これは、審神者、東雲千尋(しののめちひろ)と小夜左文字のSSです。
第二部隊の面々も一緒に出ています。
少年の姿の付喪神である刀剣男士達を戦場に出すのに苦悩する千尋と小夜は・・・。
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<スイートな主とビターな僕ら>
第二部隊が出陣から帰還した。
本丸の審神者、東雲千尋はすぐに駆け付ける。
重傷者は居ないか、軽傷でも手入をしてあげたくて、真っ先に駆け付けるのだ。
母という概念は分からないが、刀剣男士達は、きっと審神者が人間でいう母のようなんだと思う。
「只今!大将!今日は軽傷者も無しだぜ!」
今回の部隊長である極レベリング中の厚藤四郎が笑顔で手を挙げた。
「お帰りなさい。皆さん無事で本当に良かったです」
「あれ。主。その格好・・・」
不動行光が審神者の割烹着姿に不思議そうに首を傾げる。
「あ。これはちょっと皆さんにおやつでもと思って、光忠さんにお借りしたんです」
「おやつ・・ですか。何か作って下さったんですね。有難うございます」
礼儀正しい平野藤四郎が律儀に礼をする。それに千尋も笑顔になる。
「でも、大将。油の匂いがするぜ。怪我なんかしてないだろうな」
鯰尾藤四郎が過保護に心配して千尋の腕や顔を凝視している。
「いえ、慣れているので平気ですよ。僕の弟や妹達に良く作ってあげてたんです」
「そうか。ならいいんだけど、必ず誰かと一緒に調理するんだぜ。
怪我なんかしてたら、安心して出陣出来ないからな」
「はい。分かりました。これからは、上手な光忠さんと一緒にやります」
「何・・・・作ったの?」
小夜左文字がキョロキョロとそのおやつの行方を捜して周囲を探索している。
「あ。そうでした。これです。ドーナッツですよ」
「「「「わぁあ」」」」
甘い物が大好きな少年の付喪神達は大喜びでドーナッツに頂きますと言ってから手を伸ばす。
「旨い!甘くて旨いよ大将!」
信濃藤四郎が早速もう二個目に手を出している。
「余った真ん中の丸はお砂糖を塗してシュガーボールみたいにしました。これもどうぞ」
二つ目の大皿に歓声が上がる。ドーナッツの大皿は六人が何個食べても中々無くならなかった。
「こんなに一杯・・・。あるじさま、大変だったでしょ」
「こんな事、何でも無いですよ」
「でも。山程あるよ。何でこんなに一杯作ろうと思ったの」
小夜が心配してドーナッツを両手で持って食べながら顔を覗き込んで来た。
まるで小動物のようで、千尋はつい頭を撫で撫でと撫でてしまう。
「はっ・・・すみません。少年の姿とは言え、刀の付喪神である刀剣男士に僕は何て事を」
「ふふ。いいよ、そんなこと。でも、何かあるんでしょ」
「う・・・分かりました。白状します。
幾ら時間遡行軍とは言え、その鬼も元は何かも分かって居ないのが現状です。
その素性が分からない相手をあなた方、刀剣男士達に切って貰っているのは事実です。
僕は、付喪神とは言え少年の姿をしている君達を行かせる事が心苦しいんです」
千尋は割烹着の前の部分をぐっと両手で握り締め、下唇を噛む。
「だから、何が自分の力だけで出来る事があるか考えたら、こんな事くらいしか出来なくて。
何ともお恥ずかしい限りです」
へにょと音が出るような弱々しい笑みを浮かべて千尋は小夜にそう告白した。
「あなたがそう思って作ってくれたのは、ちょっと嬉しいけど、僕等は刀だよ。
手紙でも書いたように、僕等の幸せは、主の力になる事だから、其処は分かって欲しい」
「小夜・・・」
「刀の本懐は敵を倒すこと。僕に取ってかたきじゃ無くても、あなたの敵であるならば、
僕は例えどんな相手にだって立ち向かうよ」
「はい。そうですよね。あなた方は刀。立派な刀剣男士でした。
僕が間違っていたようです。すみません。あなた方の力を軽んじていた訳では無いんですよ」
「うん。分かってる。あ、信濃。五個食べてる、駄目。それ、僕の」
がっと六個目に手を出そうとしている信濃の腕をがっと小夜は鷲掴みして止める。
「計算した。一人五個。僕、まだ三個しか食べて無いんだから駄目。
後の二個はにいさま二人に持って帰るんだから、手を出さないで」
「分かった。悪い悪い。てへへ」
信濃は謝罪すると砂糖の掛かったドーナッツの真ん中のシュガーボールもどきに手を出した。
小夜は丁寧に二個のドーナッツを自分の綺麗な手拭に包む。
「じゃあ、僕、にいさま達に届けるから、もう行くね」
「はい。小夜。聴いてくれて有難う。少し気が楽になりました」
「うん。あるじさま。ちゃんと僕達を頼って。そんなに柔じゃないから」
静に、でもちゃんと刺せる処はちゃんと釘を刺して小夜は自室に戻って行った。
「僕もまだ甘ちゃんなんだよな・・・」
そう呟いていると遠征から戻った第三部隊達に出くわしてしまい、千尋は引き続きドーナッツを揚げる事になった。
<了>
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母の揚げるドーナッツが大好きでした。
刀剣男士達にも刀鍛冶や元の主以外にも審神者が居るんだよと思って欲しい。