小手鞠るい,2019,瞳のなかの幸福,文藝春秋.(1.13.25)
カタログ会社で働く35歳の編集者、妃斗美。婚約を破棄された過去を持つ彼女は、これからひとりで生きていくために、大きなものを買って、小さなものを拾った。手に入れたふたつの“幸福”は、彼女に何を与え、何を奪っていったのか。
弟から「早く結婚しろ」と無神経なおせっかいを受ける主人公、妃斗美。
妃斗美は、2つの大切なものを手に入れる。
自分の家とねこ。
こんな小さな生き物に、こんなにも大きな力が宿っているなんて。
これはマジックだ。これは愛のマジックだ。こんなにも小さくて軽くて、ふわふわしててあたたかくて、やんちゃで愛情深くて、野性味たっぷりの美しい生き物がただそばにいてくれるだけで、人はこんなにも満たされて、こんなにも幸せになれるものなのだ。
これが魔法でなくて、いったいなんなのか。
(p.150)
小さな、だけれど、かけがえのない幸せを手に入れた35歳、独身女性の繊細なこころ模様がとてもよく描かれている。
こころにぽっと暖かな火が灯る、そんな作品だ。
小手鞠るい,2020,私たちの望むものは,河出書房新社.(1.13.25)
NYで亡くなった美しい叔母・千波瑠。彼女にはたった一つの秘められた恋があった――。涙なくして読めない、著者7年ぶり恋愛小説!
主人公、夏彦は、憧れの存在だった叔母、千波瑠がNYで亡くなり、彼女が住んでいた家で遺品を整理する。
千波瑠の切なすぎる恋が、思い出の品々の由来ともども語られていく。
地味な作品ではあるが、夏彦と千波瑠の、すれ違い、交差しない思慕が細やかに描かれている佳作。