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ローレンツ先生、不朽の動物行動学の名作、『ソロモンの指環』を読んで感動したのは、遠いむかし、学生時代だったように思うが、この作品にも深く感銘をおぼえた。人類学者、エリザベス・マーシャル・トーマス による『犬たちの隠された生活』にも、これまた遠いむかし、感銘を受けたが、それに匹敵する名作だ。
イヌの祖先がジャッカルだという学説は、のちにローレンツ自身により撤回されることになるが、人類が狩猟採集時代にいかにして野生肉食動物と共生するにいたったのか、そのスリリングな推察には心躍った。
ローレンツは、イヌやネコを擬人化することを自ら戒めているが、本書で生き生きと描きだされたイヌたちのなんと人間くさいこと。換言すれば、人間たちのなんとイヌくさいこと。イヌたちにおける、「自信と恐怖、自己顕示と尊敬、攻撃と防御などの感情とそれに対応する表現行動」(pp.106-107)、それらを自らと周囲の他者に置き換えると、なんとも笑える。
イヌやネコは、通常、人間より早く死ぬ。死ぬことによる深い悲しみを、同類の生物を新たに飼うことでのりこえ、そのときどきに共生する動物に深い愛情を注ぎ、繊細で鋭い行動観察を行い、そして動物たちの行動や生涯に学ぶ。ローレンツが最終章、「忠節と死」で描く動物群像から、小説ではあるがこれまた名作、『ベルカ、吠えないのか? 』を思い起こした。
わたしも、これまで生涯の一部をともにしてきた、イヌやネコたちに恥じないよう、人生をまっとうしたいものだ。
目次
はじめに 人と家畜
事の起こりは
忠節の二つの起源
イヌの個性
訓練
イヌの慣習
主人とイヌ
イヌと子ども
イヌを選ぶこと
イヌの飼育家への訴え
休戦
垣根
小さいディンゴの騒動
ものいうこと能わざるは、いとうらめしき…
愛情の要求
イヌの日
ネコの遊びについて
人とネコ
嘘をつく動物
ネコめ!
動物と良心
忠節と死
夏の晴れた日には、どうせ進まない書きもの仕事など放り出し、ローレンツ先生はイヌのスージとドナウ川に遊ぶ。ハイイロガンやカラスと同様、イヌやネコも先生にとっては、研究対象であり、かつ一日見ていて見飽きない伴侶たちだ。名作『ソロモンの指環』のローレンツが、イヌやネコに対する愛情から発した洞察を、自身の生活を彩った愛らしいイヌたち・ネコたちの肖像とともに綴る、愛犬家でなくとも必読の名作エッセイ。
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