土木屋政策法務自習室(案)

土木系技術職員がいろいろな事案を法律を基点に検討しています。

民法・相隣関係の改正(R5.4.1施行)による道路の維持管理への影響について考えてみた。

2022年11月27日 08時20分27秒 | 道路法

令和3年に改正された民法が、令和5年4月1日に施行されます。
この法改正においては、隣地との関係を規定する「相隣関係」が改正されています。
以下には、民法の相隣関係規定の改正による道路管理への影響について考えてみます。


1.民法・相隣関係の改正条文

 現行の条文と改正条文は以下のとおりである。
 
◯現行 施行日:令和4年6月17日 ※以下には「旧民法」という。
(竹木の枝の切除及び根の切取り)
第二百三十三条 隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。
 
◯改正 施行日:令和5年4月1日 ※以下には「改正民法」という。
(竹木の枝の切除及び根の切取り)
第二百三十三条 土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。
3 第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
 一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
 二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
 三 急迫の事情があるとき。
4 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。

 これによれば、旧民法においては、隣地の竹木の枝が境界を越える場合には土地の所有者から竹木の所有者への請求にとどまるのに対して、改正民法においては旧民法規定の請求に加えて各条件(民法233条3項1号から3号まで)を満たす場合には、土地の所有者(隣地の枝により侵害を受けている者)による枝の切除が可能であるとしている。

 

2.道路維持管理への影響

 1.に示したとおり改正民法においては、一定の条件のもとで土地の所有者に対して枝の切除の権限が付与されることとなる。
 これに伴う道路維持管理の影響について下記に列挙する。

◯竹木所有者に対する枝の切除の手続きの簡素化による現実の支障除去の実現

 旧民法のもとでは竹木の所有者への請求にとどまるため、隣地の竹木の所有者が枝の切除をしないとき、土地が民地の場合には、土地の所有者が枝の切除を請求する民事訴訟を提起し請求認容判決を得た上で、民事執行法における代替執行(債務者(竹木の所有者)の費用で第三者に枝の切除をさせる方法)を行うことにより枝の切除を実現させる必要がある。
 また、土地が道路敷地の場合であれば、道路管理者による監督処分及び行政代執行による必要がある。
 いずれの場合においても、枝の切除を実現するには非常に多大な費用と時間を要することとなる。
 しかし、改正民法によれば、所有者に催告をした後相当期間内(2周間程度(令和3年4月20日・参議院法務委員会〔政府参考人による回答〕))に切除しない場合(1号)、竹木の所有者を知ることができない場合(2号)、及び急迫の事情がある場合(3号)等の一定の要件を満たした場合には、土地の所有者である道路管理者が自ら枝の切除を行うことができるとし、旧民法に比べ簡素な手続きにより、枝の切除による支障の除去が容易に実現できるのものとなっている。
 このため、改正民法はこれまでより管理上支障となる状態を短期間で解消することができることとなるほか、枝との衝突・接触による事故を減少させることができ、それに伴う被害者から道路管理者に対する損害賠償請求を減らす効果も期待できるものとなっている。

◯枝の切除の費用負担

 3項によって道路管理者自らが直接隣地の竹木の枝の切除ができるとすれば、その費用を誰が負担するかが課題となる。
 民法の規定によれば、隣地の竹木の枝が境界線を越えることは「竹木の植栽に関する瑕疵(717条1項・2項)」であり、工作物の占有者(竹木の所有者)に損害賠償請責任が生ずることとなるため、竹木の所有者は損害賠償責任を負うこととなる。すなわち、道路管理者が枝の切除に要した費用は、原則的には竹木所有者が負うものとも考えられる。
 しかし、今回の法改正においては、枝の切除の費用の負担については、検討されたが明文化は見送られているという経緯があり、必ずしも竹木の所有者が負担するともいいきれない。
 比較として、行政が相手方の不履行の行為を自らの行為によって解消する類似の法規定として、行政代執行(行政代執行法)があるが、この行政代執行の場合には「その費用を義務者から徴収することができる(2条)」とする明文規定が設けられている。
 このため、改正民法による枝の切除の費用負担については、明確に竹木の所有者が負担することとするには十分ではなく、相手方との協議及び判例等の積み重ねにより個別の事案ごとに判断せざるを得ないものと考えられ、当面の間は道路管理者が負担することを原則とせざるを得ないものと考えられる。

