自身もその姿勢で役柄に挑んだと言えようし、オンエア直前の評判も、「『風の絵師』は、下半期最大の期待作に挙げられるファクション(faction)推理時代劇である。キム・ホンドとシン・ユンボクの歴史的な実在人物たちの物語に、小説『風の絵師』でのシン・ユンボクは男装の麗人という設定が加味された。歴史的人物たちのビハインドストーリーをミステリーとして加味し、“ファクション推理時代劇”という独特なジャンルを誕生させた」ということだった。
ほかにも、
「リアルで自然な感情表現ができるよう努力したい」
「・・・昨日の撮影でも、30mぐらいのがけから落ちそうになった。私が知る限り(韓国で)初めて“画家と絵”を主題にしたドラマ。(キム・ホンドは)あまり知られていない画家で、弟子のシン・ユンボクとの友情も描かれる。原作小説も評判がよく期待している」
と語ったりしているが、弟子のシン・ユンボクとの友情も描かれる、というのは、後から思えばおやっと思わせるものだ。まだ撮影の途中だったからあたりさわりのないコメントとせざるをえなかったのか、もともとの台本でホンドとユンボクは師弟の域を出るものでなかった、のをドラマの流れで自然的に恋愛を発生させる事情に至ったのかは撮影秘話として興味の向かうところである。
第12話は、ひとつ家で兄と妹として育ったヨンボクとユンボクの兄妹愛とも友情とも恋愛ともつかぬ愛の終焉から始まっていく。弟子のシン・ユンボクとの友情も描かれる、とのパク・シニャンのコメントを受ければ、物語のこのあたりが一つの節目をなしているようである。
ホンドとユンボクの関係を師弟の垣根を超えた純愛にまで昇華させようとするなら、ヨンボクとユンボクの微妙な愛情の道行きは、このドラマの純度を保つためには障害となりそうである。絵画の偽りなき普遍性を通じ、醜い権力争いにメスを入れる話に、男女のもつれた三角関係を引きずるのは通俗に堕すからである。
話の全体から見れば、ヨンボクは途中で表舞台から消えるように設定されていたとしか考えにくいが、顔料づくりの親方の娘と連れ添わず、こういった形でのヨンボクの死はユンボクへの愛情のバトンをホンドに渡すためのものだったと言えるかもしれない。
ヨンボクは妹ユンボクに精一杯の愛情を注いで死んでいった。しかし、ユンボクはその悲しみに浸っていられない。二人の追放をもくろむ者らの御真への審判が待っているからだ。王である前に一人の人間である、との意を酌み、正祖の表情や御身を模写して描かれた御真は、貞純大妃の指示のもと正祖を意のままにあやつろうとする重臣らのきびしい批評の眼にさらされることになる。
「顔が斜めなのは広い視野獲得を意味します」
「笑みを失わないという意志の表現です」
「本を読む時も文章を書くときも手を使います。手を出しているのは学問を磨き、精進するの意志を表しています」
重臣らは言い負かされ、休会の格好でいったんは退散。
休会後、図画署の別堤は取っておきの朱砂の話を切り出す。図画署の様式は五方色以外の使用を禁止している、と。
朱砂を使えなくしておきながら、王の前で厚顔無恥の発言が続く。
結果、重臣らの総意は、御真の破棄。
王は、いっさい口をはさまない、でこれを黙認。
朱砂不使用の経緯を知らされてなかった王は、予を愚弄する気か、と怒りを露にする。
しかし、二人が王に相談などできるわけもなかった。
二人は引っ立てられ、投獄される。
翌日、重臣らの王への陳情で、二人に刑が言い渡される。キム・ホンド、画員剥奪。シン・ユンボク、斬首刑。キム・ホンドは王に直談判し、あの者に責任はない責任のすべては自分にある、とユンボクの救済を願い出る。しかし、正当性復活の宿願はあの画工によって一瞬にして消え去ったと、王はにべもなくホンドの願いをはねつける。
あきらめきれないホンドは、宮廷の門前で座り込みを始める。
「あの者を助けてください」
王の苦しみもホンドと同じだった。しかし、王の立場からしか二人を処すことができなかった自分を悔いていた。
座り込みを続けるホンドに宮廷から引き揚げる重心らは、あの画工のために命でもかけるつもりか、と口々にからかう。
「命をかけるというのはどういうことか」
長時間の座り込みで脚のしびれたホンドは、その脚を引きずるように立ち上がる。かがり火の前に立った。
「この手は画員にとって命よりも大切なもの」
そう言って彼は右手をその中に押し込んだ。
愛弟子を救いたい一心の行為だった。重臣らの一様の驚きが彼らの倦怠さとホンドの信念の強さを好対照させて感動的だった。
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