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本と音楽とねこと

見えない買春の現場

坂爪真吾,2017,見えない買春の現場──「JKビジネス」のリアル,KKベストセラーズ.(3.5.24)

(著作権者、および版元の方々へ・・・たいへん有意義な作品をお届けいただき、深くお礼を申し上げます。本ブログでは、とくに印象深かった箇所を引用していますが、これを読んだ方が、それをとおして、このすばらしい内容の本を買って読んでくれるであろうこと、そのことを確信しています。)

 本書は、性にまつわる健康保障と権利擁護を展開する一般社団法人,ホワイトハンズの代表である坂爪さんが、JKビジネスに集う、買われる女の子、買う男の実態を調査し、現行の買春の制度と文化に、メスを入れたものである。

 一つ、疑問に感じたのは、買春一般と、児童の性搾取の問題とが、ごっちゃになってて、整理されてないまま、論じられてしまっているのでは、ということだ。
 といっても、それは、本書の内容を貶めるほどのものではない。

 わたしも、買春は、「金で女のつらを張った強姦の別名」(上野千鶴子)だと思っている。

 JKビジネスの情報サイトを運営する桑田さんは、こう言う。

「親からも社会からも認められない。学校に行っても居場所が無い。こんなダメな私を、この人は全然タイプじゃないけど、無条件で認めてくれる......。この人だったらどんなわがままを言っても離れないだろうなという実感が得られると、女の子は男性についていく。女の子側も『買ってくれる男』を必要としているんです。
未成年の働いているアンダー店で意外と多いのが、学費を稼ぐために働いている子。JKリフレの子はひとり親家庭が多い。家庭が機能していないため、自分を必要としてくれる男、生活必需品を買ってくれる男を求めている。
(中略)
彼女たちが同世代の男の子と付き合わないのは、単純にお金の問題。同世代と付き合っても、『なんでこんなに遊んでいるのに、この人は私にお金をくれないんだろう』と思ってしまう。リフレの客はお金をくれるけど、同世代の男の子はくれませんから」
(pp.134-135.)

 『パパ活女子』でみたように、女性が性を売る、その第一の理由は、手っ取り早く、カネを稼ぐためである。
 その背景には、消費税負担と住居費の高騰、物価高により、現行の最低時給では、法定労働時間分働いても──親に庇護されていない限り、生活していけない、そして、そうした事態を改善する責務がある政府が、実質なにも手を打っていない、という、絶望的な政治の貧困があること、そのことについては、すでに言及した。

 また、例えば、ブラック企業にひどい仕打ちを受け、昼職に絶望した女性が、夜の世界に浸りきり、いつのまにか、最低限の尊厳さえももてなくなり、また贅沢な「パパ活」生活から脱けられずに、愛人稼業に墜ちていく──どのようなセックスワークよりも悲惨な──、そんなこともあるのだろう。

女の子に言わせると『それぞれのお客さんで求めてくるやり方は違うけど、彼らの根っこにあるものは一緒』だそうです。すなわち、誰も認めてくれない俺のことを理解してほしいという承認欲求が根っこにある。そうした欲求をメチャクチャ強く持っている。逆に、彼らはこういうところでないと誰にも認めてもらえないわけです。そういう人ばかりが来る。女の子に対するアプローチの仕方が違っても、不器用であっても、根っこの部分は一緒。彼らのそうした欲求に応えるためには、女の子の側に演技力が必要になります」
「自分のことを認めてほしい」という承認欲求は、言い換えれば一方通行のコミュニケーションである。リフレの女の子にお金を払って「私はあなたを認めています」という演技をさせたとしても、それは自分の頭の中のファンタジーをなぞっているだけのマスターベーションに過ぎない。お互いに話し合って価値観をすり合わせることで人間関係や信頼関係を育んでいく現実の恋愛とは全くの別物だ。
桑田「お金さえ払えば、女の子に恋人のような演技をしてもらうことはできる。しかし、そこで『この子はこんな俺を認めてくれた』という勘違いをして、恋愛感情を抱いてしまう男性がいる。一方的に勘違いをして、ラインで『店を通さずにあった方が楽しいよね」みたいなメッセージを送ってしまうと、女の子から『何言っているの、この人』と思われる。
ただ、男性客はほぼ全員勘違いしています(笑)。演技をあえて楽しむ、という人もいるとは思いますが、そういった人はメイド喫茶の愛好家のような世界観を楽しめる上級者であり、自分自身のことを客観的に見られるから問題ない。しかしJKリフレのメインの客層は、疑似恋愛を恋愛と勘違いしてしまう人たちです」
(pp.142-144.)

