瑞原唯子のひとりごと

「東京ラビリンス」番外編・いつか恋になる - 本当の恋人に

「誠一!」
 まだ若干の肌寒さが残る春先の陽気の中、待ち合わせ場所である駅の東口で壁に寄りかかっていると、澪が手を振りながら軽やかな足取りで駆けてきた。
 ただでさえ際立った美少女がはずむように黒髪をなびかせるので、まわりの注目を集めるが、気付いているのかいないのか彼女はまるで意に介していない。フリルのついた薄手の白ブラウスに茶色のリボンタイ、淡いシェルピンクのカーディガン、茶色っぽいチェック柄のふわりとしたミニスカート、後頭部にはやわらかいベレー帽という格好をしている。中でもスカートからすらりと伸びる健康的な脚がひときわ目をひく。
「待たせちゃった?」
「いま来たところだよ」
「本当?」
「本当」
 小首を傾げて覗き込んできた彼女に、にっこりと答える。
 今日は久しぶりのデートだ。澪と付き合うようになって半年ほどになるが、まだ数えるほどしかデートをしていない。高校生なので夜に会うわけにもいかず、休日もなかなか合わないので、普段は電話ですこし話をするだけである。月に2回会えればいい方だ。それでも彼女は不平不満を口にすることもなく、ただ次に会える日を心待ちにしてくれている。
 両親が仕事でめったに家に帰らないという家庭環境なので、仕事が理由で会えないことには理解があるのかもしれない。というより、彼女の中ではそれが当たりまえになっているのかもしれない。誠一からすればありがたいが、彼女の境遇を思うとやはり複雑な気持ちにはなる。
 ちなみに警視庁への差し入れはあのあと一度だけしか行っていない。もう行くつもりもないようだ。そもそも目的を達成した今となっては行く必要がないし、誠一とのことを内緒にするのも大変だからと言っていた。確かに彼女に嘘をつかせるのは難しそうだと感じていたので、誠一もその方がいいだろうと賛成した。
「行こうか」
「うん」
 澪は嬉しそうに頷き、誠一を見つめながら自然に手を繋いでくる。
 付き合い始めた当初から、彼女はためらいなく手を繋いだり腕を組んだりしてきた。誠一の方が驚いてしまったくらいだ。もちろん嫌な気はまったくしない。ただ、やけに慣れているのが気になって尋ねてみたが、今まで彼氏がいたことはないと言っていた。それどころか、好きになったのも誠一のほかには一人だけだと。
 自分が澪の初めての彼氏なのかと思うとこそばゆい気持ちになる。だが、手を繋いでも腕を組んでもあまり恋人だという実感はない。彼女が見た目よりも幼くて無邪気だからだろうか。たとえるなら可愛い姪のおでかけに付き合っているような感覚だ。
 そういうわけなので手を繋ぐ以上の進展はない。誠一も男なので期待する気持ちがまったくないわけではないが、手を出すべきでないことは承知している。いくら恋人であってもまだ16歳なのだ。間違いを起こさないようにしなければならない。だが、今のところはそういう雰囲気になる気配さえない。すこし残念に思いながらもほっとしていた。
 今はこのままの関係を続けていけばいい。もし澪が高校卒業してもまだ続いていれば、そのときは――うっかりそんなことを考えてしまったが、あまりにも可能性の低い想像に自嘲する。彼女がいつまでも誠一を好きでいてくれるとはとても思えない。付き合っていれば、いずれ何の面白みもない人間であることはわかってしまう。住む世界が違いすぎるということも。彼女の目が覚めるのもそう遠い未来ではないだろう。せめて、それまではこうやって楽しい時間を過ごしたい。そのくらいのことを願ってもバチは当たらないはずだ。
 誠一は隣を歩く彼女に目を向けることなく、繋いだ手にそっと力をこめた。

