船橋市の糖尿病教室

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心筋梗塞

2019-10-25 17:39:02 | 日記
【主訴】前胸部圧迫感
【現病歴】2012年6月頃に階段昇段時の前胸部圧迫感を自覚するようになった.10月頃からは週に1度程度の頻度で、寒いところに出た際に同様の胸部症状が出現するようになったが、ニトログリセリンの舌下投与で症状は改善した.2013年1月2日昼食後の12時30分頃から安静時前胸部圧迫感が持続したため近医を受診したところ、心電図上前胸部誘導のST上昇と、心エコー上前壁中隔~心尖部の壁運動低下を認め急性冠症候群の診断で当院に転院搬送となった.来院時に9/Ⅹの胸部症状が残存しており、心電図上でV1-V3のQ波とV1-V4のST上昇を認めた.また心エコーでも前医と同様の所見を認めたため、急性心筋梗塞の診断で同日当院に緊急入院した.
【既往歴】54歳 腎腫瘍で左腎摘出術施行.65歳 糖尿病、高血圧、脂質異常症.
【家族歴】心臓突然死(-)、心疾患(-)、父:脳卒中
【生活歴】アレルギーはない.飲酒歴はない.冠危険因子:年齢(+)、高血圧(+)、脂質異常(+)、糖尿病(+)、家族歴(-)、タバコ(-).

【主な入院時現症】身長 163.5 cm、体重 70.9 Kg.体温 36.5℃.脈拍86/分、整.血圧 205/107 mmHg.SpO2 (自発呼吸、フェイスマスク 5 L/分)98%.眼瞼結膜に貧血はなく、眼球結膜に黄疸はない.頚部リンパ節腫脹はない.甲状腺腫大はない.頸静脈の怒張はない.呼吸音に異常はない.心雑音および過剰音はない.腹部は平坦かつ軟で、腫瘤は触知せず、圧痛はない.両下腿に浮腫はなく、両側大腿動脈・膝窩動脈・足背動脈の触知は良好である.血管雑音は聴取しない.
【主要な検査所見】血液所見:WBC 10980/μl、Hb 15.9 g/dl、Plt 23.0 万/μ、D-dimer 0.69 μg/dl.血液生化学所見:TP 7.3 g/dl、Alb 4.7 g/dl、AST 57 IU/l、ALT 30 IU/l、LDH 239 IU/l、γGTP 33 IU/l、T-bil 0.6 mg/dl、CK 494 U/L、CK-MB 40.0 IU/L、BUN 14.2 mg/dl、Cre 0.85 mg/dl、Na 138 mEq/l、K 4.0 mEq/l、Cl 103 mEq/l、TG 84 mg/dl、HDL-C 39 mg/dl、T-Cho 185 mg/dl.血清免疫学所見:CRP 0.13 mg/dl、BNP 48.8 pg/ml.心電図:洞調律.正軸.心拍数 86/分.V1-3にQ波、V1-V4にST上昇がある.胸部X線:心胸比 55%、肺うっ血はない.

【入院後経過と考察】
#1.急性心筋梗塞
初期治療として、救急外来で酸素投与、ニトログリセリン、ヘパリン、クロピドグレル、アスピリンの投与を行った.その後、緊急心臓カテーテル検査を施行した.冠動脈造影上、左冠動脈主幹部#5 75%、左前下行枝#7 90%、左回旋枝#12-2 75%、#14-3 75%と左主幹部を含む2枝病変であった.引き続き責任病変である#7に対し経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を施行し、エベロリムス溶出ステント(Xience Prime) 3.0×18mm)を留置した.心筋逸脱酵素についてはCK 500 U/ml未満でピークアウトしたが、残存病変があるためニコランジルの持続静注を開始し、8日からは内服に置換した。また、入院前よりカルベジロール2.5 mg/日を内服しており、心保護目的に増量する方針とした.しかし、1月10日の胸部単純写真で心胸郭比の拡大と胸水貯留がみられ、心不全徴候であると判断しフロセミドを開始した。1月15日に残存病変に対してもPCIを施行し、#5d~#6jp 75%に対してXinece Prime 3.5×18 mm、#14-3 75%に対してXience Prime 2.5×12 mmを留置した.また血行再建が終了したためニコランジルは中止した。その後は心不全徴候の増悪もなく、全身状態良好となりを導入し、27日に退院した。冠危険因子が複数あり、30分以上持続する胸痛と、心電図変化から急性冠症候群を疑い、アルゴリズムに則って診断と治療を行い(日本循環器学会編:急性心筋梗塞(ST 上昇型)の診療に関するガイドライン.日本循環器学会HP)、大きな合併症なく血行再建を終了した。糖尿病を合併する冠動脈疾患の患者において、エベロリムス溶出ステントはシロリムス溶出ステントと比較して8か月後の再狭窄が少ないとされている(Won-Jang K. Circulation.2011; 124: 886-892).
#2.高血圧
入院前より内服していたニフェジピン、カルベジロールを入院後に再開した。ニトログリセリン投与下でも収縮期血圧 130 mmHg台であったためエナラプリル 2.5 ㎎/日を追加したが、コントロール不良のため5日よりトランドラプリル 1 ㎎/日に変更し、カルベジロールも10㎎/日まで増量しコントロールは良好となった。
#3.2型糖尿病
入院時インスリンアスパルト30mix製剤とピオグリタゾンの併用でHbA1c(NGSP) 8.3%、随時血糖 233 mg/dlとコントロール不良であり、入院後からシタグリプチンを追加した.当院糖尿病内科に血糖コントロールについて相談し、インスリンを増量する方針とした.退院時は早朝血糖 130 mg/dl程度で経過しており、今後も当院糖尿病代謝内分泌内科と併診し治療を継続する方針とした。
#4.睡眠時無呼吸症候群
夜間無呼吸による酸素化の悪化があったため、1月7-9日にかけてアプノモニタを施行した.その結果、無呼吸低呼吸指数 52.1-63.8 回/時と重度の睡眠時無呼吸症候群と診断した。18日より持続用圧換気療法を導入し外来で管理する方針とした。
【総合考察】複数の冠危険因子を持つ高齢男性に生じた急性心筋梗塞の1例である.薬剤溶出ステント(DES)留置後はステント血栓症予防が必須となり、アスピリンの無期限投与、さらにクロピドグレルもしくはチクロピジンを12か月間投与するように推奨している(日本循環器学会、急性心筋梗塞(ST上昇型)の診療に関するガイドライン).ステント留置部位や多数のステント留置ではそれ以上継続することもある.抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を中断した患者においても主要心臓事故の74%はDAPT期間中に起きている(Roxana.Lancet.2013;382:1714-1722 ).睡眠時無呼吸症も心血管イベントのリスクとなるため(Kendzerska T.PLoS Med 2014; 11: e1001599)、DAPTの継続以外にもリスクや合併症のコントロールが重要である.
【退院時処方】カルベジロール 10 mg/日、ピタバスタチン2 mg/日、エゼチミブ10 mg/日、クロピドグレル75 mg/日、フロセミド 20 mg/日、ランソプラゾール15 mg/日、ピオグリタゾン7.5 ㎎/日、ニフェジピン40 mg/日、アスピリン100 mg/日、シタグリプチン50 mg/日、エナラプリル 2 mg/日