 これは、「パパ活」で、女を買い、しかも、その女と恋愛がしたい、などという、浅ましい勘違いおやじと同様の心理だろう。

 恋愛弱者、性愛弱者の男は、もっとも親密な関係にある他者からの、承認欲求の充足、それから疎外されている。
 だから、「パパ活」で買った女、セックスワーカー、キャバクラやクラブのホステス、そしてJKリフレの女の子に優しく接してもらい、おだててもらおうとする。
 惨め、としか言いようがないが、ミソジニー、グルーミング、性虐待・性暴力、フェミサイド、あるいはジョーカーに「闇堕ち」しないだけでも、まだましと思うべきなのだろうか。

桑田「説教客はたくさんいます。『こんなことをしちゃいけないんだよ』と言ってくる客は非常に多い。でもやることはやる。変な話、抜き終わった後に言ってくる人が多い。客なりに葛藤があるのかもしれません。その葛藤を女の子にぶつけている。自分自身に言い聞かせているような感じで、女の子に説教をする人が多い。
説教される側の女の子からすれば、『お前もだろ』とツッコみたくなるそうですが、仕事のできる女の子はとにかく傾聴します。反論してしまう子はダメ。客の説教を傾聴すると人気が出る。人気の子は『説教客は常連チャンスだ』と言っている。男性にとっては、女の子に自分の意見を聞いてもらうことが快感だからです。
客から説教を受け続けていると、女の子は何も感じなくなるそうです。説教されているのは素の自分ではなく源氏名の自分なので、『またか』と思うだけ。プロですね。
JK店に通う男性は、女性に対して『こんな自分を認めてくれない』という嫌悪感を持っている。しかしJK店にいる女子高生は、そんな自分を認めてくれる。女子高生に対して、自分を無条件で認めてくれる母親的な優しさを求めているわけです。
母親的な優しさを求めているのであればスナックのママさんに行けばいいのに、なぜ彼らは女子高生に行くのか。それは『コントロール感』が得られるから。年下で社会経験の無い女子高生であれば、自分の都合に合わせて支配できるはず、と思えるからです。もちろん、簡単に比較はできませんが、女子高生を監禁する男性もそのような心理なのかもしれません」
JKリフレに通う男性には、「自分のことを分かってほしい」という思いがある一方で、「女性を支配したい」という思いもある。こうした矛盾した思いのせめぎ合いが「説教客」という形を取って現れるのだろう。男性客の承認欲求と支配欲求のせめぎ合いこそが、JKビジネスの利益の源泉であり、被害やトラブルの元凶であるのかもしれない。
(pp.147-149.)

 『説教したがる男たち』(レベッカ・ソルニット)は、しばしば、グルーミング、性虐待・性暴力、そして、買春の加害者、でもある。

 なかでも、最悪なのが、性虐待、だ。愛情飢餓状態の少女に巧みに近づき、お菓子やぬいぐるみを買い与えて、可愛がり、最初はあたまを撫でたり、肩に触れる程度であったのが、次第に、胸を触り、局部をまさぐるようになる。
 そして、すっかり大人になった少女に、きっと、こう言うのであろう。

もっと自分を大切にしなさい

 ほんとうに、虫唾が走るし、吐き気がする。

桑田「キャバクラはお酒に頼れる。風俗は射精に頼れる。リフレは何も無い個室の中でのサービスなので、男も女も本気でコミュニケーションをとりあわないと場が持たない。否が応でも何かを話さなければいけない。だから男性のコミュ能力が上がる。

リフレの店内で何回も何回も女性と接していると、経験値がたまっていき、実生活に活かされる。常連客は女性にモテるようになることがあります。リフレのおかげで女性とのコミュニケーションがうまくできるようになった、女性社員とのやりとりが円滑にできるようになった、というサラリーマンの人もいました。変な話、男性にとっての恋愛リハビリやトレーニングの場になっているのかもしれません」
JKリフレは、男性にとって「婚活トレーニングジム」の場として機能しているのかもしれない。JKリフレに行かなければ女性とのコミュニケーションスキルを学べない男性の存在、そしてJKリフレ以外にトレーニングの場が無い社会状況は、それ自体が大いに問題だという見方もできるが、それも一つの現実なのだろう。
(pp.149-150.)

本来であれば、学校や地域でのコミュニティの中、そして適切な性教育を通して、自然に若い男女がふれあい、カップルを作ってお互いに交際のスキルを磨くことのできるような文化があれば理想的なのだろう。
しかし、残念ながら日本社会にはそうした文化が無い。性教育の世界においても、避妊や性感染症に関する座学の講義が中心で、そもそも異性と出会うスキル、コミュニケーションを通して信頼関係や性的関係を深めていくためのスキルを学ぶ場を提供することは全くできていない。(中略)
一方リフレであれば、カーテンで仕切られた個室の中で、生身の若い女性との会話、そしてお互いの身体を密着させるハグから添い寝までを一対一で実践できるため、教育効果は比べ物にならない。リフレは風俗よりも利用のハードルが低く、キャバクラよりも単位時間当たりのコスパが高い。お酒や射精でごまかしたりせずに、女性と一定時間、一対一でしっかりコミュニケーションをとることができる。
(pp.215-216.)

