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橋本治に匹敵する文筆家というと、この町田康がまず思い浮かぶ。
パンクバンドINU時代から、町田の突出した爆発的表現力には感服していたが、いやいや、すごいものだ、町田と同じ大のねこ好きのわたしとしては、抱腹絶倒するは涙するはでこれは文句なしの大傑作。
なによりすごいのが、町田がほぼ完全にねこになりきっていることだ。種を超えたシンクロの強度がヤバい。橋本治はみごとに女子高校生、男子高校生になりきってみせたが、町田の種を超えたなりきりもすごい。ねこたちが、関西弁で、人間たちのまちがった行いを糺す。ねこたちの乱暴狼藉の数々も、町田にとっては、意味のある教訓としてとらえられる。
無類のねこ好きを自認するわたしも、町田のねこ愛の深さにはおよばない。なんなんだろう、この人の感性の深さと鋭さは。さんざん笑わかせてくれたかと思うと、二匹、いや二頭か、の愛猫の死、というできごとが、こと細かに描かれており、町田とパートナーさんとの、尋常ならざるねこ愛の深さには胸を打たれた。わたしも、町田さんと同じく愛猫二頭を看取ったが、罪悪感をもちながら、臨終前のねこに、サプリや薬を混ぜたミルクを与え続けるところなんざ、ちぇ、思い出してしまうじゃねーか。
子どものころから、動物好きで、その文学も好んで読んできたが、本書はこれまでの動物文学のどれよりもすばらしい。
「他者」との出会い?いやいや、その「他者」に人間以外の生命が入っていないと、思想としての厚みにも欠けるな。そんなことさえ思った。
目次
拙宅の猫たち
横着者が黒豆を
拙宅の守旧派
ゲンゾーの思惑
名前より飯だ
ゲンゾーの猿問題
学ぶゲンゾーに不吉な黒い影
小窓の断念
ゲンゾーの因業
ゲンゾーの埋め飯ほか
気位が高く威厳に満ちたココア、犬の血が混じっているのではないかと思うほど人懐っこいゲンゾー、遊び好きで無邪気なヘッケ、並外れて気の強い奈奈―縁あって共に暮らした、ちょっと面白い奴ら。手を焼かされ、言い負かされ、それでもいつも一緒にいた。写真と文章で綴った、猫たちとのいとおしい日々。
INU " つるつるの壺 "
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