「なーんか怪しいなぁ。
ちょっとみせてもらえる?」
「よござんすとも!さぁさぁ、お手に取って」
「ほーっ!フワフワだねぇ。
これならホントにいい夢が見れそう」
「でしょう?ですがこの枕で見る夢は
漠然としたいい夢ではありません。
たとえば80cm超の真鯛を釣ってみたい、とか、
イワシの群れと一緒に泳いでみたい、とか、
沈没船のキャビンの中からホオジロザメを
じっくり観察してみたい、とか、
ミズクラゲになって遠州灘辺りの
波間を漂ってみたい、とか具体的な夢が・・・」
「なんで具体例がぜんぶ海関連なの?
もっとフツーにさぁ、
好きな女の子とデートする夢とか、
テニスのトーナメントプロになって
世界中を飛び回る夢とか、
宇宙人と友だちになって
不思議なパワーを身につける夢とか、
そんな夢は見れないの?」
「あっ!これはこれは。私のたとえが少しばかり
海に偏りすぎてしまいましたたね。失礼しました」
「少しばかりじゃないよ。全部海関連じゃない。
快眠社ってマリンスポーツ商品もやってるの?
ぼく、泳げないし、小さい頃に海で溺れかけたから、
イワシと泳いだらきっとパニックになると思うよ」
「いやー、そうでしたか。申し訳ございません。
もちろんあなたさまが見たいと
思っていらっしゃる濃厚な
愛の世界に入っていくことも
それはそれで可能かと存じます」
「誰が濃厚な愛の世界に入っていくのさぁ。
ぼくはただ女の子とデートをする夢って
言っただけじゃない。
ちょっと下品だよ、夢野さん!」
「これはこれは!重ね重ねの失言、
なにとぞ平に平にお許し願いたく」
「それっていつの時代の謝り方なの?
まあいいや。で、好きな夢が見れるとして、
この枕のどこに情報を入力すればいいの?」
「どんな夢が見たいか、をですか?」
「うん」
「その必要はまったくございません。
ご主人さまの心の内を自動で
察知するように作られていますから、
ごく普通に頭をお乗せいただくだけで
濃厚な・・・いや、思い通りの夢が見れるはずです」
※夢の枕(3/6)に続きます。