雑記帳

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言語学 現代言語学までの流れ

2024年10月29日 | 言語学

現代言語学に至るまでの流れは、言語に関する探究の変遷を反映しています。古典時代の言語観から始まり、19世紀の歴史言語学、20世紀の構造主義言語学、そして生成文法や認知言語学などの新たな理論が発展しました。以下では、各時代の主要な動向と現代言語学の到達点を順に解説します。

1. 古典時代と中世
  • インドとギリシャにおける言語観:古代インドの文法学者パーニニは、サンスクリット文法を体系的に記述し、現代言語学にも影響を与えています。また、古代ギリシャでは、プラトンやアリストテレスが言語の起源やその役割について哲学的に考察しました。
  • 中世ヨーロッパの文法学:中世では、ラテン語が学問や宗教の主要言語とされ、ラテン文法を研究することで知識が体系化されました。これは、後の文法学や規範文法の基盤となりました。

2. 歴史言語学(19世紀)
19世紀には、インド・ヨーロッパ語族の研究を通じて歴史言語学が発展しました。この時代の言語学は、言語の歴史的な変遷や系統関係に注目し、比較方法を用いて言語の変化を説明することに焦点を当てました。

  • 比較言語学の成立:インド・ヨーロッパ語族の研究から、様々な言語の音声や形態の共通点を体系的に比較する方法が開発されました。これにより、「音変化の法則」や「語族」という概念が生まれ、言語が規則的に変化することが明らかにされました。
  • ヤーコブ・グリムやフリードリッヒ・マックス・ミュラー:ヤーコブ・グリムは、音韻変化の法則(グリムの法則)を発見し、言語の音韻体系が系統的に変化することを示しました。フリードリッヒ・マックス・ミュラーは言語の分類や進化の研究を行い、言語研究に科学的な方法を導入しました。

3. 構造主義言語学(20世紀初頭)
20世紀初頭には、スイスの言語学者フェルディナン・ド・ソシュールが構造主義言語学の基礎を築きました。彼は、言語を「ラング(体系)」と「パロール(発話)」に分け、言語を一つの体系として捉えるアプローチを提唱しました。

  • ソシュールと構造主義:ソシュールは、『一般言語学講義』において言語の「記号論的」な側面に着目し、言語を「能記(シニフィアン)」と「所記(シニフィエ)」からなる記号の体系としました。この考え方は、言語が「関係のネットワーク」であり、その要素は他の要素との関係性によって意味を持つとしました。
  • プラハ学派と音韻論:プラハ学派のローマン・ヤーコブソンらは、音韻論(音素の体系的な役割)を研究し、言語が対立的な音の区別を通じて意味を構築することを示しました。これにより、音韻論は言語の構造的な分析における重要な分野となりました。


4. 生成文法とチョムスキー革命(20世紀半ば)
1950年代からノーム・チョムスキーは、言語学の理論に根本的な変革をもたらしました。彼は、「生成文法」を提唱し、言語の普遍的な構造を探求することを目的としました。

  • 生成文法の概念:チョムスキーは、人間が生得的な言語能力(普遍文法)を持つと仮定し、限られたルールから無限の文を生成できることを理論的に示しました。彼の理論は、「統辞構造論」(1957年)や「生成文法理論」(1965年)で詳細に説明され、言語を「統辞構造」として捉えるアプローチが確立しました。
  • 心理言語学への影響:生成文法は、言語がどのように脳内で処理されるかを理解するための基礎ともなり、心理言語学や認知科学に多大な影響を与えました。これにより、言語学は単なる構造の分析から、認知機能としての言語の探求へと進展しました。

5. 認知言語学と機能言語学(20世紀後半から21世紀)
20世紀後半からは、認知科学の発展に伴い、言語が人間の認知活動や社会的・文化的文脈とどのように関係するかが注目されるようになりました。

  • 認知言語学:ジョージ・レイコフやロナルド・ラネカーらが提唱した認知言語学は、言語が人間の認知機能と密接に関連していると考えます。特にメタファーやフレームといった概念を通じて、意味がどのように形成されるかが研究されています。これは、言語が単なる抽象的な記号体系ではなく、認知と経験に根ざしたものであることを示唆しています。
  • 機能言語学:マイケル・ハリデーの「機能文法」は、言語が主に「伝達」を目的としているとし、文脈や社会的な役割が言語に及ぼす影響を重視します。機能言語学は、言語を通じた人間の相互行為や社会的な意味づけを解明しようとします。


