30年以上はやっているであろう近所のピザ店のそれを頼んだ。
コンビーフのピザ、チキンのグラタン、カレーピラフである。
普段は電話で注文するのだが、今日は初めてアプリを経由した。Uber Eats ではないが、それに似た、出前館、というアプリを使用した。電話を取りに行くのも怠くて煩わしかったし、スマホの携帯電話は定額の無料通話プランをやめてしまったのでスマホのアプリを、利用した。
もはや、単純な音声通話であればSNS のメッセンジャーアプリを使えばよい。FacebookなりLINEを使えば良い。セキュリティー上の懸念などが心配されれば、最低限の担保として電話を利用する。その電話でさえ、会話の秘匿性がどこまで担保されているのか確証などありはしないが、少なくともSNS アプリで情報を抽出される恐れを抱くよりはまだマシ、その程度だ。
それはともかく、ピザ屋の主人に、電話と出前館の注文で差はあるだろうかと問うてみた。「最近の若い人は」電話であれ出前館であれ、地番やマンション名が明示されておらず配達するのに苦労する、それには変わりないそうであるが、出前館のユーザーは、電話注文の客以上に、無口な者が多い、そういう話であった。
とにかく玄関を最低限開けて、お金と物のやり取りをする、そういう具合だそうだ。私など10年以上の客だから、「今日は暑い寒い」だの「台風の予報だから今日は早く店仕舞いしようと思っている」だの「消費増税で値上げはしないのか」などとざっくばらんな話をする。
最近の若者、特にその出前館のユーザー、というのには、そういった世間的なやり取りが皆無らしい。まあ言われてみれば、私は幼い頃から同じ地域に住んでいて、東京からのベッドタウンということもあった駅前には各種飲食店が揃いちょっとした時に出前を頼む、などという習慣は、親の頃から当たり前のようになされていてそれを間近で見て育った。蕎麦や丼物の器にしろ寿司屋の桶にしろ、「最終的には店の人がきちんと洗い直さなければ使い物にならないのだから私達が食べてそのままでも構わないかもしれないが、ただ本当に食べたまま、というのもだらしがないので、水を流しながら軽く汚れを取ってから外に出しなさい」、そういうことまでいいつかってきたものだから、店の人が来れば軽く挨拶ぐらいは交わして、時間が許せば多少の世間話はする。昔はよく喫茶店であったろう主人がデリバリーピザに特化して店を続け、主人と客との唯一のコミュニケーションの場がその商品の受け渡し時にほかならないからだ。店の者も無口を貫きたくてそういう商売になったら無言のコミュニケーションでも構わなかったのかも知らないが、そうではなかった、むしろ、そのほんのわずかな時間にコミュニケーションを図りたいタイプであった。だから出前館の相手の無口が不満のようだった。
出前館アプリを利用する今時の人間からすれば、大手チェーン店のデリバリービザと変わらず、ただ自分の食べたい物を配ってくれればそれでいい、そういうことなのかもしれない。あるいは地方からの上京者も少なくない土地柄、私が子供の頃から慣れ親しんだように、ちょっとしたコミュニケーションのためにあるのだ、そういう発想にもあまりならないのかもしれない。
塩の効きすぎていない自家製のホワイトソースと、日本人があまり好まない鶏胸肉の裂き身を、味わいながら、ぼんやりとそう思った。