ブレイディみかこ,2022,両手にトカレフ,ポプラ社.(6.9.24)
精神を病んだ母親、幼子のチャーリーと暮らす14歳のミア。
ミアは、出口なしの極貧状態のなかで、「ここではない世界」を求め続ける。
ミアは、図書館で、マルクスに似た風貌の男に、金子文子の本(たぶんThe Prison Memoirs of a Japanese Woman)を貸してもらう。
100年前を生きたアナキスト、文子の、あまりに過酷な幼少期を回想する手記と並行して、ミアの物語が進行する。
ミアは、生活困窮者のためのカフェ(日本で言う子ども食堂)で働くゾーイ、ソーシャルワーカーのレイチェル等に支えられて、逞しく生き抜いていく。
「両手にトカレフ」とは、ミアがボーイフレンドのウィルと共作したラップの曲だ。
階級差別、貧困、ネグレクト、ヤングケアラー等の問題に加えて、子どもを見守る大人たちの善意と、少年、少女の友情と恋とが物語に織り込まれていく。
最初から最後まで、読む者をミアが生きる世界に引き込む筆力は、さすが、みかこさんである。
西加奈子氏、長濱ねる氏、推薦!
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の著者が14歳の少女の「世界」を描く、心揺さぶる長編小説。
この物語は、かき消されてきた小さな声に力を与えている。
その声に私たちが耳を澄ますことから、全ては始まるのだ。
――西加奈子氏
私たちはもう呪いから解放されていいんだ。
2人の少女を抱きしめながら、私も一緒に泣きたくなった。
――長濱ねる氏
ブレイディみかこ氏からのメッセージ
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』には出てこないティーンたちがいました。ノンフィクションの形では書けなかったからです。あの子たちを見えない存在にしていいのかというしこりがいつまでも心に残りました。こうしてある少女の物語が生まれたのです。
私たちの世界は、ここから始まる。
寒い冬の朝、14歳のミアは、短くなった制服のスカートを穿き、図書館の前に立っていた。そこで出合ったのは、カネコフミコの自伝。フミコは「別の世界」を見ることができる稀有な人だったという。本を夢中で読み進めるうち、ミアは同級生の誰よりもフミコが近くに感じられた。一方、学校では自分の重い現実を誰にも話してはいけないと思っていた。けれど、同級生のウィルにラップのリリックを書いてほしいと頼まれたことで、彼女の「世界」は少しずつ変わり始める――。