◯道路管理において適用される場面

 改正民法によって、道路管理者が自ら枝の切除をできることとなったとしても、道路管理の実務においてどのような場面に適用できるか、従来の管理手法ともあわせて検討する。

支障となる枝については、その場面によって以下の対応が考えられる。
①竹木の所有者に対する通知及び指導
  法令根拠等:行政手続法2条6号・行政指導
  道路管理者の対応:竹木の所有者に対する通知及び指導、切除業者の斡旋
  費用負担:竹木の所有者

②通知不可による道路管理者による切除
  法令根拠:改正民法233条3項2号・所在不明
  道路管理者の対応:枝の切除
  費用負担:道路管理者(当面の間)

③急迫の事情による道路管理者による切除
  法令根拠:改正民法233条3項3号・急迫の事情
  道路管理者の対応:枝の切除
  費用負担:道路管理者(当面の間)

④催告後の不履行による道路管理者による切除
  法令根拠:改正民法233条3項1号・催告後、相当の期間内に切除しないとき
  道路管理者の対応:枝の切除
  費用負担:道路管理者(当面の間)

⑤竹木の所有者に対する行政代執行
  法令根拠:行政代執行法2条・他の手段で履行確保が困難、かつ不履行の放置が著しく公益に反する場合
  道路管理者の対応:枝の切除
  費用負担:竹木の所有者

 ①行政指導及び⑤行政代執行については、道路管理において従来から行われてきた手法であり、今後も継続して行われる手法である。
 ②及び③は、枝の切除の権限を付与し道路管理手法を拡張させたものであって費用負担の面で懸念もあるが、道路管理において有効に機能することが期待できる。
 ④については、適用される要件において⑤と重なることが考えられる。④では「催告からの期間」が要件となっているものの、道路管理である場合、⑤「不履行の放置が著しく公益に反する場合」の要件も当然に要求されていると考えられるからである。
 また、④は⑤に比べ簡便な手続きで実施できることから、本来⑤行政代執行でなすべき事案を脱法的な手法として採用されてしまうおそれがある。このため、道路管理においては、④は⑤に抱合される概念として、⑤に一本化して実施することが妥当と考える。

 

4.関連事項(隣地使用権)

 隣地の竹木の枝を切除する場合には、隣地に立ち入る必要がある。
 この点、改正民法においては、枝の切除についても条文が追加されている。

◯現行
(隣地の使用請求
第二百九条 土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修繕するため必要な範囲内で、隣地の使用を請求することができる。ただし、隣人の承諾がなければ、その住家に立ち入ることはできない。
2 前項の場合において、隣人が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。

◯改正
(隣地の使用
第二百九条 土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。
一 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
二 境界標の調査又は境界に関する測量
三 第二百三十三条第三項の規定による枝の切取り
2 前項の場合には、使用の日時、場所及び方法は、隣地の所有者及び隣地を現に使用している者(以下この条において「隣地使用者」という。)のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
3 第一項の規定により隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。

このため、枝の切除を行う場合、例え隣地の所有者が土地の使用に反対した場合、あるいは連絡がつかない場合であったとしても、道路管理者は枝の切除のための隣地の使用が可能としている。

4.おわりに

 前の投稿から間が空いてしまい、久しぶりの投稿となりました。
 検討の当初は、民法相隣関係の改正は、枝の切除を自身でできる権利が新たに付与されたものであり、道路管理においてはメリットだけかなとも思っていました。
 しかし、検討をすすめていくにつれて、道路管理者の費用負担の面や行政代執行との兼ね合いがあり、その運用においては簡単では無いこともわかりました。
 とはいえ、道路管理上の手法が拡張されたことであり、この手法を活用して道路管理における通行の安全性の向上に繋げていければと思います。


人口減少時代の道路管理の負担軽減策について考えてみた。

2021年03月07日 14時18分04秒 | 道路法

人口減少の時代においては、税収及び労働者数が減少することが考えられます。
そのため、現在、管理している橋梁、トンネル、舗装及び附属物等の道路施設の維持管理に充てられる費用や人材が不足し、道路を常時良好な状態に保つことが困難になると思われます。
以下には、維持管理における負担を軽減するための措置について検討します。


