これは「TOI」=「テイルズオブイノセンス」の、
「ルカリカ」=「ルカ×リカルド」の二次創作SSの再掲です。
因って、多少訂正の上、再掲しております。予めご了承下さい。
二人は既に出来ており、腐の表現がありますので閲覧には充分注意して下さい。
大丈夫な方のみ下へスクロールしてご覧下さい。
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<一晩だけの女神さま>
「ドレス試着の依頼受けちゃった」
ルカが頬を上気させて宿に帰って来た際、皆にこう報告して来た。
試着の依頼はまだ初めてだ。
ある事は依頼の一覧を見て知ってはいたのだが、
優先させるべき迷子の依頼ばかりを先にこなしていたので、
すっかりリカルドは忘れてしまっていた。
アンジュとエルマーナが嬉しそうにルカが持ち帰って来た彩り鮮やかなドレスの山から好きな色のドレスを選んでいる。
リカルドは大きく溜息を吐くと興味が無さそうに視線を逸らした。
明日は女性だけの依頼行使になるだろう。
女の子三人の楽しそうな話し声が聴こえる。
「エルは薄いピンクのドレスなんてどうかしら?」
「そうやな。アンジュ姉ちゃんは黄色なんてどうや?」
「あ~あたし、こういう長いスカート苦手なんだよな~」
ルカとスパーダも何故か暗い顔をして水色と薄碧のドレスを持たされている。
依頼内容は、ドレスを着用してギルドダンジョンで闘うというものだった。
ドレスの仕立ての良さを確認する為のものなのだが、リカルドには理解し難い。
何故ドレスを着て闘うのか。
兎に角それだけで依頼料とギルドポイントを獲得出来るのだから問題は無いのだが、
それにしてはドレスの数が多い。
リカルドは嫌な予感がして、早々に皆の居る宿の居間から退散する事にした。
しかしアンジュが目敏くそれを察知した。
「リカルドさんは、瞳の色に合わせて真っ青なドレスでいいわね」
その場で彫像のようにリカルドは凍り付く。
今、何ト言ッタ?
錆び付いたロボットのように音を立て首だけ振り向いたリカルドの目の前に、
満面の笑顔でアンジュがドレスを掲げ持っていた。
「ほら、フリルも控えめだし綺麗でしょ。リカルドさんの身長に誂え直すから安心して頂戴」
「ちょっと待ってくれ…」
リカルドは身体中の水分が流れ落ちそうな程、額から汗を流しながら、助けを請うようにルカを見る。
すると申し訳無さそうに、年下の恋人は上目遣いで謝って来た。
動物の耳があったらぺったり下がっているだろう。
「御免なさい…。僕もてっきり戦闘に参加する人、詰まり女の子だけだと思ってたら…
全員強制着用らしいんだ…。だから僕もスパーダも…、
リカルドさんも全員着なくちゃ依頼料貰えないって」
背後でブリザードが吹き荒んでいる気がした。
しかし依頼は全てこなし、一件も断らないのを信条にして来たリカルドには、
「破棄しろ」と依頼を断らせる訳にも行かず、がっくりと肩を落とすしか無かった。
「取り敢えず肩と胸囲が合うか着てみて?
何故か女装用らしいから、大丈夫だと思いますけど。
リカルドさん細いから丈を伸ばす位でいいと思うんです」
「……好きにしてくれ……」
目尻に涙を浮かべつつ、半泣きな顔を仲間に見せたくなくて、そっと顔を背ける。
スパーダとルカはその場で試着してエルマーナに待ち針を刺されている。
アンジュが年上の女性らしく、あれこれ指図しながら慣れた手付きでエルマーナと一緒に丈を直していく。
イリアは隣で眠り扱けていた。
「ルカ兄ちゃんはまだいいとして…。
スパーダ兄ちゃんは身長デカ過ぎて怖いし、リカルドのおっちゃんはその強面の顔であかんやろ…。
アンジュ姉ちゃん、どないする?」
「そうねぇ…。取り敢えずリカルドさんには申し訳ないけど髭を剃って貰おうかしら」
「…何?」
「後、額の傷も私のコンシーラーで隠せば何とかなると思うの」
「…コンシ…、何だと?」
「あ、じゃあ、うちが髪の毛何とかしたる!」
「………」
本人を目の前にして進む会話に、リカルドは完璧に置いて行かれている。
スパーダとルカが気の毒そうな顔をした後、実に興味津々な顔に変わった。
ルカは少し頬を上気させて瞳をキラキラさせている。
リカルドは恨めしそうにルカを睨んだ。
スパーダでさえ女装したリカルドを想像して頬を染めている。
恐ろしい事だ。
「髭を剃ったリカルド、初めて見るぜ。楽しみだな」
「傷無かったら綺麗だろうな…リカルド」
「変な期待をするな!」
新しい玩具を貰う前の子供のような顔をした仲間達にリカルドが一喝するが、
子供達も慣れたもので何とも思っていない。
