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本と音楽とねこと

アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した

ジェームズ・ブラッドワース(濱野大道訳),2022,アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した──潜入・最低賃金労働の現場,光文社.(2.20.2023)

 わたしも、アマゾンはたまに利用する。しかし、利用するたびに不快になるし、うしろめたい気持ちにもなる。それなら利用しなければ良いのだが、価格の安さと利便性につい負けてしまう。
 商品の価格が安い、配送料無料、翌日配達といった利点の裏には、アマゾンの倉庫で働く人や配送に従事する人たちの、過酷な労働環境がある。
 そうした犠牲によってはじめて成り立つ価格の安さや利便性であるのなら、そんなもの要らない。アマゾンで販売される商品の価格はもっと高くあるべきだし、配送は、3日以上かけて行われれば良い。
 (利用したことはないが)ウーバーにしても同じだ。実質はウーバー社の指示下で業務が遂行されているのに個人事業主として扱われる人々が、これまた低賃金で過酷な業務に従事させられているのはどう考えて容認できない。(イギリスで個人事業主として扱われている人々の過酷な労働環境については、ケン・ローチが『家族を想うとき』でみごとに描き出している。)
 グローバル企業による現代の奴隷制については、すでに内部潜入記録がいくつか出版されているが、本書もそれらの一つに数えられる優れた作品である。被搾取労働に従事している人々の問題は、イギリスだけでなく、アメリカ合衆国や日本においても共通するものだ。安上がりで便利なサービスの裏で横行している問題に、わたしたちも無自覚であるべきではなかろう。

英国の“最底辺”労働に著者自らが就き、その体験を赤裸々に報告。アマゾンの倉庫、訪問介護、コールセンター、ウーバーのタクシー―ワンクリックに翻弄される無力な労働者たちの現場は、マルクスやオーウェルが予言した資本主義、管理社会の極地だ。グローバル企業による「ギグ・エコノミー」という名の搾取、移民労働者への現地人の不満、持つ者と持たざる者との一層の格差拡大は他人事ではない。横田増生氏推薦の傑作ルポ。

目次
第1章 アマゾン
ルーマニア人労働者
懲罰ポイント
人間の否定
炭鉱ととみに繁栄を失った町
ワンクリックの向こう側
第2章 訪問介護
介護業界の群を抜く離職率
観光客とホームレスの町
介護は金のなる木
ディスカウント・ストアの急伸
貧困層を狙うゲストハウス
第3章 コールセンター
ウェールズ
「楽しさ」というスローガン
古き良き時代を生きた炭鉱夫たち
生産性至上主義
世界を均質化する資本
第4章 ウーバー
ギグ・エコノミーという搾取
単純な採用試験
「自由」の欺瞞
価格競争で失われる尊厳
労働者の権利と自主性

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