日々の寝言~Daily Nonsense~

森内名人の笑顔

既に書いたように、名人戦第4局は、
森内名人の仕掛けが無理だった、という結論のようだが、
仕掛けた局面で、千日手を狙う可能性もあったらしい。

しかし、名人はそれを見送り、
あえて仕掛けるほうを選んだ。

個人的には、森内さんは後手番では千日手狙いに来るのでは?
と予想していたので、ちょっと意外。

森内名人は、一局完結方式(ある局が千日手などで
先後入れ替わりになっても、次局の手番には影響しない)
の提案者であり、先手後手の差や千日手、持将棋なども
含めた戦術について、一番よく考えている棋士の一人だと思う。

千日手にした場合、以前の方式だと、
第5局は羽生挑戦者の先手になってしまうが、
一局完結方式だと、森内名人の先手のままになる。

後手番では最初から千日手を狙っているか?
千日手の可能性について考えたか?
それを選ばなかった理由は何か?

明かされることはないだろうが、
名人に聞けるものなら聞いてみたいところだ。

しかし、結局のところは、
勝負への執念の差が最後に出た、
というふうにも見える。

もしこれが、自分の永世名人がかかった一局だったら、
千日手を狙ったかもしれない、と思う。

そもそも、今回のシリーズでは、
森内名人が防衛へのモチベーションを維持するのは
ものすごく難しい。

昨年に永世名人の資格は取ってしまい、
かなりの達成感があったと思う。
今年はそういう目標が全く無い。

最近の成績は非常に悪く、下位者にころころと負けている。
次期竜王戦は第2組で戦わなくてはならない。
永世名人が第2組???という批判は予想できる。

森内名人の性格からして、
自分が名人位にいてよいのだろうか?
という疑問は強く感じているはずだ。

一方の羽生さんは、相変わらずの活躍ぶりで、
各棋戦で勝ち残っている。世間的にも、実力的にも、
羽生さんの名人襲名、永世名人資格獲得
を期待する意見が圧倒的に多い。

客観的には、もういいよ、名人位を譲るから勘弁してよ、
と勝負を投げ出したいような状況とさえ言える。

それでもしっかり闘わなくてはならない、
良い勝負をしなければ、それはそれで批判される、
というのは、ある意味、地獄のように厳しい状況かもしれない。

こんな状況で、いったいどうやって
勝負への執念が出せるというのか???

勝敗は度外視して、羽生さんと二人で深い将棋を指したい、
という思いだけで闘っているのではないかと思う。

感想戦の動画での名人の笑顔は、そういう意味で、
自分の感じるままの△5四金を羽生さん相手にぶつけて十分に闘った、
やりたいことはやり切った、というよう感じにも見えた。

よい笑顔だった。

しかし、今回の名人戦シリーズなどを見ていても、
羽生さんにとって、森内さん(や佐藤さん)の存在は本当に大きい、
ということを感じる。逆についてもまた然り。

「しょったんの奇跡」ではないが、
長い期間を通じてずっと戦い続けるライバルの存在が、
モチベーションの維持のためにすごく重要であることは言うまでもない。

渡辺竜王や谷川さんに欠けている(いた)のは
それではないだろうか?

谷川さんの衰えの早さや、
渡辺竜王の最近のモチベーションの低さ、を見ると、
そんなことを感じてしまう。

竜王は、とりあえず竜王位は防衛しているものの、
それ以外の棋戦での成績はいまひとつに留まっている。

とりあえずタイトル保持者になって、賞金で家も建ったし、
羽生さんは目標とするには遠すぎるし、
同世代にはライバルはいないし
(山崎さんはいるけど、関東と関西で離れている)、
では、モチベーションの維持はほんとうに大変だろうと思う。

こういう事例を見るにつけて、生まれ持つ才能の差も大きいが、
生まれた後に、生まれ持った能力をどこまで発揮できるか、
伸ばせるか、の差もまた大きい、と思う。

そのための「環境」としては、言うまでもなく、
良き親、良き師、そして良きライバルの存在が重要だ。

資産などよりも、そういうものを一人でも持てた人は、幸せだ。

たとえば学校も、第一義的には学力向上の場だが、
そういうものとの出会いの可能性を広げる場、
として考えることも大切だろう。
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