近代言語学の成立は、19世紀から20世紀にかけての一連の研究や思想に基づいています。従来の言語学は、主に文法や語源に注目しており、規範的な言語理解が重視されていましたが、近代言語学では、言語そのものを科学的に理解しようとする姿勢が強まりました。
1. 歴史的背景
19世紀には、インド・ヨーロッパ語族の比較言語学が発展しました。ウィリアム・ジョーンズがサンスクリットとヨーロッパ諸言語の類似性に注目したことが、後の比較言語学の基礎となりました。また、ヤーコブ・グリムやフランツ・ボップのような学者たちが、言語の進化や体系的な変化を探求し、音韻法則や語形変化の規則を見出しました。
2. フェルディナン・ド・ソシュールの貢献
スイスの言語学者フェルディナン・ド・ソシュール(Ferdinand de Saussure, 1857–1913)は、現代言語学の基礎を築いた人物として非常に重要です。彼の著作『一般言語学講義』(Cours de linguistique générale)は、言語を静態的なシステム(ランガージュ)として捉え、個別の発話(パロール)と区別し、言語を符号の体系として理解するという革新的な視点を提示しました。このソシュールの「シニフィエ(意味されるもの)」と「シニフィアン(意味するもの)」の概念は、後に記号学や構造主義に影響を与えました。
3. アメリカ構造主義
20世紀前半、アメリカではレナード・ブルームフィールド(Leonard Bloomfield)が主導する「構造主義言語学」が盛んになりました。ブルームフィールドは、言語の観察可能なデータに基づく客観的な分析を重視し、意味よりも音声や文法の形式に焦点を当てました。このアプローチは、後の生成文法の登場まで続きます。
4. 生成文法とチョムスキー革命
1950年代に入ると、ノーム・チョムスキー(Noam Chomsky)が生成文法を提唱し、言語学に革命をもたらしました。チョムスキーは、すべての人間が生得的に備えている「普遍文法」を前提とし、言語の規則は人間の認知能力に基づいていると主張しました。この考え方は、言語学を心理学や認知科学と結びつけ、さらには言語の創発的な側面に注目させました。
5. その他の言語学派の影響
言語学はその後も多様な展開を見せ、社会言語学、談話分析、意味論、語用論など、言語の異なる側面に焦点を当てた研究が進められてきました。また、言語学は計算言語学や人工知能の分野とも結びつき、新しい可能性を広げています。
このように、近代言語学の成立には多くの思想や学派が寄与しており、それらが組み合わさることで、言語の多様な側面を科学的に解明するための枠組みが構築されてきました。
言語学における構造主義
言語学における構造主義の基礎を築いたのは、スイスの言語学者フェルディナン・ド・ソシュールです。彼は、言語を単なる単語の集合ではなく、関係的なシステムとして捉えました。彼の代表的なアイデアには以下のようなものがあります:
シニフィアンとシニフィエ:
ソシュールは言語記号(シーニュ)を、「シニフィアン(signifiant、意味するもの)」と「シニフィエ(signifié、意味されるもの)」に分けました。
たとえば、単語「木」という音や文字の形式(シニフィアン)と、それが表す概念やイメージ(シニフィエ)は密接に関連していますが、自然的な結びつきではなく社会的な約束事によって成り立っているとされます。
ランガージュ、ラング、パロール:
ソシュールは、言語を「ランガージュ」(言語行動全体)、「ラング」(特定の言語システム、社会的な規則や構造)、「パロール」(個々の具体的な発話)に分けました。彼は特に「ラング」という言語システムに焦点を当て、これを構造的に分析することで、言語の全体像を理解しようとしました。
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