リカルドは頭が痛くなって眉間を指で押さえ小さく唸った。
ドレスが仕上がる前に準備をするよう促されてリカルドは仕方無く髭を剃りに自室に戻った。
その後を女性3人が付いて行き、ルカとスパーダだけ居間に残された。
顎鬚は、元々貫禄をつける為にそのままにしていただけで、
お洒落や願掛けの為に伸ばしていた訳ではない。
元々リカルドは整った顔立ちをしているのだ。
髭を剃っただけでもアンジュがほぅと溜息を漏らす程、綺麗な顔をしていた。
アンジュが自分の化粧品の中からコンシーラーを取り出し、額の傷を隠していく。
その間、後ろで結んだ髪の毛をエルマーナが解き、綺麗にブラシで梳かした。
腰まで伸びた漆黒の髪は先程まで結んでいたにも関わらず、何の痕も残さず、綺麗に腰でまとまった。
目付きの悪い目と揉み上げを長い前髪で隠す。
化粧をした後、ドレスの最後の仕上げをしていたアンジュが声を掛けた。
「リカルドさん、出来ましたよ?着てみて下さい」
それが合図であったかのようにイリアが目を擦り起き上がって来る。
エルマーナも手を休め振り返った。
暫く凍り付いていたものの、逃げる事は出来ないと覚悟を決めたのか、
リカルドは青いドレスを鷲掴みにした。
嵩張るスカートを手繰り寄せた後、自らの服を脱ぎ始める。
上半身だけアンダーになり、下は履いたままでドレスをTシャツのように被る。
豪快な着方にアンジュが笑った。
筋肉は付いているものの細身な身体を通り、
控え目なフリルが着いたスカートが壊れそうな程に細い腰を覆って落ちる。
皆が歓声を上げた。
どんな恐ろしいものになるかと思いきや、リカルドは予想外にドレスが似合っていた。
広い肩を隠すような大きめの膨らんだ袖、男らしい胸は細かい多目のリボンで誤魔化されている。
細い腰は可憐だし、何より漆黒の長い髪がマーメイド型のスカートに合っていた。
丘に上がった人魚のようにさえ見える。
「リカルド…綺麗…」
イリアが茫然としながら呟いた。
背が高いリカルドは海の女神のようだ。
存在感がある癖に妙に儚い印象まで与える。
完璧な女性だった。
女装した際に普通気になる筈の腰が細いせいもあるのだろう。
我慢が出来なかったのか遠慮がちなノックがして、ルカとスパーダがドアから顔を出した。
頬を染めながら振り返ったリカルドに二人が凍り付く。
見てはいけない精霊を見てしまったかのように、その場で真っ白になっている。
何も言わない二人にリカルドが痺れを切らし拗ねる。
「笑いたいなら笑え」
裾の長さと袖の長さを確認しているアンジュの方に向き直り、
二人に背を向けてしまったリカルドにルカがまず慌てた。
おかしかったのではない。
余りにも綺麗過ぎて声も出なかったのだ。
急いで部屋に入り、リカルドの前に回り込む。
スパーダも真っ赤になったままイリアやエルマーナの方に近寄って行く。
「綺麗だよ。リカルド。あんまり綺麗だから僕達、何も言えなかったんだよ。ね?スパーダ」
「お、おう!お前等もそう思うよな?」
「うん、何か…私の方が女装したみたいになりそうで自信喪失だわ…」
「それなら、うちなんか東方の七五三みたいや」
「ふふ…皆、そろそろ勘弁してあげて?リカルドが困ってるわ」
何も言い返せないリカルドに不審に思って皆がリカルドの方に向かった。
慌ててリカルドが顔を背ける。
「ばっ!馬鹿っ!こっちに来るな!」
耳まで真っ赤になったリカルドが慌てて壁の方に顔を背けるが後の祭り。
恥らう女神はその日から依頼が終わるまで「女神さま」と呼ばれる羽目になった。
依頼が終了し、使用したドレスと共にギルドに報告に戻ったルカにギルド役員が声を掛ける。
「ドレスが一着足りないようですが、どうしました?」
「すみません、一着汚しちゃいまして、クリーニングに出しましたから、
出来次第お返しします」
「では、依頼料はその際にお渡しします」
「はい分かりました」
ルカが上機嫌で宿に帰って行く。
昨夜、ルカは嫌がるリカルドを押し倒した。
明日から髭をまた伸ばし、髪の毛も結んでしまうと言うのだから最後のチャンスだと思ったのだ。
思った通り、リカルドはいつもより可愛く、ドレスを汚しては不味いと必死に抗った。
ルカは宿の玄関から皆がいるダイニングに入って行く。
「あれ?依頼料まだ貰えなかったの?」
いつもなら依頼料で皆のおやつを買って帰るルカが手ぶらで帰って来たので、イリアが真っ先に気付いた。
「うん、明日また取りに行くよ。さぁ、今日は普通にダンジョンに潜ってレベル上げよ?」
朝一でギルドに行っていたルカ以外のメンバーは遅い朝食を採っている。
