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BOOKREVIEW: 大地の乱・成田闘争 三里塚反対同盟事務局長の30年/北原鉱治著

 今頃になって成田空港反対闘争の重要性を発見したのは、NHKの「キッチンが走る」と言うグルメ旅番組だった。政治性のまったくない、平和な農作地で取れたての食材でプロの料理人が作った料理を味わうと言う他愛のない番組だが、先週のロケ地が成田。現在も成田で野菜を作る農家から、空港反対闘争の話が出た。それは素朴に農民が命の次に大切な農地を守る戦いだった。巷では学生運動の残り火のような闘争として語られていても、当の農民には当然ながら自分たちの生活と大地への誇りを守るための戦いだった。今は福島の原発事故で同じように農民の農地が奪われている。これは過去の出来事ではなく、現在に通じる闘争だと思った。
 先ずはミクシィのコミュを探したが、空港闘争に関するコミュはなく、職場近くの大型書店でも関連書籍は見つからなかった。と言う訳でようやくアマゾンで見つけたのがこの本。
 著者の北原鉱治氏とはもちろん、当時の闘争の代表的派閥の1つ、北原派の代表である。もう一方の派閥、熱田派の代表、熱田一氏ははすでに他界している。
 前史では北原氏自身の生い立ちが語られるが、そこから太平洋戦争の生々しい体験が語られる。淡々とした語り口で相当ひどかったことが伝わる。映像で生々し過ぎて拒否反応を起こすより、頭にスッと入って来て凄さが伝わる。訓練で教官からこっぴどく殴られた挙げ句、打ち所が悪くて死んだ者もいたと言う。戦地に行く前の訓練で人が死んで行く、むちゃくちゃとしか言い様がない。
 さて成田空港反対闘争、農民から見ればこれがすごく地に足のついた闘争であることがはっきり分かる。何しろ家族総出で運動に参加しているのだ。子どもを巻き込むことには賛否両論あろうが、ピケの中で勉強を教えたりする姿はそれはそれで林間学校のようなものかもしれない。
 成田の原野での機動隊との衝突が凄まじい。これが1970年代と言う高度経済成長時代に本当に起きた事件なのか?まるで戦国時代の合戦シーンを見ているかのように激しい乱闘。と言うか、この時代には本当に命懸けで戦う覚悟のできる人がたくさんいた事実に隔世の感を覚える。自分を含め、今やどんな暴言もネットの上でのやり合い、少なくとも物理的な暴力からは距離を置いた場所でのやり合いだが、これはリアルに物理的暴力でのやり合い、この運動を今の時代に、と言っても、その覚悟をすることは容易ではないだろう。ただただその覚悟の強さに敬服する。
 身内の裏切りも凄まじい(身内と言うよりは派閥によるものだが)。当然、国の攻撃や様々な工作によって脱落者が出るのは仕方ないにせよ、共闘を離れた後に逆に戦う相手になってしまうのは不条理極まりない。そういう厳しくまた困難な戦いを30年も続けた筆者にほ敬服するのみだ。
 終章ではこんな激しい戦いを乗り越えてきた反対同盟の同士たちとのリクリエーション交流(花見や海水浴など、もちろん多数の宴席も)が語られる。そこには行間から溢れ出る“絆”が強く感じられる。たぶん、絆と言っても最初はなかなかまとまらず、闘争の中で培われて来たものだろう。同士は三里塚の農民、住民ばかりでなく、全国にネットワークを広げている。当然だろう、昭和史に残る大変大きな民衆運動だったのだから。この“絆”は今の被災地の皆さんにも十分届くものがあるのではないか。純粋に人間の尊厳を守る戦いには、個人の思想や信条を越えて響くと確信する。
 自民党は1ヶ月、左翼政党の共産党が1年、社会党が3年で離脱して行ったにもかかわらず闘争が30年も続いた(その間に総理大臣は15人にのぼる、大変長い歴史を戦ってきた)のは、入口は確かにベトナム反戦運動の盛り上がりからだとしても、やはり地元の農民や住民の皆さんの強い連帯なくしては成し遂げられない素晴らしい抵抗運動であったことを知らしめる。これこそ民主主義獲得のための称賛に値する運動だった。僕は金持ちになった人、社長や政治家になった人よりも遥かにこうした人々を強く尊敬する。私たち庶民が知らない世界に行ったのではなく、あくまでも私たちと同じ暮らしを守るために戦った人々だからだ。ミギとかヒダリとか、そんな政治思想のレベルを遥かに超えた、人間としての尊厳を守る戦いに大いに鼓舞された。近いうちに、成田闘争のロケーションをめぐって(といっても空港内にはそんなものはないだろう。芝山町とかに行けばあるのかな?)闘争の凄さ、素晴らしさを体感したい。
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