NPO神奈川県日本ユーラシア協会 日本とユーラシア~ダイジェスト版~

神奈川県日本ユーラシア協会で毎月発行している機関紙「日本とユーラシア」から、ユーラシア芸能情報をお伝えします。

モスクワ郊外コンサート会場銃乱射事件

2024-03-31 07:09:54 | その他雑記

▲大規模テロ事件があったクロッカス・シティ・ホールはモスクワ中心から20km圏内



事件概要

 モスクワ市郊外北西に位置する、クラスノゴルスク市に建つ大型商業施設クロッカス・シティ・ホール(https://crocus-hall.ru/)。傍には蛇行して流れるモスクワ川がある。ホテルやレストランを有するクロッカス・ジティ・コンプレックスの一部で、平日休日問わず賑わい、多くの人々が集まる場所だ。嘗ては国内外の有名アーティストらがコンサートを開き、当日は晩にソ連時代から活動しているロックバンド「Пикник」のコンサートが催されるはずだった。ところがコンサート開演前の現地時間3月22日午後8時頃、4人組の男が自動小銃と爆発物を携え、ホールで開演を心待ちにしていた数千の観客達を一瞬で奈落の底に突き落とした。ほどなくしてISIS-Kが犯行声明と襲撃犯が撮影したビデオを公開した。


容疑者の面々

 容疑者はいずれもCIS諸国で貧国のタジキスタンやキルギスタンなどが出身。実行犯4人、共犯者4人、重要参考人3人の合計11人。犯行後白い車2台で逃走を図ったが、国境封鎖と激しいカーチェイスの末、全員拘束された。既に実行犯4人は起訴され公開されたが、尋問があったのか、損失された耳を覆った者、片頬が数倍腫れあがっている者、青タンが見受けられる者の出廷は、国内外に衝撃を与えた。
1)リーダー
 タジキスタン国民のダレルジョン・ミルゾエフ(Далерджон Мирзоев)は最初の被告人となったため、露のSNSでは彼を「リーダー(Главарь)」というあだ名を付けた。32歳、既婚者、子供が4人。RT によると、彼はロシア移民法に繰り返し違反しており、2011年から法執行機関の監視下に置かれているという。 ロシアに住み、半合法的な立場で働いていた。最近までタクシー運転手として働いていたそう。ロシア語が話せない、理解できないと主張しており、取り調べ中は通訳を介して会話したという。
彼は事件当日駐車場で人々に向けて発砲した。 建物に火を放った後、コンサートホールを歩き回り、負傷者にナイフでとどめを刺した。
2)耳
 同じくタジキスタン国民のサイダクラミ・ムロダリ・ラチャバリゾダ(Саидакрами Муродали Рачабализода)は、2人目の被告人である。 逮捕中に負ったとされる傷から、彼は「耳(Ухо)」とか「耳-鼻-喉(Ухо-нос-горло)」というあだ名が付けられた。 30 歳で子持ちだが、どこにも働いたことがなく、中等教育も未完了。彼は露のどこで居住登録したか覚えておらず、「ロシア語を知らなかった」と主張したが後に、 ポドリスク地区のインダストリアルナヤ通りにあるアパートに登録されていたことが判明した。2018年には露滞在規則に違反したとして罰金を科せられ、単独で国外に​​旅行するよう命じられた。彼はコンサートホールや廊下で床に横たわっている人々を至近距離で機関銃で撃ち殺した。
3)電話男
 同じくタジキスタン国民のファリドゥニ・シャムシディン(Фаридуни Шамсидин)は、3人目の被告である。SNS上では、コード線がついた写真が公開されたことで「電話男(Телефонист)」と呼ばれたり、法廷で頬が腫れている様子だったことで「歯肉下膿瘍(Флюс)」と呼ばれたりした。 25歳で、生後8か月の子供がいる。クラスノゴルスクで居住登録され、ポドリスクの工場で雇用されていた。最初の取り調べで、「金銭目的で人を撃った」ことを認め、金額を50万ルーブルと特定した。 テレグラムで連絡を取り合っていて、ある「宣教師の助手」が彼に殺害を提案したとも述べた。公判では他の被告と同様、通訳を介して会話を行った。彼はクロッカス・シティホールの職員と訪問者を射殺した。
4)目
 同じくタジキスタン国民のファイゾフ・ムハマドソビル・ゾキルチョノビッチ(Файзов Мухаммадсобир Зокирчонович)は、4人目の被告である。 ブリャンスク地方での逮捕中に負傷し、眼窩から目が落ちたため、インターネットユーザーからは「目(Глаз)」というあだ名が付けられた。 テロ攻撃の実行犯4人のうち最年少で19歳、独身、子供はいない。彼は格闘技に携わっていた。 しばらくの間、彼はイヴァノヴォの理髪店で働き、そこで住民登録された。犯罪歴はなく、 最終学歴は中等教育までだった。事件当時は逃走車の運転手役で、途中で8歳の少年を轢いた。ロシア語を話せず、取り調べはタジク語からの通訳を通して行われた。彼はカテーテルと尿バッグを装着され、車椅子で法廷に連れてこられた。

