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本と音楽とねこと

ぼっけえ、きょうてえ

岩井志麻子,2002,ぼっけえ、きょうてえ,角川書店.(5.23.24)

 岡山弁で言う「ぼっけえ、きょうてえ」とは、「とても怖い」という意味だ。

 岩井さんのデビュー作である本書には、4つの短編が収められており、いずれも、岡山のウェットな風土に根付いた隠微な世界が展開する。

 岡山は「晴れのくに」として知られている。
 であるのに、なぜウェットなのか。
 大宅壮一が岡山県民を「日本のユダヤ人」と呼んだのはよく知られているが、高速交通網による社会移動と情報化が進んだ現在、県民性が云々という議論はナンセンスになっているとしても、13年間、岡山(倉敷)に暮らしたことのあるわたしとしては、「ウェットで隠微」という形容がストンと腑に落ちる。

 岡山・倉敷都市圏は、東に、姫路、神戸、西に、福山、広島という都市圏に挟まれており、比較的、他県からの流入者、他県への流出者が少なく、血縁と婚姻縁による親族関係、地縁による地域共同体の残滓がしぶとく残り続けてきた。
 とくに、岡山県北の、緊密に親族ネットワークが張り巡らされた閉鎖的な地域共同体において、「日本人の文化的DNA」が強く残存し続けてきたと言っても良かろう。
 「津山30人殺し」も、そんな地域共同体から排除された青年が引き起こした惨劇であった。

21歳の青年が猟銃と日本刀で30人を襲撃……82年前の世界的事件「津山三十人殺し」とは

 子潰し婆、女郎、酌婦、夜這い、DV、飢餓、村八分等々、この世の地獄を演出することがらが、とことん陰惨で気を滅入らせる。
 幽霊よりもはるかに怖い人間の姿を描いた傑作短編集である。

―教えたら旦那さんほんまに寝られんようになる。…この先ずっとな。時は明治。岡山の遊郭で醜い女郎が寝つかれぬ客にぽつり、ぽつりと語り始めた身の上話。残酷で孤独な彼女の人生には、ある秘密が隠されていた…。岡山地方の方言で「とても、怖い」という意の表題作ほか三篇。文学界に新境地を切り拓き、日本ホラー小説大賞、山本周五郎賞を受賞した怪奇文学の新古典。


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