1.人口減少
日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計、国立社会保障・人口問題研究所)によれば、将来の人口等は下記のとおり推計されている。

○総人口 全国 2015年127,095千人 2045年106,421千人 2015年比83.7%
○地域ブロック別総人口 2045年人口の対2015年比
 北海道74.4% 東北69.0% 関東91.3% 中部82.4% 中国81.5% 四国73.4% 九州・沖縄83.0%
○都道府県別15-64歳人口 2045年人口の対2015年比
 全国72.3% 40%台都道府県2 50%台都道府県5 60%台都道府県25

これによれば、総人口が減少することの他、15歳から64歳までの人口(生産年齢人口)が32の都道府県において7割未満になるとされ、とりわけ半減以下になる道府県も2あることから、将来、道路の維持管理に対して必要な費用及び人員を、現在の水準で充当することは困難になると推測される。

2.道路管理おける施設管理の義務
道路法等においては、「道路の維持又は修繕」及び「技術的基準(点検)」について下記のとおり定めている。

道路法
(道路の維持又は修繕)
第四十二条 道路管理者は、道路を常時良好な状態に保つように維持し、修繕し、もつて一般交通に支障を及ぼさないように努めなければならない。
2 道路の維持又は修繕に関する技術的基準その他必要な事項は、政令で定める。

道路法施行令
(道路の維持又は修繕に関する技術的基準等)
第三十五条の二 法第四十二条第二項の政令で定める道路の維持又は修繕に関する技術的基準その他必要な事項は、次のとおりとする。
一 道路の構造、交通状況又は維持若しくは修繕の状況、道路の存する地域の地形、地質又は気象の状況その他の状況(次号において「道路構造等」という。)を勘案して、適切な時期に、道路の巡視を行い、及び清掃、除草、除雪その他の道路の機能を維持するために必要な措置を講ずること。
二 道路の点検は、トンネル、橋その他の道路を構成する施設若しくは工作物又は道路の附属物について、道路構造等を勘案して、適切な時期に、目視その他適切な方法により行うこと。

道路法施行規則
(道路の維持又は修繕に関する技術的基準等)
第四条の五の六 令第三十五条の二第二項の国土交通省令で定める道路の維持又は修繕に関する技術的基準その他必要な事項は、次のとおりとする。
一 トンネル、橋その他道路を構成する施設若しくは工作物又は道路の附属物のうち、損傷、腐食その他の劣化その他の異状が生じた場合に道路の構造又は交通に大きな支障を及ぼすおそれがあるもの(以下この条において「トンネル等」という。)の点検は、トンネル等の点検を適正に行うために必要な知識及び技能を有する者が行うこととし、近接目視により、五年に一回の頻度で行うことを基本とすること。

これによれば、道路管理者に対する義務としては、①常時良好な状態に維持・修繕して一般交通に支障を及ぼさないことと、②トンネル等を5年に1回の頻度で点検すること、が課されている。
このため、道路の延長やトンネル等の道路施設の多さによって、維持管理の負担が増えることとなる。

3.維持管理・軽減策(一般)
維持管理に対する費用及び人工を減ずるには、前述の道路延長及び施設の数(量)の抑制・削減に合わせて、以下の項目が考えられる。
①〔量の抑制・削減〕 道路延長の増加の抑制・削減、道路施設の抑制・削減、点検対象箇所・要対策箇所の削減
②〔質の低減〕 維持管理水準の低減区間の設定
③〔原因者への除去等の請求〕 道路区域を侵害する物件に対する原因者への除却等の履行請求
これらについて、政策分野、技術分野及び法律等分野、それぞれについて軽減策を述べる。