既に皆食べ終わっていて、エルマーナだけがまだ食べている。
一人、奥の席でリカルドは珈琲カップを掴んだまま下を向いている。
「そうね、エル?いつまで食べてるの?」
「ん~後一個だけ!」
「……リカルド、顔色悪くねぇ?」
スパーダの一言に皆が机の端に座るリカルドに注目する。
確かにリカルドの顔色は最悪だった。
それでなくても白磁のように真っ白な顔が白を通り越して少し青い。
病院から抜け出して来た患者のようだ。
「少し…体調が悪い…。今日は遠慮してもいいか?」
体調管理はいつも万全なリカルドが最近稀に身体を壊すようになった。
それとは相反してルカは脚に翅でも生えているかのように軽やかで、
肌も玉の様に光らせ艶々させている。
「何だ。コルセットの締め過ぎか?」
「スパーダ君。男の子達はコルセットしなかったでしょう?」
「慣れない服着て気を遣ったんじゃない?いいわ。あたし達で行きましょ?」
微苦笑して皆を見送りながらリカルドは一人残るルカを恨めしそうに睨んだ。
「ごめん」
「謝る位なら昨日加減しろ」
「うん、ごめん」
「…もう行け。セレーナが怪しむ」
ルカの労るような視線に居た堪れなくなってリカルドが視線を珈琲カップに戻した。
結局リカルドはルカを許してしまうのだ。
それを自覚しているからこそ、恥ずかしくなって来る。
十以上も離れた子供に言い様に扱われて、それでもいいと思ってしまう程、
自分はルカが好きなのだ。
リカルドは苦い珈琲を啜った。
「行って来ます。愛してる。リカルド」
「ばっ……!!」
リカルドはぎょっとしてルカを見ると慌てて周囲を見渡した。
宿のダイニングはリカルド以外に客は居らず、宿の主人も他の従業員と話していて、
こちらの会話は聴こえていなかったようだ。
ほっと胸を撫で下ろし、宿のドアを閉め走り去っていくルカを見送った。
毎夜囁かれる愛の言葉。
五年、十年と時が経ち、もっと広い世界を知れば、ルカは自分の元を去って行くだろう。
いつまでも自分一人だけの少年ではないのだ。
それでもいい。
それまででいい。
ルカが自分を一番だと言ってくれるなら、それを受け入れる。
自虐的な恋だと苦笑いしながらリカルドは目を閉じた。
「リカルドってば、自覚してないから困るよね。
ギルドダンジョンに行くまで、行き交う人達がどんな目でリカルドを見ていたかなんて、
気付いていないんだから…」
イリア達を追いながらルカは独り言をぶつぶつ呟く。
街を出ればモンスターや賊が徘徊している昨今である。
ギルドダンジョンに着いてから着替えるのは危険だと、仕方無く宿でドレスに着替え、
全員で街の往来を歩く羽目になった。
ルカとスパーダは開き直って皆に手さえ振っていたが、
死にそうな顔をしていたのは慣れないイリアとリカルドだった。
イリアは女の子だけあって暫くすれば慣れて来たのだが、
好奇の目で見られリカルドは今にも倒れそうな程に緊張していたのだ。
街を出て人目が無くなり次第に長い裾にも慣れて来たものの、
帰って宿に入るまで本気で皆リカルドが泣き出すのでは無いかと心配した程だったのだ。
それもこれも皆、男達の好色な視線のせい。
俯き、地面しか見ていなかっただろうリカルドは、全く気付いていなかったのだが、
街の人々は皆、海の女神のようなリカルドに注目していたのだ。
「自分を好きだなんて言っているのは僕だけだと思い込んでるんだから」
そうなのである。
リカルド自身が一番気付いていなかったのだ。
ルカだけじゃなく、アンジュもエルマーナもイリアもスパーダも皆リカルドを綺麗だと思っていた。
皆におっさん呼ばわりされている為、すっかり自分はルカ以外は、
異性として対象外だと思っているのだ。
それはパーティ以外の人々も例外ではなく。
ハスタに襲われたのもただの嫌がらせだと思っている。
プロの傭兵の癖、恋愛に関しては超鈍感なのだ。
「僕が成人したら…さっさとお嫁さんにしちゃおう…」
今度は花嫁姿のリカルドを妄想して笑いが込み上げて来る。
ウェディングドレスに身を包み、頬を染め恥じらいながら、
身を寄せて来るリカルドを抱き締める自分は既に、アスラのように背が高く筋肉隆々としている。
アンジュにドレスを選んで貰おう。
ドレスのベールはエルマーナに持って貰う事にしよう。
ご機嫌のルカに道行く人達が不審そうに振り返った。
ルカの暴走は止まらない。
<了>
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ルカリカに萌えてましたけど、生憎クリアまでには至りませんでした。
力ちゃんのキャラ好きだったんですけど・・・。