「私たちもそろそろ旅立つ時がきた。そうしてやらねばならぬことがある。ピダム、支度をしなさい」
は意味深である。
これはおそらく、成人となったトンマンを探しに出る頃合だとの決意を示しているのであろう。双子の妹にわざわざ探しに出るほどの価値があるのか。だとしたらそれは何なのか。ここにひとつの謎が立ち現れた。
みんなそういうことだったか、と納得したことだろう。
王族に双子の子供がいるのを民に知られるは忌むべきこと。時代の根深い偏見とミシル派の陰謀によって、ムンノは双子の一方の娘を誰の目も届かないところへ隠す命を受ける。それが後の善徳女王、すなわちトンマンであった。双子の存在を知られる前に、うちの一人を始末しないと民の心は離反し、治世は立ち行かなくなる、との腹心らの説得をチンピョン王は泣く泣く受けいれたわけだった。
チヌン大帝はその役を自身の右腕であるムンノに仰せ付ける。娘を遠くへ送り出すことになってチンピョン王は、娘である身の証しとして自身所有の短剣を二つに折って、マヤ夫人の侍女ソファにたくす。
ムンノは二人を連れて都を逃れる。ミシルの執拗な追跡が続く以上、トンマンらをそばに置いておけないと判断したムンノは盟友を頼り、遠い砂漠の地に二人を向かわせる。しかし、ミシルの追跡も執拗だった。彼女がもっとも信頼を寄せる武者チンスクを追っ手として出したのだ。
しかし、トンマンらは幾度もの窮地をのがれ、男として新羅の都にやってくる。母親を砂地獄で失ったトンマンは途方に暮れつつも、自身の出生の秘密がこの地にあると知ったのだった。
そしてこの地で彼女は自分がチンピョン王の双子の娘の妹であることを知る。妹と出会ってチョンミョン王女は喜ぶが、宮廷の状況は昔と変わっていない。いや、ますますミシルの権勢は強まっていた。チンピョン王も王妃もトンマンが娘であるのを確認するが、ミシルの前で無力だった。なす術がなかった。
チルスクやソファも都に戻り、トンマンが双子のあの妹であることが徐々に知られるにつれ、トンマンの立場は生まれた頃と同じ状況に追い込まれていった。ついに再び都から追い立てられることになる。
しかしひとつ違っていたことがある。そういう嘆きの情勢の中で、トンマンは決してくじけることはなかった。国に対し正義への熱い思いと忠誠心を持つユシンやアルチョン、小狡さはあるが庶民的で日々前向きなチュクバンやコドと触れ合っていくうち、彼女は強くたくましい女への成長を日々遂げていっていたのだ。
チョンミョン王女を失った後、彼女はキム・ユシンに言った。
「私がこの国の王の娘である事実に変わりはない。私はここに残る。姉を失った今、私がその代わりに立つ」
キム・ユシンは訊ねる。
「お前、何を考えている」
彼女はピダムを誘った。
「私はこの国の王の娘だ。ミシルを倒し、この国を取る。一緒にやらないか」
ピダムはトンマンの突飛な誘いに開いた口が塞がらなかった。しかし、一瞬のうちに彼女の器の大きさを知る。
彼女は今まさに自決しようとするアルチョンの前に立った。アルチョンは姉チョンミョン王女に忠誠をつくした将校である。
「死んで何になる」
「止めるな。お前なんかの出る幕じゃない」
「王の娘に向かってその態度は何だ。そうして意味なく土に帰するくらいなら、生きてこの国のためにつくせ」
トンマンのその姿に、アルチョンはチョンミョン王女にはなかった威厳を見た。いみじくもソリの言った海王星である。アルチョンは自然と彼女の前にひざまずいていた。
トンマンがユシンを誘わなかったのには理由がある。誘えば彼とは対等の立場で物を言えなくなるというのがわかっていたからだ。それは彼女の心に芽生えていた彼へのほのかな思いの火を消すことでもあった。
「私は王となって生きる。誘えば、あなたは私の前でみなと同じようにひれ伏さなければならない・・・」
王を取るのか。恋を取るのか。反乱勢力ミシルと対決していきながら、その悩みはこれからも続いていくのだろう。
話の前半、トンマンがチョンミョンの妹であるのが不思議でならなかった。こういうことだったのだ。
チンピョン王「真平王」
善徳女王 第24話から
