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BOOKREVIEW: 戸谷洋史/スマートな悪について/講談社

 と言う訳で、三省堂書店神保町が休業に入る前に買った本。第二次世界大戦の反省として、ハンナ・アーレントがナチスのホロコーストの首謀者と言えるアドルフ・アイヒマンのニュルンベルク裁判を見てのアイヒマンの評価で「凡庸な悪」と名づけて議論を巻き起こしたが、それをさらに現代的にブラッシュアップさせた評論。以前、私が投稿した文明批判論も、ベースはこれまで論じてきたことをまとめたものだが、整理にはこの書がきっかけとなっている。
 タイトルを見る限り、基本的にはウクライナ侵攻と言うより、デジタル庁を始めとした、社会のスマート化(スマート・ソサイエティ)へ一石を投じるために書かれている。そこでアイヒマンらが構築したホロコーストの「システム」が、スマート化の功罪を如実に示したものとして紹介される。あの、500万とも600万とも言われるユダヤ人大量虐殺には、アイヒマンらが構築した「システム」なしには起こり得なかった。彼は罪の意識の前に、この優れた「システム」の構築に達成感を感じていたことが、引用される証言で見えてくる。これは、コンプライアンスを見失った役人、サラリーマンなら誰にでも起こりうることだと。
 スマート化、効率化をことさらに強調する現代社会では、いつ私たちが子どもの頃に身につけた倫理観が上書きされるかも分からない。これを防ぐために、最近は企業もコンプライアンス活動を重視してはいるが、最新テクノロジーにあっては、過去の事例がないために、リアルに倫理観を上書きしてしまう危険性がある(私自身も、そうしたスマートな悪に飲み込まれてしまった経験はある)。そのことを警告した書として、多くの人に読んでもらいたい本。
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