6. 現代言語学の多様なアプローチ
21世紀の現代言語学は、多様なアプローチを取り入れつつ、より総合的な言語研究を目指しています。

  • 社会言語学と文脈の重要性:社会言語学は、言語が地域や文化、ジェンダー、階級などとどのように関わるかを探求し、言語の多様性や文脈に応じた変化を重視しています。これにより、言語が単なる個人の能力ではなく、社会的な現象として理解されるようになりました。
  • 計算言語学と自然言語処理:コンピュータの発展により、言語の分析にコンピュータ技術が導入されました。計算言語学や自然言語処理(NLP)は、機械翻訳やテキスト解析、人工知能との関係など、実用的な応用も含めて広がりを見せています。


現代言語学は、古典的な言語研究から始まり、歴史言語学、構造主義、生成文法、認知言語学など、さまざまな理論と方法論の発展を経て、言語の多面的な性質を総合的に探求しています。今日では、言語が人間の思考、文化、社会と深く結びついていることが明らかにされ、より広範な視点からの言語理解が進められています。


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言語学 近代言語学の成立

2024年10月16日 | 言語学
近代言語学の成立は、19世紀から20世紀にかけての一連の研究や思想に基づいています。従来の言語学は、主に文法や語源に注目しており、規範的な言語理解が重視されていましたが、近代言語学では、言語そのものを科学的に理解しようとする姿勢が強まりました。

1. 歴史的背景

19世紀には、インド・ヨーロッパ語族の比較言語学が発展しました。ウィリアム・ジョーンズがサンスクリットとヨーロッパ諸言語の類似性に注目したことが、後の比較言語学の基礎となりました。また、ヤーコブ・グリムやフランツ・ボップのような学者たちが、言語の進化や体系的な変化を探求し、音韻法則や語形変化の規則を見出しました。

2. フェルディナン・ド・ソシュールの貢献

スイスの言語学者フェルディナン・ド・ソシュール(Ferdinand de Saussure, 1857–1913)は、現代言語学の基礎を築いた人物として非常に重要です。彼の著作『一般言語学講義』(Cours de linguistique générale)は、言語を静態的なシステム(ランガージュ)として捉え、個別の発話(パロール)と区別し、言語を符号の体系として理解するという革新的な視点を提示しました。このソシュールの「シニフィエ(意味されるもの)」と「シニフィアン(意味するもの)」の概念は、後に記号学や構造主義に影響を与えました。

3. アメリカ構造主義

20世紀前半、アメリカではレナード・ブルームフィールド(Leonard Bloomfield)が主導する「構造主義言語学」が盛んになりました。ブルームフィールドは、言語の観察可能なデータに基づく客観的な分析を重視し、意味よりも音声や文法の形式に焦点を当てました。このアプローチは、後の生成文法の登場まで続きます。

4. 生成文法とチョムスキー革命

1950年代に入ると、ノーム・チョムスキー(Noam Chomsky)が生成文法を提唱し、言語学に革命をもたらしました。チョムスキーは、すべての人間が生得的に備えている「普遍文法」を前提とし、言語の規則は人間の認知能力に基づいていると主張しました。この考え方は、言語学を心理学や認知科学と結びつけ、さらには言語の創発的な側面に注目させました。

5. その他の言語学派の影響

言語学はその後も多様な展開を見せ、社会言語学、談話分析、意味論、語用論など、言語の異なる側面に焦点を当てた研究が進められてきました。また、言語学は計算言語学や人工知能の分野とも結びつき、新しい可能性を広げています。

このように、近代言語学の成立には多くの思想や学派が寄与しており、それらが組み合わさることで、言語の多様な側面を科学的に解明するための枠組みが構築されてきました。


言語学における構造主義

言語学における構造主義の基礎を築いたのは、スイスの言語学者フェルディナン・ド・ソシュールです。彼は、言語を単なる単語の集合ではなく、関係的なシステムとして捉えました。彼の代表的なアイデアには以下のようなものがあります:

シニフィアンとシニフィエ:
ソシュールは言語記号(シーニュ)を、「シニフィアン(signifiant、意味するもの)」と「シニフィエ(signifié、意味されるもの)」に分けました。
たとえば、単語「木」という音や文字の形式(シニフィアン)と、それが表す概念やイメージ(シニフィエ)は密接に関連していますが、自然的な結びつきではなく社会的な約束事によって成り立っているとされます。

ランガージュ、ラング、パロール:
ソシュールは、言語を「ランガージュ」(言語行動全体)、「ラング」(特定の言語システム、社会的な規則や構造)、「パロール」(個々の具体的な発話)に分けました。彼は特に「ラング」という言語システムに焦点を当て、これを構造的に分析することで、言語の全体像を理解しようとしました。