4.軽減策(政策分野)
○長期間に渡って不連続で将来の改良工事の見込みの無い区間を有する路線の変更・廃止
過去に将来の改良工事を期待して山越えの路線を認定している場合がある。
現状においては、将来の通行量が見込めず、また難工事による多額の工事費が掛かることから、改良工事の予定は立たない場合がある。
一定期間が経過し、改良工事の予定がない場合には、現状に合わせてその区間を路線から除外する。
その際、起終点の地点が変更となるため、路線の変更・廃止を行う。
○都道府県と市町村との連携による路線の統廃合及び道路施設の削減
特に交通量の少ない山間部において、都道府県道と市町村道が並走する区間や山間部の集落へのアクセス道路が複数ある場合には、道路管理者の境界を超えて路線の統廃合の可否を検討する。
これにより、一方の路線が廃止されることができる場合には、橋梁等の道路施設の長寿命化対策施設の削減も可能となる。
○都道府県と市町村との連携による除雪しない区間の設定
冬期の特に山間部の都道府県道と市町村道とにおいて、一方の路線を除雪しなくとも地域の交通が確保される場合には、その区間の除雪を行わず冬期閉鎖とする。
○巡回及び維持管理作業の頻度の低減区間の設定
主として山間部の行き止まりの道路において、その区間を通行する者が終点の集落等の住民が大半である場合には、通行者の区間の道路性状の熟知度に期待して一定程度維持管理水準(巡回及び維持管理作業の頻度)を低減する。

5.軽減策(技術分野)
○道路施設の設置の抑制
道路の設計において、例えば山間部の横断形状を決める場合には、その地質条件に見合う安定勾配を設定することとなる。
しかし、設計段階では予期しない湧水や地質の変化が生ずる場合がある。
その際には、その「安定勾配」を保持するための擁壁工、グラウンドアンカー工及び吹付枠工等の法面保護対策の追加施工を行うこととなり、その対策工に要する費用の他、事後の点検、維持管理に費用が掛かることとなる。
これらの費用を発生させないとすれば、例えば小規模切土法面の設計となる場合であれば、法面勾配を「安定勾配」からさらに緩斜面あるいは平地とし、法面そのものを生じさせない計画とすることが望ましい。
つまり、用地取得による道路施設の設置を不要とする対策と言えるものである。
この場合、その平地は、原則として道路管理者が用地買収により取得するものとするが、相手方の所有のままとしても構わない。
○防災点検箇所(法面)の維持管理対策としての法面の除去
前述の用地取得による道路施設の設置を不要とする対策は、防災点検の対象となっている法面に対しても有効であると考える。
法枠工やモルタル吹付工が劣化した小規模法面における維持管理対策としては、法面対策工の検討と合わせて用地取得により法面そのものの除去を検討する。

6.管理軽減策(法律面)
○維持管理水準の複数設定化
日常的が道路の維持管理については、道路法施行令の他、道路の維持修繕等管理要領(昭和三七年八月二八日建設省道発第三六八号道路局長通達)により定められている。

道路法施行令
(道路の維持又は修繕に関する技術的基準等)
第三十五条の二 法第四十二条第二項の政令で定める道路の維持又は修繕に関する技術的基準その他必要な事項は、次のとおりとする。
一 道路の構造、交通状況又は維持若しくは修繕の状況、道路の存する地域の地形、地質又は気象の状況その他の状況(次号において「道路構造等」という。)を勘案して、適切な時期に、道路の巡視を行い、及び清掃、除草、除雪その他の道路の機能を維持するために必要な措置を講ずること。

道路の維持修繕等管理要領(抜粋)
2 道路パトロールの実施
 1 交通量三〇〇台/日以上の主要な路線については、担当区間を定め、定期的にパトロールを行なうこと。
 2 台風、豪雨等の際及びその直後にはパトロールを強化すること。
 3 パトロールするに当たっては、担当区間内について、次の事項を適確に行なうこと。

これによれば、交通量300台/日未満の区間については、巡視(パトロール)を道路管理者の義務とはしていないため、道路管理者の裁量によって合理的な巡視等の頻度を定めることができるものとされている。
しかし、交通量300台/日に満たない路線であっても、道路管理者は他の路線と同様の頻度で巡視を行っていることが多いものと考えられる。
管理の負担を削減するには、このような交通量の少ない路線について巡回頻度を低減すること必要であり、下記の対策を採用し可能となるものと考える。
①〔道路利用者への周知〕 巡回頻度を複数設定する場合、条例により公示する。
②〔道路利用者への周知〕 路線の通行者に対して巡回頻度が低い路線であることを現地に標識等で明認する。
③〔道路利用者からの情報受信体制の構築〕 利用頻度の高い道路通行者を連絡者として委任し、道路の状況の通報を依頼する。
このうち、①については、道路法42条において「路線により異なる管理水準を定めた場合は、道路管理者は条例で指定できる」及び「指定した場合は遅滞なく公示しなければならない」とする旨の条項を追加することによって、その法的根拠とする。