▲起訴された実行犯4人(左上から時計回りに、電話男、目、リーダー、耳)



クロッカス・シティ・ホールについて

 事件の会場となってしまったクロッカス・シティ・ホールは、クロッカス・ビジネスセンターの敷地内にある大規模コンサート施設で、ソ連時代から活動しているアゼルバイジャン出身のバリトン声楽家マゴマエフ氏に因んで建設された。同アーティストは、功績を讃えられソ連国民栄誉賞、アゼルバイジャン共和国国民栄誉賞など数々の賞を受賞した。
 そして彼の友人であったロシアの実業家アガラロフ氏により、2009年に彼の名を記念して建設された。アガラロフ氏はクロッカスグループのオーナー兼会長であり、2020年にはフォーブス誌「ロシアの長者番付」で55位(170億米ドル)にランクインした富豪である。
 事件についてアガラロフ氏はインタビューで「銃乱射事件現場には600発の弾薬があり、軍事作戦さながらなことが繰り広げられていたが、そんなとき一介の警備員に何ができただろうか? 英雄的な行為と技術によって命は救われた。 」と破壊工作員による想像を絶する攻撃と、完全な荒廃を前にした治安の無力さについて語った。
実際のインタビューの様子はこちらから⇒https://www.youtube.com/watch?v=x661e3KKFmE

 彼の息子であるエミン氏も実業家であり、クロッカスグループの第1副会長を務めている。また歌手としてのキャリアもあり、音楽ビジネス業界「Жара」などで勢力的に活動し、露芸能界の大御所レプス氏と2010年代後半から共同事業を展開している。
 そのエミン氏が、当事件のインタビューに登場している。コンサート会場には十分な数の非常口があったことを述べた。スタッフルームや楽屋などに通じる出口があってカード無しで開けられないこと、コンサート会場下の方とロビーにテロリストがいて銃声を上げていたことで更なるパニック状態になったこと。更に、15年前にこれを約7,000万米ドルで建設したが、 現在このようなホールを 1 億 5,000 万米ドル未満で建設することは不可能だということを述べた。また別のインタビューでは、「非常事態省の職員とクロッカス・シティ・ホールのロマン・グラチェフ支配人と共にに、最初の銃声が発砲されてから40分後に建物に入った。 私達は何度も出入りを繰り返したが、30分以上はそこにいた。その時は煙が充満していなかった避難通路をすべて通った。」と語った。なんとか4階に到着し、 この後救助隊が監視カメラのビデオ録画が記録されたメディアを持ち出すためにサーバールームのドアを破壊した。これがテロリストの発見と捜査に役立ったそうだ。



政府の動向

 3月上旬に米国側から「モスクワの集会場所などでの大規模テロが企てられている情報を得た」ともたらされた。
 確かに3月7日頃に日本大使館から各在露日本人にもその旨が伝えられていた。
 しかし政府側は、大統領選挙のこと、ナヴァリヌィ追悼集会のこと、特別軍事作戦などで、米国側からの貴重な情報を蔑ろにしていたようだ。しかも事件は選挙後で、緩んでいたのかもしれない。
 政府高官らは当初ウクライナの関与は無いだろうという見解だったが、プーチン大統領らが政治利用し「容疑者らはウクライナ方面に逃走した」などとし、2010年にモスクワ地下鉄「ルビャンカ駅」「パルク・クリトゥーリ駅」で起きた自爆テロ事件の捜査を担当した公安犯罪捜査部門級捜査官クズネツォフ氏が、3月22日から捜査を開始した。一方、ウクライナは関連を否定している。


国民の反応

 一方国内では、現在も服喪中だ。現場の彼方此方に献花の山、7000人以上もの献血希望者の列。露アーティスト有志が、犠牲者と遺された人々に「ЖИТЬ」をコラボレート。露SNSフコンタクテでは、バナー表示が濃灰色のままだ(通常は青字)。また、24日ぐらいから同SNSでは帯同キャンペーン「Скорбим」が登場し、モノクロの現場写真を折り紙の鶴が飛翔する絵が拡散されている。この建物はアゼルバイジャンのバリトン歌手マゴマエフ・ムスリムを記念して建てられたが、彼は「鶴」という歌も歌っている。また露では、鶴は「戦死した兵士の魂は、鶴に宿る」という伝説がある。失意の中にある露国民は、犠牲になった無辜の人々の魂を鶴の中に見出したいのだろう。

▲露SNSフコンタクテでは、バナー表示が濃灰色のままだ(通常は青字)



▲露アーティスト有志による、犠牲者と遺された人々に送った「ЖИТЬ」(刺激的な映像が入っているので、本編をご覧になりたい方は、クリックしてYOUTUBEでご覧下さい)


亡くなられた方々のご冥福をお祈りします。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« Russia Airplay Chart10 in T... | トップ | Russia Airplay Chart10 in T... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

その他雑記」カテゴリの最新記事