劉慈欣(大森望・古市雅子訳),2023,白亜紀往事,早川書房.(6.15.24)
白亜紀末期、蟻と恐竜が、共存共栄の文明を構築する。
巨大なタコの形状をした火星人と地球人との抗争を描いた、H・G・ウェルズの『宇宙戦争』と同様、一種のファンタジー小説として楽しむべき作品だろう。
恐竜の二大勢力(かつての米国とソ連を連想させる)の軍拡競争、恐竜帝国で働く蟻のストライキ、蟻と恐竜の全面戦争、そして蟻文明、恐竜文明双方の絶滅と、読ませどころはふんだんに用意されている。
劉慈欣のストーリーテラーとしての力量を堪能できる作品だ。
時は、今から6500万年ほど前、白亜紀末期のある日。一頭のティラノサウルス・レックスの歯にはさまった肉片を、蟻たちがたまたま掃除してあげたことから歴史は大きく動き始めた。恐竜と蟻という二つの種属は、お互いの長所―恐竜は柔軟な思考力、蟻は精確な技術力を活用し、それぞれの欠点を補完し合い、新たな文明を築くに至った。文字の活用、蒸気機関時代を経て、現代人類社会と変わらぬ高度な文明を発達させ、地球を支配していた。だが、永遠に続くと思われた、恐竜と蟻の二大文明は、歴史の必然か、深刻な対立に陥り…。代表作『三体』がドラマを始め複数のメディアで映像化され、映画「流転の地球」が世界で大ヒットを記録。世界のエンタメ界で注目を集める劉慈欣が、二つの種属の存亡を賭けた戦いを、壮大なスケールで描いた初期長篇。