に向かう前に救いの小屋で一泊する事になった。
ジーニアスとリフィル姉弟。コレット。ロイドとクラトスの部屋割りに自然となる。
救いの小屋は、簡素な作りにしてなるべく多くの旅人に部屋を提供したいという教団の意向で部屋数だけは多い。
ロイドは荷物を降ろし窓側のベッドに座り、足りないものを確認していた。
それが終わると自然と視線は相部屋のクラトスに向けられる。
最初は無愛想で言い難い事を平然と言って除けるクラトスが気に食わなくて突っ掛かってばかり居たロイドだったが、最近はクラトスに関して見方が変わっている自分に気付いていた。
クラトスもドア側のベッドに腰を降ろし自分の荷物の整理をしている。
小さな荷物の中にコンパクトな鏡が目に入る。それは折り畳みの写真入れだった。
黒くて漆が塗られているのか綺麗に細工が光っている。
「なぁ、それ、何?写真入れだろ?」
背を向けて座っているクラトスのベッドに上がり込むようにロイドが聞いてくる。
クラトスは振り返ると意外だと言わんばかりに大きく目を見開きロイドを見た。
ロイドは苦笑し「俺、ドワーフに育てられたって知ってるだろ?細工物は色々知ってるぜ?」と言った。
クラトスは「あぁ」と納得し頷くとまた背を向けてしまう。
「誰の写真?クラトスの恋人とか?」
傭兵だと言った。
金の為に神子であるコレットの護衛に雇われ、金の為に闘っていると無表情で言った。
しかしクラトスも20歳を大分過ぎた青年である。
幾ら傭兵でも色恋が全く無かったという事は無いだろう。
ロイドはそう思った。
それに間近で見て居るから分かる。
綺麗な赤茶の髪とアーモンドのような綺麗な茶色の瞳をしている。
筋肉質ではあるが身体もしなやかに引き締まっていて、一見華奢にも見える。
クラトスは普通の村娘ならすぐに恋をしていまいそうな容姿をしているのだ。
自分も女だったら放ってはおかないだろうなと一瞬考え、そんな危ない自分の考えに焦って瞬時に取り消す。
クラトスは困ったように微笑んだ。
いつもの人を馬鹿にしたような笑みではない。
それは抱き締めてあげたいと思ってしまうような哀しげな笑みだった。
「昔は…愛する者達の写真が入っていたのだが…。焼かれてしまって…今は…もう無い。それでも…こうして捨て切れずにいる。未練がましいとは思うのだがな…」
大きな体躯を小さくするようにベッドに座り込むクラトスは今にも壊れてしまいそうで、ロイドは焦る。
そして愛する者達と聞いて家族なのかなと考える。
恋人なら愛する人と言う筈だから。
恋人じゃないんだとほっとする反面、家族がいたんだという衝撃がロイドを落ち込ませた。
しんみりしてしまった場の雰囲気を和まそうとロイドはさも良い考えであるかのように嬉しそうに笑った。
「あ、じゃ、じゃあさ、今度の街で写真取ろうぜ。5人でさ。それ、入れようぜ!!な!」
正面に回りこんで来て、わざと大きな声を張り上げ豪勢に笑うロイドをクラトスは「ぽかん」とした表情で見上げてくる。
そんな知らない顔ばかり見せないで欲しいとロイドは笑った顔で硬直する。
大事な写真入れなのだろう。
自分達の写真など入れられるかとクラトスは怒るかもしれないと焦る。
でもそれはちょっと哀しいかもとロイドは顔を曇らせた。
百面相をするロイドにクラトスは目を細め安心させるかのように少しだけ微笑んだ。
一瞬クラトスの周りに花が舞った気がしてロイドは笑った口許を引き攣らせる。
「5人…の写真…か…。そう…そうだな。考えておこう」
「ホントか!?」
「私は嘘は言わぬ」
「じゃあ、約束だぜ」
無邪気に笑うロイドにクラトスは釣られて微笑んでしまう。
愛すべき家族。
愛していた家族。
そして今、目の前にその家族の一人がいる。
最初はその未熟な剣の腕に焦り、村に留まるように説き伏せた。
しかし彼の正義への信念が愛する人譲りである事に押され、神子コレットの世界再生への旅に付いてくる事を了承する事になってしまったのだ。
一度は失ってしまったと思った命である。
クラトスは今度もロイドを護りきれるか自信が無かった。
しかしその意識は傲慢であったとすぐに思い知らされる。
スポンジが水を吸収するかのように、ロイドはクラトスの剣を次々と覚えていった。
自分には無い強い信念は眩しくてクラトスは何度も成長した我が子を誇らしく思った。
ロイドはすぐに自分を追い越し、更に強くなるとクラトスは実感していた。
護られているのはどちらなのだと自問したくなる時が珠にある。
今もそうだ。
「ほら、眉間にシワ、出来てっぞ?」
「そ…そうか?」
真剣に考え込んでしまうと、こうやっていつも眉間を突かれる。
自分1人で育てたならロイドはこんなに屈託の無い真っ直ぐな少年に育ったのだろうかと苦笑する。
頑固で実直なドワーフに育てられたと聞く。
全ては運命だったのだ。
あの時、彼女を失った事も、息子と離れてしまった事も。
後悔しても何も始まりはしない。
今はただ突き進むしかないのだ。
「折角綺麗な顔なんだから、ほら、普通に笑えよ。先刻みたいによ」
「…き…、何だと?」
聞き慣れない言葉にクラトスは物思いを強制的に中断される。
其処には満面の笑みを浮かべた愛する息子。
育てた覚えは全く無いが自分の中では3歳の幼子のままで止まっている愛息子の見知らぬ笑み。
「え?綺麗だって言ったんだ。ん、いいな。そういう表情も」
狼狽してオロオロするクラトスなどリフィルは研究課題にしてしまうかもしれない。
それ程普段からは想像が付かない程可愛い姿だった。
ロイドは思う。
この強面の剣の師匠の知らない表情をもっと見たい。
真面目であろうが故に自分に厳し過ぎて思い詰めてしまう青年を支えてあげたいと思い始めていた。
どう答えていいか分からず、仄かに頬を染めて黙り込んでしまうクラトスの前に跪き、ロイドはこっそり微笑んだ。
<続く/のか>
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実を言うとクリアする事は出来ず後にクリア動画を見て事の顛末を知ったのですが、
心情的には「ロイクラ」ですが、親子愛がまだ分からない不器用同士の遣り取りと思って下さい。
後、思い付いたSSとかこういうのを日記でちらほらあげていこうかと思います。