テレビCMでかわいいチワワを見るたびに、「犬が飼いたい!」と思う。ペットショップをのぞいてみたものの、チワワ50万円、一番人気のトイプードルは80万円も…。ブームの去ったシベリアンハスキーさえ20万円。高い!何回イタリアに行けるだろうか?旅行で値段を計るとは、どうやら私はペットを飼う資格はなさそうだ。
ある秋の日、わが家の玄関先にあるバラの鉢植えの、枯れ気味で茶色くなった茎の影に、一匹の殿様バッタがいた。もうすぐ冬なのに、「アリとキリギリス」によるとキリギリスは確か…。殿様バッタは冬を越すのだろうか?それともある日、土の上で冷たくなってしまうだろうか?
それからというもの、玄関先に出るたびに、寒いけど大丈夫?と心の中で声をかけてみたりしていた。
正月休みを実家で過ごし、家に戻って来ると姿が見えなくなっていた。不在中にたまった新聞でバッタのテリトリーを侵してしまっていたようだ。よそへ行ってしまったのか?それともとうとう…と心配していたら、柱にからみついたジャスミンの葉の陰にしっかりつかまっていた。
バラとジャスミンを行ったり来たりしながら、毎日、いってらっしゃい、おかえりを言ってくれいた。
ある日、スクーターに乗って駅まで行こうとしたときのことである。前の篭に虫のとまっている気配があった。赤信号で停車した時、のぞきこんでみると、あの殿様バッタだった。
わぁ~、どうしよう。なんで、こんなとこにとまってんのー?おとなしくバラの影にいればよかったのにぃ~。急いでいたので、バッタのために引き返す余裕などない。途中下車してどこかの茂みに新たな住まいを見つけてくれればと思った。
ところが、バッタは必死で篭にしがみついている。風の抵抗を受けないように少しずつ篭の内側へと移動して落ちないようにしている。このまま駐輪場まで一緒にいくつもりなのか?ガンバレ!もうちょっとだ!と、バッタが気になってスピードが出せない。しかも、完全にわき見(?)運転だ。バッタの心配をするより、自分の方がよっぽど心配だったかもしれない。
なんとか無事、駅の駐輪場に着いた。自転車にひかれる前に、茂みに行きな。野良猫にも気をつけるんだよ、と声をかけて電車に乗った。
仕事を済ませて戻ってみるとビックリ。まだバッタはいた。よ~し、このまま家に帰るよ。しっかりつかまってな!とスクーターを動かした。動き出すと、また、もぞもぞと位置を移動し始める。スピードの出ていないうちにと思ったのか、大きく脚を踏み出したとたん…足を滑らせたのか、ボトッと落ちてしまった。あっ、どうしよう。よっぽど引き返して拾おうと思ったけれど、自然の摂理、バッタの人生。後続の車にひかれないように、達者で暮らしておくれ!と願った。
ちょっと寂しくなった玄関先に、しばらくすると今度は小さなカマキリが現れた。
50万円のチワワもいいけど、自然に居着いたペットってのもかわいいものだ。世話もいらないし、なかなかイイかも!
(二〇〇三年七月)
エッセイ集『火曜日の森』(中日文化センター「自分史・エッセイ講座」自由テーマ)より
ある秋の日、わが家の玄関先にあるバラの鉢植えの、枯れ気味で茶色くなった茎の影に、一匹の殿様バッタがいた。もうすぐ冬なのに、「アリとキリギリス」によるとキリギリスは確か…。殿様バッタは冬を越すのだろうか?それともある日、土の上で冷たくなってしまうだろうか?
それからというもの、玄関先に出るたびに、寒いけど大丈夫?と心の中で声をかけてみたりしていた。
正月休みを実家で過ごし、家に戻って来ると姿が見えなくなっていた。不在中にたまった新聞でバッタのテリトリーを侵してしまっていたようだ。よそへ行ってしまったのか?それともとうとう…と心配していたら、柱にからみついたジャスミンの葉の陰にしっかりつかまっていた。
バラとジャスミンを行ったり来たりしながら、毎日、いってらっしゃい、おかえりを言ってくれいた。
ある日、スクーターに乗って駅まで行こうとしたときのことである。前の篭に虫のとまっている気配があった。赤信号で停車した時、のぞきこんでみると、あの殿様バッタだった。
わぁ~、どうしよう。なんで、こんなとこにとまってんのー?おとなしくバラの影にいればよかったのにぃ~。急いでいたので、バッタのために引き返す余裕などない。途中下車してどこかの茂みに新たな住まいを見つけてくれればと思った。
ところが、バッタは必死で篭にしがみついている。風の抵抗を受けないように少しずつ篭の内側へと移動して落ちないようにしている。このまま駐輪場まで一緒にいくつもりなのか?ガンバレ!もうちょっとだ!と、バッタが気になってスピードが出せない。しかも、完全にわき見(?)運転だ。バッタの心配をするより、自分の方がよっぽど心配だったかもしれない。
なんとか無事、駅の駐輪場に着いた。自転車にひかれる前に、茂みに行きな。野良猫にも気をつけるんだよ、と声をかけて電車に乗った。
仕事を済ませて戻ってみるとビックリ。まだバッタはいた。よ~し、このまま家に帰るよ。しっかりつかまってな!とスクーターを動かした。動き出すと、また、もぞもぞと位置を移動し始める。スピードの出ていないうちにと思ったのか、大きく脚を踏み出したとたん…足を滑らせたのか、ボトッと落ちてしまった。あっ、どうしよう。よっぽど引き返して拾おうと思ったけれど、自然の摂理、バッタの人生。後続の車にひかれないように、達者で暮らしておくれ!と願った。
ちょっと寂しくなった玄関先に、しばらくすると今度は小さなカマキリが現れた。
50万円のチワワもいいけど、自然に居着いたペットってのもかわいいものだ。世話もいらないし、なかなかイイかも!
(二〇〇三年七月)
エッセイ集『火曜日の森』(中日文化センター「自分史・エッセイ講座」自由テーマ)より