ミシルの命を受けたソルォンの捜索隊は次第にトンマンを追いつめていく。そのことを知ったユシンは追っ手たちより早くトンマンを探しだし、合流する。ひょんなきっかけから出会ったピダムの協力も得て、川に逃れ、窮地を脱する。
一方、ミセンの子・テナムボは信女ソリの言葉を信じるミセンの密命を受け、ソルォンの捜索隊に加わった。毒矢を手に別行動でトンマンの追走を開始し、先にトンマンらを見つける。
ピダムの案内でトンマンに会えたチョンミョン王女は、彼女の幸せを願って愛するユシンとともに新羅国から逃がしてやろうとする。しかし、トンマンはトンマンでミシルの専横に蹂躙され続ける姉チョンミョン王女を残し、自分一人幸せになっていくことに心残りを覚えていた。
チョンミョン王女の言葉に従おうとするもののいざ今生の別れとなると辛いのだった。そうするうちにテナムボがトンマンたちに追いついてしまった。テナムボはどちらが王女かと迷ったあげく、チョンミョン王女の方をトンマンと勘違いして毒矢を放ってしまう。矢は彼女の右肩を射抜く。変装して逃れようとしているトンマンの姿が目に残っていたからだった。
その場を逃れ、洞窟に運び込まれたチョンミョン王女だが、傷が深い上に毒が身体にまわりだしていた。彼女は自分の死を悟った。
トンマンは姉を助けようとピダムの案内を受け、薬草を仕入れに町へ飛び出すが、そばにいて、と請い願うチョンミョンのもとをユシンは離れることができない。チョンミョン王女の死期を悟ったアルチョンは二人だけを残して洞窟を出る。チョンミョンは、トンマンの女としての幸せをユシンに託して息を引き取る。
チョンミョン王女の死が知らされ、宮殿は大混乱に陥る。トンマンを始末しようとしたことが思わぬ結果を招き、責任を感じたウルチェは、王女の息子を呼び寄せようとする。宮殿内と民衆の風向きの変化を怖れるミシルもまた、事の重大さにこれまでの作戦を凍結し、事態の沈静化と宮殿の主導権を図るため、チョンミョンの息子チュンチェを王より先に呼び戻すよう指示を出す。
アルチョンによってチョンミョン王女の亡骸は宮殿に向かった。
王女の形見の櫛を渡しながら、ユシンはチョンミョンの遺言を伝える。それは数奇な運命にもてあそばれてきた妹を、愛するユシンに託し女としての幸せを願うものだった。しかし、トンマンは、王女の遺言は守れない、と言い出す。その決然とした目と表情は姉の復讐を誓っているかのように見えた・・・
以上が第24話のまとめだが、三国史記によるとトンマンがシルラ(新羅)の王となるのは632年だから、これはそれ以前の話になる。歴史上の人物はしかるべき地位にのぼりつめるか国を揺るがす役割を果たすかしないと記述されてこないから、ここで動き回る主要人物もその後どういう出来事にかかわり、どういう仕事を成したか、で構想されているようである。
たとえば、ひょんなきっかけから出会ったキム・ユシンとピダルは、今は友情を育んでいるかに見えるが、善徳女王が終焉を迎える頃、強烈なライバルとして向かい合うことがすでに暗示されている。善徳女王をめぐって恋のライバルともなっていくのであろうか。
その一方、シルラ(新羅)史上、初めての女王となったトンマンは、神秘性と聡明さがあったと伝えられているようだ。そこに三つの予知がある。
その一つは、
唐の太宗が牡丹の花の絵と種を贈って来たときに、その花には香りがないであろうと言ったこと。理由を尋ねられて、「花の絵には蝶や蜂が描かれていなかったことから香りがないと解った」と答えた。
というものだが、このエピソード確かどこかの場面で描かれたと思った。
トンマンのこのような聡明さは、コ・ヒョンジョン演じるミシルにも通じている。ただし、ミシルの場合聡明さはともかく、神秘性においては天性ではなく、誰も知らない情報を自分一人得て(この話では先達文明隋からの情報をいち早くキャッチして)、見せかけの神秘性を演じている。トンマンが持っていた伝えられる神秘性と聡明さを善玉と悪玉の二つに分け、悪役として配されたのがミシルなのであろうと僕は思う。
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