洋菓子学校でフランス語を教えていた頃、女優のジェーン・バーキンさんが大好きという生徒さんに私は何人も出会いました。ただ若い生徒の皆さんはジェーンさんをフランス人と思い込んでいたようで、「ジェーンさんこそフレンチ・シックのお手本のよう」と思っておられました。確かにジェーンさんはフランス語を話しますし、何と言ってもバーキン・バッグの生みの親。でも、エルメスの顔のようでありながら、飾らず自然体でさりげなく、それでもどこかコケットでシックなのですから、若い日本の女性に人気があるのも頷けます。
特に、二十代の頃のジェーンさんはちょっぴり小悪魔系で中性的な魅力もあり、フランス映画に沢山出演していました。生粋のイギリス人のジェーンさんが、フランス語で歌うシャンソンには独特のムードがあって素敵です。
ところで、日本ではエルメスのバーキン・バッグと言えば、二十代の若い女性でも手にしたいと思う憧れのバッグのようですが、フランスでは若い女性が高級ブランドの鞄を持っていることはまずありません。それを持つに相応しい年齢になるまで待つというのが普通のようです。ブランド物の価格を考えるとごく健全に思われます。ジェーンさん自身が普段はジーンズにTシャツというラフな格好をしていることもあるようですし、知人のフランス人がジェーンさんと真冬に旅行した時にも、動物愛護の精神からジェーンさんは毛皮のコートは決して着用しなかったそうです。知人のフランソワさんはジェーンさんと日本の地獄谷を旅行したそうなのですが、その時、ジェーンさんのフェーク・フェザーのコートにお猿さんが寄って来て、しかもジェーンさんの頭の上までお猿さんが登ろうとして、ジェーンさんはキャ~と叫びながら、大いに焦っていたそうです。「その時のジェーンはとっても可愛いらしかったよ」とフランソワさんは仰っていました。お猿さんも動物を愛する優しいジェーンさんに懐きたかったのでしょう。フランソワさんは、ジェーンさんの家族(お母さんと子供さんのルー・ドワイヨンさんとともに)四人で仲良く旅行したそうで、随分豪華な旅行になりました。お猿さんにこよなく愛されたジェーンさんの姿を、「こんな風にお猿さんがジェーンのコートにぶら下がっていたんだよ」と身振りを入れて事細かに描写していたフランソワさんは当時の旅行を懐かしげに楽しく思い返していました。
ジェーン・バーキンさんは現在、女優、歌手として多忙な生活を送っていますが、さらに、被災地の救援活動だけではなく、本国フランスで、交通事故に遭った患者さんを介護するボランティアをなさっています。でもジェーンさんが交通事故に遭われた患者さんの車椅子を押しながら話し相手になっていることなど、フランスでは殆ど誰も知らないそうです。苦しんでいる人達に心を寄せる優しいジェーンさんの心温まるお話を直接フランソワさんから聞けて、私はとても嬉しい気持ちになりました。
素敵な女性に国境はありません。古今東西の素敵な女性のお話をこれからも折に触れ、語っていければと思っています。