事業保険の中に養老保険の”ハーフ・タックス”と呼ばれる商品があります。
従業員全員加入を前提として、死亡保険金受取人を従業員の遺族・満期保険金受取人を法人とした場合、法人が支払った保険料の内、半分を経費として損金処理が可能になる事業保険です。
その一方、"リバース養老保険”は、死亡保険金受取人を法人・満期金受取人を役員にして、上記の養老保険の死亡保険金受取人と満期保険金受取人とは逆(リバース)になるので、リバース養老保険と呼ばれています。
死亡保険金分の保険料(全体の保険料の半分)は法人が支払い、満期保険金の保険料(残り半分)は役員の給料から支払う形になります。
法人にとっては、死亡保険金の保険料及び役員の給与支払で保険料全額相当が経費として損金計上が可能です。
ここで、グレーゾーンと言われていたのが、役員が一時所得として保険の満期時または解約時に受取る保険金の「収入を得るために支出した金額」は役員の給料部分だけなのか、それとも法人の支払い分も含めれるのかというポイントです。
平成21年、国税当局は、ある会社の役員がリバース養老保険の満期保険金を受取ったとき、一時所得の計算上、会社が支払った保険料も「収入を得るために支出した金額」として控除していたケースに対して、会社が負担した保険料は「収入を得るために支出した金額」に当たらないとして更正したことから法廷での争いになりました。
ところが、1審、2審の福岡高裁とも「所得税法から一時所得の計算上控除できるのは本人負担分に限られるかどうかは明らかではない」として、法人が損金にした保険料の控除を認めました。
その後、この裁判は最高裁で審理されています。
ところが、突然財務省が平成23年度税制改正に以下の規定を盛り込み、今回施行されました。
「居住者が支払を受けた生命保険契約等に基づく一時金に係る一時所得の金額の計算上、その支払を受けた金額から控除することができる事業主が負担した保険料等は、給与所得に係る収入金額に算入された金額に限る」
まさに国税当局のリベンジで、この改正は今後申込される保険に該当するのではなく、平成23年4月1日以降に支払われるべき生命保険契約等に基づく一時金について適用するとしました。
はたして、国税当局のリベンジは成功したのでしょうか?
私見ですが、グレーゾーンがこの規定により控除額がはっきりと定められて”リバース養老保険”の商品性はかえって高まったのではないかと感じています。
総所得金額に加算される一時所得の計算は、(収入金額-必要経費-50万円)×1/2になります。
必要経費には会社が経費として支払った保険料(全体の保険料の半分)は算入できまきせんが、1/2の計算方法は随分効果があり、収入金額に対して大きな税額(所得税・住民税)負担にはなりません。
例えば、10年満期のリバース養老保険で支払保険料合計が986万円で満期保険金が1,000万円の場合、総所得金額に加算される一時所得は(1,000万円-493万円ー50万円)×1/2=228.5万円となり、税率43%(所得税33%・住民税10%)であれば、228.5万円×43%=98.3万円の税額となります。
すなわち手取り金額は、1,000万円-98.3万円=901.7万円となります。
従って、役員の給与分(自己負担分)493万円を引くと、408.7万円のネット収入となります。
リバース養老保険は、税制改正によってかえって、法人から法人の役員への資金移転としての事業保険の位置を築いたと言えるのではないでしょうか。
国税当局の次のターゲットは、事業法人向けがん終身保険(保険料は、全額損金計上が可能)だと言われています。
いずれかの時期に、全額損金計上を保険料半分損金計上に改正する可能性は大きいと予想しています。
既存のがん終身保険は、全額損金計上を加味すれば初年度から解約返戻率は100%を超えていますので、既存の保険も施行以降半分損金計上になれば、取り敢えず解約すれば損失は免れます。
その後、単純解約返戻率を改善して半分損金計上でも実質解約返戻率が100%を超える新しいがん終身保険が誕生するでしょう。
保険会社と国税当局の戦いは続きます。
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