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大事なところが流血Xserve

2005-05-06 | ヌルヌルアーカイブ
犬に咬まれた。左手の人差し指という、日常生活を営むうえで非常にユースフルな部位を。

……いてぇ。ジンジンいてぇ。いつもなら心地よく感じられる、この胸の奥で刻まれる確かな鼓動が、今日という日に限っては、まるで悪夢のドラムンベースだ。それは、普段気にすることのない生と死のボーダーラインをはっきりと浮き立たせ、俺というちっぽけな存在を、何かしらの際へと追いやる。

洗面所で傷口の汚れと血を洗い流し、「マキロン」で消毒する……が、血が一向に止まらない。傷が思いのほか深いようだ。右手の親指と人差し指で、無傷の先端(指先)を触ってみる――(チクチクっと鈍い感触)――ほっ。どうやら、神経は大丈夫らしい。化膿止め軟膏「メモ」を、まるで歯磨き粉のCMみたく大量に塗りたくった包帯を作り、そいつを患部にぐるぐる巻きにしたところで、やっと血が止まってきた。

流血&気分が落ち着いてきたところで、今般の衝撃的流血障害の事件現場である庭の様子を見てみると……主犯格たる犬は悪びれた様子もなく、犬小屋のなかで鎮座ましまし、あまつさえ――まるで目の前の愚かな地球人類をあざけ笑うかのように――片目だけで、こちらの様子を伺っていたんだ。

俺は、自分のなかにふつふつと沸き上がってきたある種の煮えたぎるような感情を、おさえきれなくなった。気づくと、手には竹刀が握られていた。

「このうらみ、はらさでおくべきか」

そう口走ったかどうかは定かではない。しかし、とにかくそのときの俺の気持ちは、そんなような感じだったと思う。

ブンッ――と、竹刀が中空を切る音が聴こえた。次の瞬間……

バシィイッ――と、竹刀が何かを捉えた手応えを得る。しかし……きょとんとしている、主犯格。

そう、例え主犯といえど、例え犬畜生といえど、竹刀でブッ叩くことなどできない、ピースフルな俺がいた……聞けば、先日オヤジが同じくコヤツに咬まれたとき、オヤジは血まみれの手で近くに置いてあった体育館シューズを拾い、心ゆくまで犬めをセッカンしたらしい。

「血まみれ体育館シューズ」と、「土ボコリを巻き上げるだけの竹刀」。

ゴールデンウィークも終盤に差し掛かった気だるい午後、俺の思考はジャックされる。どこまでもシュールで、どこまでもやるせない、この犬と血をめぐる父子の対比に……。

「俺がいったい何をした? お前の首すじを……撫でてやっただけだろう?」
「お前あのとき、気持ち良さそうな顔してたじゃないか……?」
「だいたいお前……俺とお前とは、もう3年来の付き合いじゃなかったの?」
「あの頃の優しいお前はどこに行っちまったんだ? ……ワン太夫(←犬の名前)よ」


自分のセリフがだんだんと昼ドラチックになってきたことに気づいたとき、右手に握りしめた竹刀は“ツンツクツン”していた。

まるで、アラレちゃんがウンチを見つけたときのように。犬めを。