○道路区域外からの侵害に対する道路管理者への命令権限の付与
道路法においては、下記の規定が定められている。

(沿道区域における土地等の管理者の損害予防義務)
第四十四条 道路管理者は、道路の構造に及ぼすべき損害を予防し、又は道路の交通に及ぼすべき危険を防止するため、道路に接続する区域を、条例(指定区間内の国道にあつては、政令)で定める基準に従い、沿道区域として指定することができる。但し、道路の各一側について幅二十メートルをこえる区域を沿道区域として指定することはできない。
2 前項の規定により沿道区域を指定した場合においては、道路管理者は、遅滞なくその区域を公示しなければならない。
3 沿道区域内にある土地、竹木又は工作物の管理者は、その土地、竹木又は工作物が道路の構造に損害を及ぼし、又は交通に危険を及ぼすおそれがあると認められる場合においては、その損害又は危険を防止するための施設を設け、その他その損害又は危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。
4 道路管理者は、前項に規定する損害又は危険を防止するため特に必要があると認める場合においては、当該土地、竹木又は工作物の管理者に対して、同項に規定する施設を設け、その他その損害又は危険を防止するため必要な措置を講ずべきことを命ずることができる。
 
道路の維持管理において、道路区域外の隣接地からの木の枝の侵害が多く、建築限界への侵害及び枝の落下等によって通行の危険となる場合があり、道路管理者が維持管理の費用によって除去していることもある。
このため、道路区域を侵害する物件及びそのおそれがある物件については、直接相手方に命令を行うことのできる権限の付与が必要であると考える。
44条は道路管理者に対して侵害の相手方への命令の権限を付与する規定ではあるものの、前提として道路管理者が沿道区域を指定する手続きが必要であり、点在する物件等に対する臨機な対応が困難であると考えられる。
道路管理者が「一般交通に支障を及ぼさないように務めなければならない(42①)」とする義務を負っており、この義務を十分に果たすための法的権限として直接相手方に侵害する物件の除却を命令する権限が必要と考える。
この規定により、本来、侵害の相手方が負担すべき除却費用を負担することになり、通行の安全性が向上するとともに、道路管理者の負担が軽減されるものなる。

 
おわりに
 
橋梁等の道路施設について、将来に渡って長持ちさせるための長寿命化対策としての維持補修工事が行われています。
しかし、長寿命化対策として道路施設を延命したとしても、必ず終わりが来ます。
将来、現在の道路施設の全てを維持管理することは困難です。
また、人口密度の希薄化、集落の消滅等、地域の人口分布も変化・縮小することが考えられます。
このような、将来の状況に合わせて、施設の長寿命化の要否を検討、残すべき施設の選別、廃止できる施設の選定等を考えていかなければならないものと思います。
 
以上

道路区域を侵害する民地の樹木の伐採について考えてみた。

2020年07月07日 14時12分38秒 | 道路法

 道路脇の民地に生えている樹木の枝が道路にはみ出し、通行の妨げになる場合があります。
 本来は、その土地の所有者が、樹木を道路にはみ出さないように管理すべきですが、土地所有者が自ら支障木を伐採できず、通行を妨げる状態が継続する場合もあります。
 以下には、道路管理者が土地所有者に道路維持管理業者等を斡旋することによって、土地所有者の費用負担によって支障木を除去する対策案を検討したいと思います。


1.道路管理における支障木の対応

 民地の樹木が道路区域を侵害する場合は、通行の支障の程度によって以下のように分けることができる。

 ①〔道路区域の侵害〕道路区域を枝葉が侵害する場合
 ②〔建築限界の侵害〕道路の建築限界を枝葉が侵害する場合

 ①の場合は道路あるいは通行車両及び人に対して枝葉や雪の落下のおそれがあり、②の場合は①に加えて直接通行車両との接触のおそれがあり、いずれにしても事故の原因となり得る。

 道路管理においては、枝葉が建築限界を侵害しているような状態であれば、事故発生のおそれが高いことから、早急に当面の通行の安全性を確保するために、道路管理者がその侵害している部分について伐採しなければならない事態が生ずる。
 本来は、土地所有者が道路区域にはみ出さないよう適正に樹木を管理すべきである。しかし、道路管理者が支障木の除去を指導しても土地所有者によって伐採が行われず、支障木による道路区域の侵害状態が継続することもある。