 たしかに、セックスワーカーやホステス、JKリフレの女の子には、恋愛弱者、性愛弱者の男に、最低限のコミュニケーション能力をつけさせる、そんな役割もあるのだろう。
 これには、気付かなかった。

 JKリフレ利用歴7年の大野さんは、次のように言う。

大野「これからのことは分かりませんが、今は良い状況だと思っています。色々な規制が入ったおかげで健全な店が増えている。自分のような利用者としては有難い。一方でどんなに規制をしても裏は裏であり続ける。そして、中間の中途半端な店は淘汰される。両極端なものが残ればそれでいいのではないでしょうか。
現役女子高生の勤務を制限したことは、良い面と悪い面があると思います。制限なく自由にさせておけば、彼女たちは普通にマッサージだけをするような健全店でも働けていた。規制で縛れば縛るほど、危険な業者が増えていくだけです。規制をする側は、一体何度同じ間違いを繰り返せば気が済むのかと。
今、現実的に女子高生が大きくお金を稼ごうと思ったら、ダイレクトに売春するか、裏オプするしかない。そこに問題がある。マッサージだけの健全リフレ店で女子高生が働けるようになれば、時給換算で3千円は稼げる。リフレで1日5~6時間働けば、1万5千円とかになるわけじゃないですか。そうすれば遊ぶお金になる。生活に困窮しているのであれば、生活費に充てられる。そういう選択肢を与えてあげればいいのに、全てを封じてしまった結果、できるバイトは時給780円のマクドナルドしかない。そうなったら、もう身体を売るしかないですよね」
(pp.209-210.)

 愛知県警は、2016年、マクドナルドと協働して、JKビジネスによる被害防止を訴えるべく、マクドナルドの店舗で、写真のようなトレーマットを配布する啓発キャンペーンを実施した。

(p.238.より転載)

「真っ白な、君が好き。」

ツイッター上では、「気持ち悪い」「悪い冗談みたい」「『真っ白で素敵なあなた』に価値を見出すこと自体が、買う側の目線そのものじゃないか」などの批判が相次いだ、という。(pp.237-239.)

そう考えると、少女を買う男性が求めているものと、買う男性を批判する側が守ろうしているものは、実は同じものなのかもしれない。マクドナルドの時給水準では生活や学費を稼げないからこそJKビジネスで働きたがる少女に対して必要なことは、少なくとも「マクドナルドで働きなさい」と啓発することではないはずだ。
(p.239.)

 だから、最終的には、政治の問題、に行き着く。
 住居福祉、最低所得保障も含めて、国家が、自治体が、女の子が、自らの性を売らなくとも、生存と尊厳とを守ることができるようにすること、もっとも大事なのは、そこだ。

私の運営する非営利組織では、無店舗型性風俗店の待機部屋に弁護士・社会福祉士・臨床心理士を派遣して、直接生活・法律相談を行う「風テラス」という活動を行っている。性風俗の世界で働く女性は、困りごとを抱えた場合、他人に相談しにくい場合が多い。仮に相談したとしても「そんな仕事は辞めなさい」「辞めてから相談に来なさい」と第一声で否定されてしまうことが少なくない。
そこで、理解のある専門家のチームが直接店舗の中で相談に乗ることで、通常の福祉制度や行政の窓口では捕捉できない女性たちに支援を届けることができる。同様の試みは、JKビジネスの世界にも応用できるはずだ。
「JK風リフレ」に集う女性たちは、高校を中退・卒業した18~19歳の未成年が少なくない。この年代は、福祉の世界では支援を届けにくい谷間の存在になっている。児童福祉法における児童の定義は18歳未満のため、高校を卒業してしまえば原則として福祉の支援は受けられなくなる。虐待を受けた場合も、18~19歳の未成年は児童相談所の保護対象から外れてしまう。一方で、社会経験や学歴の無い18歳の若者が正社員として就職したり、アパートを借りて自立することは難しい。そのため、学校を中退・卒業した後、あるいは児童養護施設を退所した後に、寮完備の水商売や性風俗の世界に吸い込まれる若者は少なくない。
「JK風リフレ」と社会福祉が連携し、在籍女性に対して法律・福祉サービスを提供する「JKテラス」を実施することができれば、この谷間をある程度埋めることができるはずだ。そしてそこを足掛かりにして、JKビジネスの世界を漂流している文字通りのJK=18歳未満の少女たちに何らかの支援を届けることも可能になるだろう。
現時点では、私たちがJKビジネスの世界で児童買春の発生を防ぐための「道路地図」」を手に入れる方法は、「JK風リフレと社会福祉の連携」しかない。処罰感情や被害者意識に任せて店舗や利用客をいくら叩いたところで、真の問題解決からは遠ざかるだけだ。
(pp.243-245.)

 社会福祉学と社会福祉の実践が、これまで等閑視していたこの問題に、全力で取り組むことも、とても、とても大切だ。
 性風俗や接待飲食の店舗、待機所に、ソーシャルワーカーがアウトリーチをはかることが必要とされているが、店の経営者にそれを受け入れさせるための、強行法規も必要だ。
 すでに、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)により、ハラスメント相談窓口の設置が全ての企業に義務化されている。
 まずは、この義務を、すべての性風俗や接待飲食の事業所にも適用することが、性を売るすべての女性の権利擁護につながっていくことであろう。

目次
第1章買春の歴史
第2章メディアと買春
第3章「月刊買春」の世界
第4章「婚活」としてのJKビジネス
第5章曖昧さの引力
第6章児童買春による不幸を減らすための提言


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