8月18日は旧盆十日だった。昼過ぎ次郎が金をせびりに来たが、用心棒に雇い入れた黒木という柔術家に門の外へ放り出された。「くそっ、やってしまえ!」と次郎(34)弟、内三郎(31)弟、本三夫婦が子分の平尾英松(29)とが、いづれも白装束に、縄タスキを十文字にかけ、日本刀と種子島銃で武装して水杯を交わし、5人が本家に切り込んだ。黒木は夢中で小説本を読んでいたので相手にしない。いきなり鉄砲で胸板を打ち抜いた。門を入った所で雇い人、野崎鹿之助(58)を本三が鉄砲で射殺、本三妻トク(23)は、刀をふるい、子守が背負った梅子(4)の首をはねた。子守は頭のない子を背負ったまま逃げた。次男準一、三男豊三郎、長女モリエは土塀を越えて逃げたが、タケと長男久勝(20)、4男昇(7)二女五十野(9)の4人は手筈通り土蔵に逃げ込み、半鐘を打った。次郎は灯油を土蔵内にぶっかけて火を放った。黒煙があがり火が土蔵を包んだ。半鐘を叩くタケの手が虚空をつかんだ。村人は駆け付けたが、鉄砲で撃たれて近寄れない。ついに丸亀の営所から軍隊が鎮圧に出動した。加害者の次郎、弟内三郎、本三、同人妻トク、子分の英松は、軍隊を尻目に墓地で腹を斬り、または鉄砲で自殺した。福崎家は翌朝まで焼け、死体がるいるいと横たわっていた。タケが恨まれたのは、あまり行状がよくなかった為もあったようだ。年41.タケは丸亀藩士族、篠田某が、福崎家に子がないので門前にわざと捨て子をしたのだという。まったく新派悲劇を地でゆく事件だった。 事件の跡地には今、三船病院があります。末裔も近くで住んでおります。終わり。香川県民血涙史 十河信善 著

今日の一枚