2.対策案
 以下は、道路管理者の指導に対して土地所有者が伐採の意思があるものの、自身で伐採業者への依頼ができない場合に、道路維持管理業務を行っている道路管理業者あるいは樹木管理業者(以下「管理業者」という)による伐採を合意・契約したうえで進める対策案である。

 ①〔道路管理者→土地所有者〕道路区域への樹木の侵害についての除去指導、管理業者の斡旋。
 ②〔土地所有者→道路管理者〕伐採の申込み。
 ③〔道路管理者→管理業者〕伐採申込みがあったことの通知。
 ④〔管理業者↔土地所有者〕伐採範囲(樹木全部or枝)・工程・金額等の確認。伐採の契約締結。
 ⑤〔管理業者〕伐採作業。
 ⑥〔土地所有者→管理業者〕支払い。
 ⑦〔道路管理者〕除去指導に対する履行状況確認。対応終了。

3.おわりに
 本対策案は、管理業者が道路の支障木等の伐採及び剪定の作業に合わせて、本来の道路維持管理業務の支障とならない範囲で、民地の支障木の伐採を行おうとするものである。
 管理業者が民地の支障木を伐採を行うことは、道路維持管理業務と一連で作業を行うことができるため、作業機械の流用が可能となり、個人が個別に伐採を依頼するより安価に契約できるものと考えられる。
 この対策案によって、支障木の解消につながることを期待する。

以上


「安全かつ円滑な交通の確保」のための通行規制について考えてみた。

2019年01月19日 11時33分40秒 | 道路法

 道路管理者が行う通行規制は、道路法第46条第1項(第1号・道路の破損等の場合、第2号・工事の場合)を根拠として行います。
 このため、道路管理者は、これ以外の事象を原因とした通行規制を行うことはできないということになります。
 しかし、道路管理においては、道路の破損等や工事以外の事象に対しても通行規制を実施したほうが、結果としていっそう道路管理に有効で通行者にとっても利益となる場合が考えられます。
 以下には、通行規制の要件として「安全かつ円滑な交通の確保」を加えることについて検討します。 


 1.道路法における通行規制の規定
 道路管理者が行う通行規制(「通行の禁止又は制限」をいう)は、46条1項において規定される。

道路法(通行の禁止又は制限)
第四十六条 道路管理者は、左の各号の一に掲げる場合においては、道路の構造を保全し、又は交通の危険を防止するため、区間を定めて、道路の通行を禁止し、又は制限することができる。
一 道路の破損、欠壊その他の事由に因り交通が危険であると認められる場合
二 道路に関する工事のためやむを得ないと認められる場合
(注)2項(道路監理員が行う通行規制)及び3項(水底トンネルにて行う通行規制)は、ここでは論じない。

  1号の場合であれば、道路の破損等により「交通が危険であると認められる場合」と規定しており、道路構造自体の破損や道路に作用する外力によって「客観的に交通の危険状態が生じていることを要する」(道路法解説〔改定5版〕道路法令研究会編著 407頁 大成出版社)。しかし、「現実に路体が崩壊していなければ通行規制できないものでない」(同前「解説」)として事前に予測される事態も含んだ規定であると解されている。つまり、一定の降雨量を超過した場合(実際には「事前通行規制」として運用されている)や、過去の災害履歴なども危険性判断の要素となるものとしている。
 また、2号の場合であれば、車線での工事を行う場合の他、車線以外の工事であっても車線を通行する車両等の荷重を安全に支持できないような場合(路肩・法面での掘採を行う場合など)においては、「どうしても平常どおりの通行を認めることができない」」(同前「解説」)ことから通行規制を行うこととなる。

2.通行規制を行う要件の拡張の検討
 前述のとおり、1号の通行規制(以下「1号通行規制」という)を実施するには「交通が危険であると認められる場合」とする要件を満足する必要がある。
 しかし、実際の道路の通行においては、危険とはいえないが円滑な交通を妨げるような事象が発生し、交通渋滞等本来道路が有する通行機能を損ねる場合がある。
 具体的には、幅員狭小で急勾配の坂道において、冬期に路面凍結や積雪によって大型車同士のすれ違いに慎重な運転が求められるような区間では、冬道に不慣れなドライバーが坂道の途中で停止した後、スリップにより再発進ができずに立ち往生してしまい、渋滞を引き起こすような事象である。