 まずはシネコンで澪が観たいと言っていたSF映画を観て、そのあと近くの洋食店で昼食をとった。パスタ料理やピザといったイタリア料理をメインとした店である。外観も内装もそれなりにきれいで雰囲気のあるところを選んだつもりだ。料理の方はどうなのかわからないので不安だったが、なかなかおいしい。彼女も気に入ってくれたようでとりあえずは安堵する。
 その後の予定は何も考えていなかった。ウィンドウショッピングでもしてカフェに入るというのが定石だろうか。それともせっかく春めいてきたのだから外を歩く方がいいだろうか。洋食店を出て、何とはなしに目の前の雑踏を眺めたまま隣の彼女に尋ねる。
「どこか行きたいところある?」
「んー……じゃあ、誠一の家!」
「却下」
 えー、と澪は思いきり不満げな声をもらすが、断られることは最初からわかっていたはずだ。そう言うたびに誠一がにべもなく断ってきたのだから。
「部屋が汚いから?」
「そうだよ」
「私、気にしないよ?」
「俺が気にするの」
 澪はぷくっと頬を膨らませるが、折れるわけにはいかない。
 とても大財閥のお嬢さまを呼べる部屋ではない、というのも確かにあるが、それよりもっと重大で切実な理由がある。密室で澪と二人きりになって理性を保てる自信がないのだ。実際にはおそらく何も起こらないだろうと思っているが、絶対とは言い切れない。少しでも危険があるのなら避けた方がいいという判断である。
「せっかく春になったんだから、公園でも歩こうか」
「うん!」
 澪の機嫌は一瞬で直り、屈託のない笑顔ではしゃぎながら腕を絡ませてきた。誠一もつられてくすりと笑い、腕を組んだまま彼女とともに駅へと歩き出した。

 地下鉄で数駅移動してそこから十分ほど歩き、公園へとやってきた。
 彼女には言っていないが、実は誠一の住んでいるアパートのすぐ近くである。何度も前を通っているので存在は知っていたが、有料ということで一人で行く気にはなれず、入ったのは今日が初めてだった。
 穏やかな陽射しを浴びながら二人並んで歩く。特にこれといって何かがあるわけではないが、緑と水が豊かで、花もたくさん咲き、自然散策にはもってこいの場所である。色鮮やかな菜の花が一面に広がるさまは圧巻だった。澪もすごいと感嘆の声を上げてはしゃいでいた。桜の樹も植わっているが、花を咲かせる時季にはすこし早かったのが残念だ。
「こんなふうにのんびり自然を見るのもいいね」
「桜が咲いたらまたどこか行こうか」
「うん! 私は春休みだから誠一が休みのときに」
 散策路をひとまわりしたあと、二人で池を眺めながらそう言って笑い合った。そのとき、澪がふと手のひらを上に向けて、不思議そうな顔で上空を見つめる。
「あれ、雨かなぁ?」
「え、晴れてるみたいだけど……」
 そう言いながら、彼女につられて顔を上げたらぽつりと水滴が当たった。上空では鈍色の雨雲が急速に広がって太陽を覆い隠し、ぽつりぽつりと大粒の雨粒が落ちてきたかと思うと、一気にバケツをひっくり返したような土砂降りになった。
「きゃあ!」
「澪、こっちだ!」
 向こうの方に屋根つきの休憩所があったことを思い出し、彼女の手を引いて走り出す。しかし着いたときにはもうずぶ濡れになっていた。避難してきたほかの人たちも似た状況のようだ。晴れていたのに一瞬で土砂降りになるなど、誰も予想できない。
「もう、何なのこれ……びしょびしょ」
「俺も……」
 苦笑しながら澪に目を向ける。その瞬間、驚きのあまり彼女のカーディガンを引っ掴み、それを勢いよく胸元で掻き合わせた。彼女はわけがわからず困惑した目をしているが、誠一は黙ったままボタンをはめていき、ほかの人には聞こえないくらいの声でぼそりと告げる。
「透けてた」
「えっ?」
 カーディガンの下は薄いブラウスだけだったようで、雨に濡れて張りつき、下着がはっきりと透けて見えていたのだ。彼女はきょとんとして何のことだかわかっていない様子だったが、一拍してすぐに察したらしく、恥ずかしそうに赤面しながらうつむいて「ありがとう」と口ごもる。
 どうなることかと思ったが、通り雨だったようで五分ちょっとで上がり、再び雲の切れ間から太陽が姿を覗かせた。しかし、すでにずぶ濡れでだいぶ体が冷えている。誠一でもそう感じるのだから、薄着の澪はもっと寒いだろう。あちこちから雫が滴り落ちるほどのこの状態では、店に入るのもタクシーに乗るのも躊躇してしまうし、乾くまで待っていたら風邪をひいてしまいそうだ。
「澪」
「ん?」
 ぼんやりと空を眺めながらハンカチで顔を拭っていた澪が、手を止めて振り向いた。髪から顔に雫が滴り流れるさまがやけに艶っぽく見える。一瞬ドキリとしたが、表情には出すことなく努めて冷静な口調で尋ねる。
「うち、この近くなんだけど……来る?」
「えっ、いいの?」
 家には入れないと決めていたが、この状況でそれを貫けるほど非情ではない。
「このままじゃ寒いよね」
「……じゃあ」
 澪はえへっとすこしきまり悪そうに笑い、肩をすくめた。
 自分さえしっかりと理性を保っていれば何も問題はない。誠一は自らにそう言い聞かせながら、すっかり冷たくなった彼女の手を引いて自宅へと歩き出した。

