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今日アツミはお財布を拾った。
テクテク歩いている道の先に黒い物が見えた。「財布だな、あれは財布だな~。拾いたくないな~。」
しかし、財布は拾って欲しげにこちらを見ている。仕方なく拾った。
本当なら張り切って拾って中身持って逃げる…。じゃなくって、張り切って拾うところだ。しかしたいがいアツミが財布を拾う時(アツミは割と落ちてる財布と良く出逢う。)悪いオチがついている。だから願わくば拾いたくない。それはこの先読み進めると解るだろう。
中身を見るのは何となく気が引けてそのまま交番まで届けた。警察の人が中身を調べる。「お金が入ってないね~。」とじろりとアツミを見る。そう、アツミが拾う財布は今まで8割位は先に誰かに拾われて中身だけ抜かれて捨てられている状態のもの。見つけた時、きっと今回もそうだろうと思ったアツミは、だから拾うのが少し嫌だった。抜かれている状態と言うのが何となく悲しいのと、届けたのに疑われるとはどういうことやねん!神に誓って抜いてないど~!アツミは事情を説明した。
しかしお金はなくともたいがい財布には免許証やカード,保険証などが入っている事が多い。今回も警察の人がそれを確認し、持ち主が判明して届けてくれる事になった。この時以前拾った時と違う事が少しあった。
今までは持ち主に届くと、お礼の電話が持ち主からアツミに来たりした。それは警察の人が「こういう人が拾ってくれたんだよ。」と落とし主に拾った人の電話番号を教えるからだった。が、今回は個人情報保護法の観点から、相手に電話番号を教えるか教えないか選べるようになっていた。
なんか、この世の中、人情ってもんがなくなってきたなと思った。個人情報保護法はあった方がもちろんいいとアツミは思っているけど、今回みたいな時、逢ったこともない人を疑うみたいで嫌だった。昔はそんな事しなくたってよかったわけで、今よりずっと、情もモラルももっと人にはあったんじゃないか?とそんな事を考えた。
「義理人情」は決して任侠映画の台詞じゃないのだ。とアツミは思う。しかし一日一善しても疑われたアツミ。そんなもんです、アツミの毎日って
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