 本来であれば、このような幅員狭小で急勾配の区間は改良工事によって解消することが望ましいが、路外に拡幅のできる余地がなく、またロードヒーティングによる路面凍結防止を行うにしても多額の工事費及びランニングコストがかかるため採用は相当難しい。
 このような事象の解決案としては、その幅員狭小で急勾配の坂道区間は対面通行とはせず、その坂道区間の手前の平坦な位置で車両が待機(停止)するような片側交互通行を行えば、比較的安価に渋滞の原因を解消することができ、片側交互通行とはなるものの円滑な交通に資することとなる他、安全性の確保にも寄与する通行規制が行えることとなる。
 このため、道路管理者が行う通行規制を、「円滑な交通」と「安全性」、すなわち「安全かつ円滑な交通の確保」のため必要と認められる場合に対しても実施できることが望ましい。
 付け加えると、「安全かつ円滑な交通の確保」は道路法においては、17条6項(管理の特例)、28条の2第2項2号(協議会)、29条(道路の構造の原則)及び47条の3第1項(限度超過車両の通行を誘導すべき道路の指定等)において用いられている用語であり、これに基づいて通行規制を行うことは道路法の執行とも齟齬はないものと考える。

3.「安全かつ円滑な交通の確保」のための通行規制と1号規定との適用範囲の比較
 1号通行規制と比較すると下記のとおり表すことができる。

 ・道路に生じた危険を回避するための規制
   ⇒ 1号通行規制
 ・道路における安全性を保持し、できる限り本来の通行機能を維持するための規制
   ⇒ 「安全かつ円滑な交通の確保」のための規制

4.さいごに
 本通行規制を実施する箇所は、交通の確保上、特に必要性が高い緊急輸送路や高速道路の代替路(いわゆる「下道(したみち)」)となる一般国道等の幅員狭小で急勾配・急カーブの区間を想定している。
 積雪寒冷地においては、一定の気象状況(暴風雪警報)あるいは路面状態(積雪及び路面凍結)の悪化によって、高速道路が通行止めとなる場合がある。この場合、高速道路と並行して位置する一般国道等が代替路として通過車両を受け入れることとなるが、高速道路より構造規格の低い一般国道等が、高速道路の通行止めとなるほどの悪条件のもとではその代替路としての十分な能力はない。
 冬季間において高速道路が通行止めとなった際に、一般国道における渋滞の発生原因としては、幅員狭小の急勾配区間における大型車のすれ違い困難及び一旦停止後の再発進不可が多く、過去からの発生箇所も把握されている。
 このような箇所において、致命的な通行不能状態に陥ることを未然に防ぐための措置として通行規制は必要であり、「安全かつ円滑な交通の確保」に対応した規定の新設が必要であると考える。

以上


道路管理者の異なる交差点の補修工事を一体的に施工することについて考えてみた。

2018年02月27日 00時15分10秒 | 道路法

 道路は、各道路管理者が定めた区域(道路区域)を対象として、その道路管理者によって管理されます。 そのため、各道路管理者の維持管理の程度及び補修の時期の違いによっては、道路区域の境界となる箇所において路面状態が異なる場合があることとなります。
 しかし、路面状態の変化は、道路利用者にとって違和感を生じさせたり安全性を損ねることがあるため、道路区域の境界となる箇所であっても、同一の路面状態を保持し急激な変化を避けることが望ましいものと考えます。
 また、道路区域の別によらず一体として補修工事を行うことができるとすれば、各道路管理者が個々に工事を行うより全体として経済的であったり工事期間を短縮できたりすることとなり、道路利用者に対する影響が軽減できることが考えられます。
 ここでは、管理の境界となる交差点において、道路補修工事を一体的に施行することについて検討をしてみました。