「へぇ、結構きれい!」
 居間に入るなり、澪はパァッと顔をかがやかせて感嘆の声を上げた。
 彼女には部屋が汚いからと理由をつけていたのだが、実際はそうでもない。広くも新しくもないが普段から片付けるようにはしているし、それなりに掃除もしている。もともと物が少ないのですっきりしているのもあるだろう。ほぼ必要最低限のものだけだ。基本的に来客がないのでもてなすためのものも置いていない。
「体冷えたしシャワー使うよね?」
「うん」
 澪はきょろきょろと興味深げに部屋を見回しながら返事をする。この部屋には見られて困るようなものは置いてないはずだ。寝室には多少あるが、引き出しなどにきちんとしまってあるので大丈夫だろう。そう頭の中で確認してから寝室に向かうと、案の定、彼女がひょっこりと首を伸ばして覗き込んできた。遠慮がちながらも好奇心を隠せない様子で。誠一はカラーボックスの引き出しを開けながらくすりと笑う。
「タオルとかドライヤーとか洗面所に置いてあるものは使っていいよ。濡れた服はハンガーに掛けておいてくれる? 乾くまで着るものを貸すけど……俺のTシャツくらいしかないんだけどいいかな?」
「うん、ありがとう」
 その返事を聞き、畳んであった黒の長袖Tシャツを取って引き出しを閉めると、扉のところで待っていた彼女に手渡して風呂場へ案内した。

 Tシャツを貸したがそれだけでは寒いだろうと思い、エアコンを入れる。
 誠一もまだ濡れた服を着たままで体が冷えていたらしく、暖かい空気を感じるとほっとした。とりあえず先に服だけ着替えてクッションに座る。体を温めたいしさっぱりもしたいので、彼女のあとでシャワーを浴びてこようと思う。
 そう、澪がいまシャワーを浴びているのだ――風呂場から聞こえるかすかな音に耳を傾けながら、つい湯煙の中にいる彼女の姿を想像してしまう。我にかえると、煩悩を振り払うようにぶるぶると頭を横に振り、大きめの音量でテレビをつけて新聞を読み始めた。

