あぽまに@らんだむ

日記とか感想とか二次創作とか。

漆黒のシンデレラ(茅賢)

2020年03月29日 | 図書室のネヴァジスタ関連

 

 

これは「図書室のネヴァジスタ」という同人サークルのゲームのSSです。

多数の登場人物が出て来ますので、詳細はwiki先生か、

ゲームの紹介https://booth.pm/ja/items/1258でご確認下さい。

少しでも興味を持って下さった方はプレイしてみて下さい。

下記のSSSはネタバレでもあるので、ご注意下さい。

大丈夫な方は下へスクロールしてご覧下さい。

↓↓↓↓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<漆黒のシンデレラ>


現像した写真を出版社に遅れて届けると、賢太郎の席に彼のマフラーが置いてあるのに石野は気付いた。
別に届ける必要は無いとは思ったが、何故かふと賢太郎の顔が観たくなって、
マフラーを手に取ると出版社を後にした。
既に夜は遅い時間帯だ。
多くの店も閉まり賢太郎の住む住宅街は静かに寝静まって居て、街灯の明かりしかない。
少し離れた駐車場に車を停め、石野はコンビニで買った何本かのビールを袋に下げ、
賢太郎のアパートに向かった。
何故か首からはカメラが下がっている。
カメラマンの性質とでも言うのだろうか。
見えて来たアパートの前に、見知った二人連れが立っているのに石野は気付いた。
一人は同僚の先輩である賢太郎。
しかしもう一人の姿に、石野は眉を潜めた。
あれから数年経ち、少年は大学生になっている筈である。
背が高かっただけの細い体躯は筋肉も付いて、大人の身体に成熟していた。
元より細身な賢太郎が彼の前では華奢にさえ見える。
少年の名は茅晃弘といった。
賢太郎の実弟、清史郎と彼の同級生数人で起こした賢太郎の監禁事件。
賢太郎は彼等を訴える事はしなかったが、石野は事情を説明するように彼に迫り、
簡単に話は聴いている。
その少年の一人、それが茅代議士の息子、茅晃弘だった。
その彼が賢太郎に何の用なのか。
追求しようと石野は脚を早めた。
しかし有ろう事か、少年は徐に賢太郎を抱き締めると、その唇にキスをしたのだ。
ぎくりと身を竦め、石野は咄嗟に物陰に身を潜めた。
何故かそうしなければならない気がしたのだ。
身体中が心臓になってしまったかのように、動悸が激しい。
何とか呼吸を整えて恐る恐る彼等を垣間見た。然もカメラを通して。


覗いたファインダーの向こう。
唇を離した二人は再びキスをする。
恍惚とした表情の賢太郎に石野の肌がぞくりと震えた。
傲慢で人の事などお構い無しの賢太郎のあんな表情を石野は今迄に観た事がない。
その気になれば綺麗と言っても過言では無い容姿の所為で、
女性には困った事の無い彼が、年下の然も少年に身を任せているのだ。
どうかしている。
石野は何故か苛立ちにも似た自分の感情に、戸惑っていた。
石野には結婚を約束した和泉花という可憐な恋人がいる。
それなのに、同僚の先輩で然も男に胸を高鳴らせてどうすると自分を叱咤する。
石野が物陰で葛藤している内に、少年と賢太郎は別れの言葉を交わしたようだった。
少年は周囲を素早く確認すると、仄かに頬を染めている賢太郎の顎を上向かせると、
今度は触れるだけの優しいキスをした。
石野が「あ」の形のまま声を呑む。
顔を更に真っ赤にさせて賢太郎が急いで周囲を見回す。
あんなに慌てて余裕の無い賢太郎もそうは観られない。
石野はカメラマンとして自分を奮い立たせ、カメラのシャッターを切り続けた。
遠ざかって行く少年の車を見送り唇に指を当て嬉しそうに頬を綻ばせる表情や、
車が見えなくなって寂しそうに肩を落とす表情、全てを納めて行く。
ハリウッドの女優でさえ、これ程観る側の恋情を煽る演技は出来ないだろう。
賢太郎は暫く車が見えなくなった方向を見詰めていたが、
やがて吐息を漏らすと自分のアパートの階段を上がって行った。
石野はカメラを下ろし長い時間その場で放心していた。
マフラーの事などとうに忘れてしまっていた。


「石野、何だこの写真は。何年仕事してんだお前。アングル指定してあっただろうが」

机の上に現像された大判の写真を叩き付け、賢太郎は切れ長の目で石野を睨み付けた。
怒鳴り付けはしないが要点を付いた指摘に、石野は誤魔化すように顔を引き攣らせた。
昨夜の出来事は本当だったのだろうかと石野はぼんやりと思う。
本能の赴くままシャッターを切り続けたので、軽く100枚近く撮れているだろう。
少年にキスされて恍惚としている賢太郎。
別れのキスをされて慌てる賢太郎。
行ってしまった少年を寂しげに思う賢太郎。
いずれも夢ではなかったのだろうかと知らず知らず頬を抓っていた。

「………何してんだ。お前。寝不足なら午後から撮り直して来い。……休め」

本来面倒見のいい賢太郎である。
頬を引き攣らせながら自ら頬を抓っている様子に軽く引きながらも心配してくれているようだ。
石野は適当に相槌を打ってその場を離れた。
フリーカメラマンの石野に出版社でのデスクは無い。
玄関を出て自分の車に戻り、運転席に座ると大きな溜息を吐く。
助手席に昨日使っていたカメラが置いてあるのに気付き、何気無く手に取った。
保存してあるデータを呼び出して石野は真っ赤になって固まる。

「……やっぱり……夢じゃ……無かったのか……」

カメラの液晶画面には少年にキスされ、頬を染める賢太郎が大きく映し出されていた。
ハンドルに突っ伏し石野は当分は賢太郎の目を見て話せないなと改めて昨夜、
彼のアパートに行った事を後悔するのだった。


<了>

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決して「石賢」にはならないから安心。

石野と賢太郎の一晩のSS、今度の短編集2にないか楽しみ。←まだ読めてない。

 

 


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