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言語学 言語学の起源

2024年10月05日 | 言語学
言語学の起源は、多くの時代や文化で異なる視点から探求されてきました。ここでは、有史以前、宗教的観点、古代ギリシアから中世までの言語学の発展をまとめます。

1. 有史以前の言語の起源
言語の起源については、明確な証拠は残されていませんが、考古学や進化生物学の研究からいくつかの仮説が提案されています。初期の人類は、ジェスチャーや音声によるコミュニケーションを徐々に発展させ、複雑な言語を形成していったと考えられています。石器や洞窟壁画などの考古学的証拠は、初期の人類が高度なコミュニケーション手段を持っていた可能性を示唆していますが、それがどのように言語へと発展したかは明らかではありません。言語の進化は、社会的な協力や集団生活の発展と密接に関連していたと考えられます。

音象徴仮説:人間が自然の音を模倣することで、音声が意味を持ち始めたという説。

ジェスチャー仮説:言語は最初は身振りから始まり、それが徐々に音声言語に進化したとする説。

社会的要因仮説:集団生活を行う上で、より複雑なコミュニケーションが必要になり、これが言語の発展を促したという仮説。

有史以降になると、書き言葉が登場し、言語の体系的な分析が可能になりました。

古代言語学の誕生
シュメールやエジプトの記録:最古の書かれた言語はシュメール語や古代エジプトの象形文字で、これにより言語の分析が始まりました。

古代インドの言語学(サンスクリット):紀元前5世紀頃、インドの学者パーニニは、サンスクリット語の文法体系を分析し、詳細な文法書を作成しました。これは最も古い言語学の体系的な分析とされています。

2. 宗教的観点からの言語の起源
多くの宗教では、言語は神聖な起源を持つとされています。たとえば、旧約聖書の「創世記」では、神が人類に言語を与えたとされ、バベルの塔の物語では、神が人々の言語を混乱させて多言語化を引き起こしたと記述されています。このような宗教的物語は、言語の起源を神の意志と関連付け、言語が天から授けられたものとして捉える視点を提供します。

また、インドのヴェーダ聖典においても、言語は宇宙の神秘と結びつけられ、言葉(ヴァーチャー)は創造の力を持つとされています。言語が神聖なものとして扱われる一方で、その構造や意味に対する深い洞察も古代から行われてきました。

3. 古代ギリシアの言語学
古代ギリシアでは、言語に関する哲学的な探求が活発に行われました。特に有名なのがプラトンの対話篇『クラテュロス』です。この作品では、言語と現実の関係について議論され、言葉が本質的なものに対応しているのか、単に人間が便宜的に作ったものなのかが論じられました。

アリストテレスは、言語を「音声記号」として捉え、言語の構造や論理を分析しました。彼の論理学の研究は、後の言語学的理論に大きな影響を与えています。ギリシアの哲学者たちは、言語を認識と密接に関連させ、言語の正確な使用が真理の探求において重要であると考えました。

4. 中世の言語学
中世においては、言語学の研究は主に神学や宗教的な文脈で行われました。中世ヨーロッパでは、ラテン語が学問の共通語であり、その文法の研究が主流でした。中世の言語学者たちは、特に古典ラテン語の文法と語彙の整理に注力しました。イスラム世界でも言語学が発展し、特にアラビア語の文法書が多数編纂されました。9世紀には、シバワイヒという学者が『アル=キターブ』というアラビア語文法の体系的な書物を著し、これがアラビア語学の基礎を築きました。

アラビア語の研究はコーランの解釈と密接に関連しており、正確な文法や発音が宗教的に重要視されました。イスラム世界では、言語学は神学と同様に高度な学問として扱われ、言語の構造や意味論に関する詳細な研究が行われました。

アラビア語学の発展:中世イスラム圏では、アラビア語の文法が体系化され、言語学が発展しました。特に言語の音韻論や意味論の研究が進みました。

ルネサンス期:ヨーロッパでは、古典ギリシア語やラテン語の研究が進み、文法と翻訳の技術が発展しました。この時期に、言語学はより体系的な学問として発展しました。

まとめ
言語学は、古代からさまざまな視点で探求されてきました。有史以前の段階では、言語の進化が人類の社会生活の発展と関連していたと考えられます。宗教的観点からは、言語は神聖な起源を持つものとされ、言葉と神の力が結びつけられてきました。古代ギリシアでは、哲学的な探求が言語の本質や機能について深い議論を呼び、中世においては、ラテン語やアラビア語の文法が体系化され、宗教的な文脈で言語の重要性が強調されました。このような多様な視点が、今日の言語学の基盤となっています。



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