本書では、個人が抱えるあらゆる問題が非政治化され、心理学に還元されてしまう社会にあって、ときにはありもしない記憶をクライアントに創造させ、あるいはすでに忘却ないし克服された幼児期のトラウマを執拗に思い起こさせてその人を苦しませるセラピー文化が手厳しく批判されている。おおかたの指摘にはわたしも同意見だが、例えば、幼児期に親から虐待された経験を想起し明確に対象化することでトラウマを克服しより良き未来の人生を展望できるケースもあるわけで、幼児期の悪しき経験を回想することがすべて弊害となるとは思えない。もっとも、著者は、ナラティブ・セラピーにも通じる、自己の「物語」をポジティブな方向に社会的に構築し直すセラピーのあり方には肯定的であり、要は、クライアントとその家族を不幸のどん底に落とし込んでしまいかねない、怪しげなトラウマ理論派セラピストは許し難いということなんだろう。この点については、わたしも全く同感だ。消費社会と心理学化した社会との親和性について考察した部分も興味深かった。
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