道路管理者の異なる交差点の補修工事を一体的に施行するための検討
 
1.検討目的
 道路は、国、都道府県及び市町村等の道路管理者によって、各々の管理する区域、すなわち道路区域を対象として管理されている。主として国及び都道府県の管理する道路は地域の幹線となり、市町村道はその幹線に対して接続される場合があり、その接続箇所が交差点として管理の境界となることとなる。
 そのため、交差点が道路区域の境界である場合には、複数の道路管理者による補修工事が別々の時期に行われることとなる。
 しかし、交差点において補修工事対象範囲が複数の道路区域に及んでいる場合、道路区域を境界とせずに工事を行ったほうが全体としての工事費が安価になり、また交差点の通行規制の期間についても一時期に集中して行うことができるため、通行規制等による道路利用者に対する負担も軽減されることとなる。
 また、例えば県道との交差点を形成する市道の場合、その補修対象範囲は小規模な場合が多く単独の工事として発注するには小規模すぎるため請負工事の対象とはしづらい。また、通年委託の道路維持管理業務で補修するとすれば、当該業務が穴埋め、パッチング及びひび割れ補修等を予定しているため、面的な舗装打換えとなる交差点部の施工は業務の性質上施工が難しい。そのため、単独の補修工事として発注することが難しく、施工時期を適時に設定できない場合が生ずる。 
 以下には、前述の不都合を解決すべく、県道の補修工事の際に交差点部の市道道路区域の補修工事を一体的に施行することについて検討することとする。

2.一体的に施行する際の運用
 県道の管理は県が行い(道15)、市道の管理は市が行う(道16)こととされており、各道路管理者はその道路の管理上必要とされる事象について費用を支出することとなり、他の道路管理者の管理についてはその義務を負うこととはなっていない。
 また、一方の道路管理者(例えば県)が市の道路の管理費用を任意に負担することについても、地方自治法232条1項(※1)に違反することから認められない。
 そのため、工事費の支出は県及び市がそれぞれの道路区域に掛かる費用を負担した上で、工事の施工については県及び市の道路管理区域を一体的に行うことが必要とされる。
 この運用についての基本的事項を列挙すると以下の通りである。
 ・計画段階 道路管理者間による補修工事の調整
 ・契約段階 採用する契約方式
 ・施工段階 施工管理
 次には、各段階毎の運用の詳細について検討する。
 
※1 地方自治法232条1項 普通地方公共団体は、当該普通地方公共団体の事務を処理するために必要な経費その他法律又はこれに基づく政令により当該普通地方公共団体の負担に属する経費を支弁するものとする。
 

3.計画段階(道路管理者間による補修工事の調整)
  • 県道の補修工事の区間に接する市道を一体施工の対象とする。
  • 前年度において、県は補修工事予定区間を市に示し、市が一体施工として補修工事を希望する箇所を県に示し承諾を得る。
  • 原則として、交通誘導警備員及び機械運搬費は県の負担とする。


4.契約段階(採用する契約方式
  • 県補修工事の公告の際、本工事と合わせて市道の補修工事(工事概要を記載)を行うこと及び市と随意契約を行うことを特記仕様書に明示する。
  • 市補修工事は、市財務規則に定められた随意契約の額(例えば130万円)を超えない設計額とする。
  • 市は、県の施工業者(契約者)と随意契約により契約を行う。


5.施工段階(施工管理
  • 施工計画書及び施工管理資料等は、様式の統一化、あるいは県と市の記述が分るよう明示した上で様式の同一化を図り、施工業者の負担軽減を図る。
  • 施工業者との打合せは、県、市及び施工業者の3者で行うことを原則とする。
  • 完成検査は、地方自治法234条の2第1項で各自治体に請負契約の検査が義務付けられている(※2)ことから、県と市の検査員がそれぞれの区域を対象として行う。
※2 地方自治法234条の2第1項 普通地方公共団体が工事若しくは製造その他についての請負契約又は物件の買入れその他の契約を締結した場合においては、当該普通地方公共団体の職員は、政令の定めるところにより、契約の適正な履行を確保するため又はその受ける給付の完了の確認(給付の完了前に代価の一部を支払う必要がある場合において行なう工事若しくは製造の既済部分又は物件の既納部分の確認を含む。)をするため必要な監督又は検査をしなければならない。
 

6.おわりに
  法律上、公物に対する管理区域が設定され、その区域の境界によって公物管理に支障が生じたり、利用者に不利益が生じたりするとなれば、それを克服することが必要です。
 競争入札による契約からすれば随意契約は例外的契約手法であると思いますが、前述の支障及び不利益の克服に対して有効であれば、随意契約を採用することも一考に値するものと考えます。
 
以上