肝細胞癌破裂と予後

2019-10-22 22:56:10 | 日記

肝細胞癌破裂は自然止血を得るものもあるが, ときに死因に直結する病態であり, 治療法の選択が重要である. そのうち肝動脈塞栓術(TAE)は諸施設で行われている治療法であり, 当院においても肝細胞癌破裂に対しては主に第一選択となる治療法である. 肝細胞癌自然破裂について当院におけるTAEを中心に背景や予後について検討した.



各症例の年齢・基礎疾患・腫瘍径・肝機能・治療内容といった患者背景を分類し,肝細胞癌破裂後の生存日数との相関性を比較した.


肝細胞癌自然破裂13例のうち破裂によって発見された症例は8例であった. 肝細胞癌の原因としてはC型肝硬変が5例, アルコール性肝硬変が3例, B型肝硬変・自己免疫性肝炎・NASHによるものがそれぞれ1例ずつ, 成因不明が2例であった. TAEを施行した症例は6例で, Child-Pughスコアは平均7.5点, 全症例が生存退院した. そのうち後日肝臓切除術を施行したのは2例で, いずれも腹膜播種や再発は認められていない. 全身管理のみで対応した症例は7例で, Child-Pughスコアは平均10点で, 生存退院したのはそのうち1例のみであった.


全身状態が高度に不良でなく, 肝機能がある程度保たれている状態であれば積極的にTAEを行うことが長期生存が期待されえると考えられる.


1型糖尿病患者におけるナトリウム-グルコース共輸送体2阻害剤の使用と糖尿病性ケトアシドーシスの割合

2019-10-13 22:38:12 | 日記

1型糖尿病患者におけるナトリウム-グルコース共輸送体2阻害剤の使用と糖尿病性ケトアシドーシスの割合


Use of Sodium-Glucose Cotransporter 2 Inhibitors in Patients With Type 1 Diabetes and Rates of Diabetic Ketoacidosis.


Diabetes Care. 2019 Oct 10. pii: dc191481. doi: 10.2337/dc19-1481.


目的


1型糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬の実際の適応外使用を推定し、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の割合を推定し、ソタグリフロジン臨床試験で観察されたDKAの割合と比較する。


方法


SentinelシステムでSGLT2阻害剤のイニシエーターを2013年3月から2018年6月まで特定し、狭い定義と広い定義を使用して1型糖尿病の有病率を決定し、行政請求データを使用してDKAの割合を測定した。 標準化発生率(SIR)は、Sentigliflozin試験309、310、および312のSentinelでの年齢および性別固有のフォローアップ時間と年齢および性別固有のDKA率を使用して計算された。


結果


SGLT2阻害剤の475,527個のイニシエーターのうち、0.50%と0.92%がそれぞれ1型糖尿病の狭い基準と広い基準を満たしていた。 狭いグループと広いグループのDKAの割合は、それぞれ7.3 / 100人年と4.5 / 100人年であった。 1型糖尿病の狭い基準を満たした患者の中で、DKAの割合は25〜44歳の患者、特に25〜44歳の女性(19.7 / 100人年)で最も高かった。 SentinelでのSGLT2阻害剤の適応外使用中に、ソタグリフロジンの臨床試験に基づいて予想されるよりも多くのDKAイベントが観察された(SIR = 1.83; 95%CI、1.45-2.28)。


結論


1型糖尿病患者におけるSGLT2阻害剤の実世界での適応外使用は、SGLT2阻害剤使用全体のごく一部を占めている。 ただし、適応外使用中のDKAのリスクは、特に若い女性患者で顕著であった。 DKAの実際の単語の割合は、臨床試験に基づく予想を上回っているが、研究方法、患者サンプル、および研究薬の違いにより、結果を慎重に解釈する必要がある。