ラトゥーシュのいう「脱成長」とは、カール・ポランニーの用語でいくと、「市場(経済)」を「社会」に埋め込みなおすということになるのだろうが、ラテンアメリカ先住民の社会運動、メキシコ、チアパス州のサパティスタ民族解放軍による自治、そしてアリストテレスを嚆矢とする地中海周辺地域の経済思想に至るまで、「脱成長」をめぐる思索が綿々と紡がれている。
まず、主張されるのが、「経済成長」の外的限界、すなわち地球環境問題である。エコロジカル・フットプリントのうえでも、もはや「カタストロフ」間際の状態であることが、いくつもの根拠を添えて明示されている。ディープ・エコロジーの考えも参照されており、この部分はけっこう読みごたえがあった。
ただ、「土地」、「労働」、「貨幣」を「社会」に再び埋め込みなおすことができたとして、具体的に、どのような、土地の共有、労力の提供、富の分配の制度、システムが想定されるのか、類書もそうなのだが、いまひとつ明確ではない。一代限りの制限付きの土地使用権、ボランタリー経済、ベーシックインカムの導入等が考えられるが、それらは、現状の制度、システムを改変していくことで実現するほかないのだろう。
目次
もう一つの道、もう一つの声―アメリカ大陸の先住民たちの目覚めに学ぶ
第1部 「際限なき経済成長」という隘路からの脱出
生産力至上主義がもたらすカタストロフ
経済発展パラダイムを克服した社会の生活は、どのようなものか?
第2部 “幸せ”と“経済学”―“経済”からの脱却をめざして
「贈与」の精神と「幸せの経済学」
“脱成長”思想の先駆者たち―イリイチ、デュピュイ ほか
第3部 新たな社会変革への複数の道、複数の声
科学技術・経済発展と“自律社会”―カストリアディスの思想
地中海的ユートピアと“脱成長”
第4部 “脱成長”は、世界を変えられるか?
“脱成長”は危機を解決するか?
“脱成長”の道
日本語版付録 “脱成長”の美学
欧州に広がる“脱成長”型ライフスタイル、中南米、インド、アフリカの農民・先住民による自律自治運動…グローバル経済に抗し、“真の豊かさ”を求める社会が今、世界に広がっている。“脱成長”の提唱者ラトゥーシュによる“経済成長なき社会発展”の方法と実践。
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