「お風呂ありがとう」
「ん……」
 扉の方から澪の声が聞こえたので、新聞を置きながら曖昧な返事をして振り向いた。
 その瞬間、視界に飛び込んできた衝撃的な光景に息を飲む。
 澪がどういうわけかTシャツだけしか着ていなかったのだ。さすがにパンツははいているだろうが、スカートをはいていないしタオルも巻いていない。Tシャツから直にすらりとした生足をさらしている。誠一は日本人男性として平均的な体格なので、Tシャツもそう大きくなく、裾の長さは彼女の股下ギリギリである。座ったら間違いなくパンツが見える丈だ。
「エアコンつけてるんだ。あったかいね」
「ああ……俺もシャワー浴びてくるから」
「うん」
 彼女の格好について言うべきことや対処すべきことがいろいろとあったはずなのに、混乱のあまり言及すらできなかった。ただ頭がまっしろになったまま不自然なくらい冷静にそう告げて、立ち上がった。

 風呂場に入ると、澪の衣服に混じってブラジャーもハンガーに掛けてあった。むきだしのまま隠そうともしないで。いやまあ濡れていたからだというのはわかるが。思わず額を押さえてハァと吐息を落とし脱力する。
 濡れた服をハンガーに掛けろと言ったのは誠一だ。しかしこの件といいTシャツ姿といい、恥じらうでも戸惑うでもなく平然としているなど、何を考えているのかさっぱりわからない。あまりにも無防備すぎる。誰にでもではなく、心を許している相手にだけそうなのだと思いたい。
 ただ、誠一の方もいささか配慮が足りなかったかもしれない。スカートや下着まで濡れていることに思い至らなかったのだから。今からでもズボンか何か貸した方がいいのだろうか。ウェストを紐で調節できるジャージなら彼女にもはけるだろう。しかし、今さらというのもタイミング的におかしいのではないか。いや、この危機的状況でそんなことを言っている場合ではない。
 まずは落ち着こうと、さまざまな雑念を洗い流すように熱いシャワーを浴びた。そして濡れた服を少しでも早く乾かすべく除湿器をつける。夕方までには乾いてくれるだろうか、最終的にドライヤーで乾かせばいいか、などと現実的な問題を考えているうちに、次第に平常心が戻ってきた。

