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ナオミ・クライン,これがすべてを変える 上・下

 水圧破砕法等によるシェールガス、シェールオイルの採掘が、カナダ、アメリカ合衆国等において、莫大な二酸化炭素を輩出し、水資源や大気を汚染している現状と、先住民、地域住民、環境保護活動家による採掘阻止運動の展開とが、つぶさに描き出されている。
 気候変動否定論者や、石油産業とそれに群がる利権者たちの搾取主義がやり玉に挙げられているのは一貫しているが、グローバルな気候変動がもたらす深刻な事態が明らかにされる一方、地域社会における生物の死滅と生活環境の破壊について、自身の経験もふまえてこと細かに描写されているのが、本書をより価値あるものにしている。
 とりわけ印象に残ったのが、自らの流産、不妊治療とその挫折、そして自然妊娠と出産という経験と、搾取主義に抗する住民運動の展開とが並行して叙述される部分だ。(下巻)そして、クラインは、生まれた男の子と一緒に、再生可能エネルギーにより稼働する孵化場で、たくさんのサケの幼魚と出会う。
 また、クラインは、反採掘を貧困撲滅や奴隷制廃止とならぶ課題として論じることを忘れない。資源採掘により真っ先に被害を受ける人々が、グローバルサウスの人々や、先住民など、社会のもっとも脆弱な層であることを考えれば、これはしごくまっとうな論旨であるといえる。
 本書は、600ページを超える労作であり、膨大な文献とインタビュー記録にもとづいた、もっとも価値ある気候変動の書である。


ナオミ・クライン(幾島幸子・荒井雅子訳),2017,これがすべてを変える 上──資本主義vs.気候変動 上,岩波書店.(2.9.2023)

許容される気温上昇「2℃未満」のドアは閉じる寸前、「ゼロの10年」が始まろうとする今、私たちは何をなすべきか。闘う相手は資本主義だ!『ショック・ドクトリン』で世界を驚愕させたジャーナリストによる、地球と人類の未来を語る上で必読の書。

気候変動によってすべてが変わる
第1部 最悪のタイミング
右派は正しい―気候変動にはらまれた大変革のパワー
ホットマネー―自由市場原理主義はいかにして地球の温暖化を促進したか
民間から公共へ―新しい経済への移行を阻むイデオロギー的障害を克服する
計画と禁止―見えない手を叩き、運動を起こす
採取/搾取主義を超えて―内なる気候変動否定派と対峙する
第2部 魔術的思考
根ではなく実―大企業と大規模環境保護団体の破滅的な一体化


ナオミ・クライン(幾島幸子・荒井雅子訳),2017,これがすべてを変える 上──資本主義vs.気候変動 上,岩波書店.(2.9.2023)

圧倒的迫力の下巻では、化石燃料を基盤にした経済・社会のあり方そのものにノーを突きつける草の根抵抗運動が世界各地で展開、拡大しつつあることを現地取材により明らかにし、さらに化石燃料企業から投資を撤退するダイベストメント運動が急速に広がっている(自らもその先頭に立っている)ことなど、明るい展望も取り上げている。壊滅的な気候変動を回避するために残された時間はあとわずかしかない。しかも本書刊行後に発足した米トランプ政権は二〇一七年六月、パリ協定離脱を表明しており、本格的な気候変動対策がますます遅れることが懸念される。一方で、異常高温、干ばつ、山火事、巨大ハリケーン、洪水、日本でもこれまでに経験したことのない集中豪雨など、世界中で温暖化の影響と思われる異常気象や極端な現象が頻発している。地球が私たちの子孫、そのまた子孫の代まで持続可能であるために今、何をなすべきか。本書の突きつける問いは重く、また誰ひとりその問いを逃れることはできない。

目次
第2部 魔術的思考
救世主はいない―環境にやさしい億万長者は人類を救わない
太陽光を遮る―汚染問題の解決法は…汚染?
第3部 何かを始める
「抵抗地帯」―気候正義の新たな戦士
愛がこの場所を救う―民主主義、投資撤退、これまでの勝利
ほかにどんな援軍が?―先住民の権利、世界を守る力;空を共有する―大気という共有資産、気候債務の返済
命を再生する権利―採掘から再興へ
跳躍の年―不可能を成し遂げるために残されたぎりぎりの時間


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