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【旧作】格差社会の克服──さらば新自由主義【斜め読み】

二宮厚美,2007,格差社会の克服──さらば新自由主義,山吹書店.(10.23.24)

格差社会化の問題は、実は不自由の増大、したがって貧困の深刻化でもあるということである。格差社会化は、近代社会の証である自由・平等の理念にたいして、それとは正反対の不自由(貧困)と不平等(格差)という二つの問題を私たちに同時につきつけている。格差社会容認の格差社会論を斬る。

 コロナ禍で「女性の貧困」が注目されたことはあるものの、2010年代以降、「格差」や「貧困」への人びとの関心は低下した。

 メディアが調査報道をしないから関心を呼ばない、という要因以外にも、団塊世代の大量退職による人手不足、それによる就業者の増加が相対的貧困率を若干引き下げた経緯もある。

 かつて「反貧困」のオピニオンリーダーだった湯浅誠さんは、「子ども食堂」のオーガナイザーに転じたが、そこには、社会保障の立て直しよりもあしもとの貧困をなんとかするというリアリズムがはたらいていた。

 二宮さんは、格差と貧困とを、階級間、階層間の両レベルで拡大、深刻化するものとしてとらえる。

 まず第一は、現代日本の格差社会を階級的格差と階層的格差の二重構造で把握しなければならない、ということである。言いかえると、「勝ち組」と「負け組」との単純な二分法で格差社会を見てはならない。この世はゲームで成り立っているわけではない。格差社会化の構造は、まず階級的格差の拡大が先導役を担い、それに引っ張られるようにして各種の階層的格差が連動的・連鎖的に広がる形をとってつくり出されているのである。
 階級的格差は互いに敵対する階級関係、特に労資関係がますます対立するなかで広がるものだから、たとえて言えば、弱肉強食型格差である。資本は労働者の血肉をむさぼって増殖し、そのおかげで働く者は「はたらけど、はたらけど猶わが生活楽にならざり、ぢっと手をみる」状態におかれること、これは古今東西を問わず、資本主義の古典的命題である。これにたいして、国民階層間で広がる階層的格差のほうは、いわば優勝劣敗型の格差である。優勝劣敗型格差は、スポーツ競技がその典型を示すように、確かに「勝ち組」と「負け組」の対照的な違いをつくり出すが、ただし、ここでの差異は対立的・敵対的格差になるとはかぎらない。それはラグビーの試合がノーサイドの笛で終了することが示している。
 弱肉強食型の階級的格差は、対立・敵対関係にある階級間の格差だから、これを敵対的・対立的格差と呼ぶことができるだろう。他方、優勝劣敗型の階層的格差は、前者の階級的格差が必然的に随伴する格差であり、国民諸階層間に分裂・分断・競争を呼び起こす格差だから、これは競争的・分断的格差と言いかえられる。本書では、その実態を第二章で確かめたが、いまここで注意しなければならないことは、現代日本の格差社会化は、これらの敵対的・対立的格差と競争的・分断的格差との二重構造のもとで進行している、ということである。私たちは、これら二つの格差構造の区別と関連を十分に心得て格差社会の分析に取り組まなければならないのである。
(pp.220-221)

 「格差」と「貧困」が背中合わせの一体的関係にあるのは、ルーツを探って言うと、そもそも資本主義が勤労国民多数の自由・平等を侵害する傾向を持っているがためにほかならない。第二章でも指摘したように、貧困とは自由の侵害・剥奪であり、格差とは平等の侵犯・破壊(不平等・差別)のことである。資本主義が生来の力(=暴力)を発揮すると、社会内には自由も平等も二つながら同時に侵害・破壊されるという問題が発生する。なぜ、いかなる根拠によって、自由・平等の同時侵犯が起こるかといえば、それは、ほかでもなく、資本主義社会には上でみた階級的格差と階層的格差の二重構造が貫徹するからである。
 まず階級的格差は、階級的支配にもとづく自由の侵害を呼び起こす。「支配」と「自由」とは、互いに敵対的・対立的概念である。「支配⇔自由」の関係なのである。そこで、敵対的・対立的な階級格差が「不自由=貧困」を呼び起こす根源となる。それと同時に、階層的格差は国民諸階層を広範に競争的・分断的格差のもとに巻き込み、社会全体の「不平等=格差」を拡大する。「格差↔平等」の関係なのである。これを端折って言えば、一方で「階級的支配→弱肉強食型敵対的格差→貧困→自由侵害」の連鎖、他方で「階層的格差→優勝劣敗型分断的格差→不平等→平等破壊」という連鎖が生まれ、これらがあたかも糾なわれるようにして現代日本の格差社会の軸を形づくっているわけである。このような「格差」と「貧困」の一体性を、私たちは現代社会にもみつめておかなければならない。
(pp.222-223)

 二宮さんは、貧困を、ケイパビリティが毀損され、自由を奪われた状態であるとするが、けだし、重要な視点だろう。

 格差と貧困の問題をどう解消していくのか、それは、最低賃金の引き上げ、同一価値労働同一賃金の実現、高等教育の完全無償化等にかかっている。

目次
第1章 格差社会を抉り出す視点と指針
格差社会シンドロームを診断する視点
現代日本の格差社会の二重構造 ほか
第2章 現代日本の複合的・連動的な格差社会の構造
起点としての雇用格差とワーキングプアの増大
所得格差から消費・貯蓄格差への展開 ほか
第3章 格差社会化の背景と格差容認のイデオロギー
グローバル化を背景にした現代日本の新自由主義レジーム
新自由主義レジームのなかの格差社会化 ほか
第4章 羊頭狗肉のキャッチコピー「希望格差社会」論批判
山田製コピー「希望格差」の意味
限りなく新自由主義に接近する希望格差論 ほか
第5章 現代日本の格差社会論の諸潮流
新自由主義的格差社会化への対決視点
格差固定化に絞った「不平等社会日本」説 ほか


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