 君は、いったいどれだけ俺の理性を試す気なんだ――!
 居間に戻ると、澪がクッションに頭をのせて猫のように丸まって寝ていた。あどけない寝顔はとても可愛らしいが、パンツは当然のように丸見えだ。それどころか背中までちらりと覗いている。またしても額を押さえてうなだれ、そのまま何度かゆっくりと呼吸をしてどうにか気持ちを整える。
「澪、こんなところで寝ると体が痛くなるよ」
 誠一もここで寝てしまうことがあるが、フローリングの上に薄いラグを敷いてあるだけなので固くて体には良くない。膝をついて覗きこみながら声をかけると、彼女は小さく身じろぎして震えるまぶたを開いた。ぼんやりと誠一を眺めながら眠そうな目をこする。
「そんなに眠いならベッドですこし寝る?」
「ううん、せっかく誠一といるんだもん」
 そう答えて、寝転んだままえへっと可愛らしく笑う。
 誠一は思わず目をそらしてその場に腰を下ろしたが、彼女も起き上がりピタリと体を寄せて座ってきた。互いの肩と腕が触れているというか、寄りかかられていような気がする。衣服越しにほのかなぬくもりが伝わってきた。シャンプーなのかほんのりと甘い匂いも感じる。そして、目の前には神々しいまでに白い生足がすらりと伸びていた。鼓動が次第にどくどくと速くなっていくのがわかる。
「ねぇ、誠一」
「ん?」
「キスしたい」
 その唐突な爆弾発言に、心臓が口から飛び出しそうなくらい驚いた。錆びた機械のようにぎこちなく隣に目を向ける。
「な……なに、急に……」
「そんなにおかしい? 私たち付き合ってるんだし……好きなひととキスしたいって思うのは、別に変なことじゃないよね。16歳だからまだ早いっていうの? そんなことないんじゃない? 誠一が16歳のころはどうだったの?」
 澪は目を伏せたまま淡々と疑問を呈する。
 とっさに返す言葉が見つからなかった。高校生のときには付き合っていた彼女がいなかったので、願望というより妄想だが、確かにそういうようなことを考えていた気がする。大人になってからよりも、むしろ中高生のころの方が欲求が大きかっただろう。澪の気持ちは理解するが、それでもやはり大人として聞き入れることはできない。
「ごめん……えっと、気持ちはわかるんだけど……」
「誠一、本当は私のことあんまり好きじゃないのかな」
「えっ?」
「断り切れなかったから仕方なく付き合ってるだけで」
「いやいや、そんなことないから!」
 あわててそう答えるものの、断り切れなかったから付き合うことにしたのは事実だ。彼女もわかっていたのだろう。だからといって仕方なくなどとは決して思っていない。すくなくとも今は。
「不安だったの?」
 尋ねると、彼女はわずかにこくりと頷く。
 今の今まで何ひとつ気付けなかった自分の不甲斐なさに、誠一は奥歯を噛みしめる。これでも一応は彼氏のつもりだ。はっきりと訴えてくることはなかったし、そんな素振りさえ見せていなかったが、それでも自分だけは何か察するべきだった。できなかったのは、きちんと彼女と向き合っていなかったからだろうか。
「……キス、しようか?」
 必死に頭を悩ませ、手に汗がにじむのを感じながら言葉を落とす。
 彼女は驚いたように顔を上げ、期待と不安のないまぜになったまなざしで曖昧に頷いた。淡雪のような頬にはほんのりとかすかな赤みがさし、大きな漆黒の瞳は不安定に揺れ、薄紅色のくちびるは誘いかけるように薄く開いている。
 これまで一度も見たことのない彼女の色めいた表情に、誠一はごくりと唾を飲んだ。かすかに震える手を伸ばして頬に触れ、ゆっくり身を屈めると、呼吸を止めてそのくちびるに口づけを落とす。一秒、二秒、三秒……とろけるような柔らかさとぬくもりで、頭の芯が痺れていくのを感じながら。
 やがて名残惜しく思いつつくちびるを離すと、吐息のかかる距離で見つめ合う。
「澪と付き合ったこと、後悔してないよ」
「うん……」
 頬を上気させ、瞳を潤ませ、声を震わせ、彼女は感極まったように幸せそうな笑顔を見せた。腕を伸ばし、首にまわしてぎゅっとしがみつくように抱きついてくる。下着も着けていないやわらかな胸が押しつけられ、Tシャツの裾からはちらりと白いパンツが覗き、誠一はカッと体が熱くなるのを感じた。そして――。
「続きも、しよ?」
 恐ろしく破壊力のある言葉を熱い吐息とともに耳元で囁かれ、頭がまっしろになった。この状況で冷静に断れるひとがいたら教えてほしい。理性の壁は崩壊してすでに陥落寸前だったが、それでもどうにかギリギリのところで踏みとどまろうとする。
「……初めて、なんだろう?」
「後悔なんてしないから」
 落とされた――もとより本心では期待していたのだから、当然のなりゆきかもしれない。二人の鼓動は重なる。誠一は彼女の背中に手をまわし、やわらかい体を腕の中に閉じ込めた。

 厚手のカーテンを引いているが、だいぶ陽が傾いてきているのがわかる。
 そろそろ澪を帰さなければ――誠一は隣で無防備に眠る彼女をそっと見下ろし、相好を崩す。子供のように無邪気だと思っていたら予想外の色気を醸し出し、素直で聞き分けがいいけれど譲れない部分では強情で、基本的に常識をわきまえているがたまに怖いくらい大胆で。随分と振りまわされたが、おかげで初めてきちんと彼女と向き合えた気がする。
 今日、ようやく本当の恋人になれたのかもしれない。世間的には正しくない選択だったのかもしれないが、二人にとってはこれで良かったのだと信じている。今日のことを後悔したくないし、させたくもない。たとえこの先どんな未来が待ち受けていたとしても。


…本編・他の番外編・これまでのお話は「東京ラビリンス」でご覧ください。

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