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雨の記号(rain symbol)

善徳女王 第26話から

 双子として生まれ育った経験のない僕に彼(彼女)らが平均的に持つ気質はよくわからない。だが、外から眺めて思うのは、もしもどちらかが不幸な死に方をすれば、生き残った方は強い意志で前向きな生き方を選ぼうとするのではないか。双子の姉(たぶん事実とは違い、周囲でそう思い込んでいるだけだろうが)チョンミョン王女に死なれたトンマンの気持ちの変化には、心の奥にそのようなものが潜んでいた気がする。
 その見地に立てば、トンマンの突飛とも思える野望の発露や決意を理解できる気がする。
「私はシルラ(新羅)の王になります。ミシルが駆使した方法でシルラを手にいれます」 
「民は常に幻想を求めています。ミシルはそれがよくわかっていたから、シルラを手に入れることができたのです」
 ミシルを信じる民からミシルの力は生まれている、ミシルを守っている神がかり的な力を奪うことからまず始めねばならない、だからまず、ウォルチョンをミシルの手から引き離さねばならない、とも。
 マヤの侍女ソファに育てられたトンマンは、民としての考え方は普通に育んできたし、ソファの躾と生来の好奇心で賢い娘へと育った。その民の視点で陰謀の渦巻く宮廷の世界へも飛び込んで見ることができた。チョンミョン王女が双子の姉であることを知り、自分が王宮で必要とされていなかった人間であることも知った。王や王妃に自分の子として認められながら、国中を覆う因習の壁のため、王を始めとするする宮廷勢力にうとまれ、彼女に慈愛の眼差しを注いでくれたのはチョンミョン王女以下ごく少数の者たちだけだった。
 そんなトンマンも身分を隠しておける間はまだよかった。しかし、宮廷を牛耳るミシルの耳にそのことが入った時、トンマンは新羅にいられなくなった。ミシルが配下に手を回して捕まったら、人知れず抹殺されるかもしれない。それよりも現王朝が民の怒りを買い、崩壊の危機にさらされてしまうかもしれない。それを存続させる道は自分が姿を消すしかない。トンマンはやむにやまれぬ思いで新羅の都を後にしたのだった。
 トンマンの幸せを願い、自分の愛するキム・ユシンがトンマンに思いを寄せていると知ったチョンミョン王女は、ユシンともどもトンマンを新羅の外へ逃がしてやろうとトンマンの許へ駆けつけてくれた。その姉が自分を狙った追跡者の放った矢で倒れ、命を失った。
 姉の霊を弔った後、トンマンの胸に去来していた思いはたぶんこうだ。
 自分は今まで宮廷から排除される存在として扱われていた自分だけが不幸なのだと思ってきた。しかし、そうではなかった。姉は追跡者の矢で倒れたこの時が不幸なのではない。これは一つの結末で、その因子はずっと姉の身の上にのしかかり続けていたのだ。自分がどこかに逃れたとて、ミシルの支配が続く限り、王も王妃も呪いのような悪夢を引きずった人生を生きていかねばならない。王の血を引く、自分が立ち、ミシルの支配を終わらせよう。ミシルの駆使した手法を用いるなら一人や二人からだって始められる。
 この時、トンマンの周りにいたのはアルチョン、ピダム、そしてキム・ユシンだったのだ。しかし、トンマンにとってキム・ユシンは特別な存在だった。
「ここで別れましょう。私の行く道は覇道だからユシン様を仲間になれということはできません。姉さんが進めと言ったのは人の道。私はその反対を進むことになる。人の心を持って生きられない以上、ユシン様と手を携えるわけにいきません」
「私を見ると王女さまを思いだし、罪の意識を感じるか?」
「そう思ってたけど、それだけじゃないのです。耐えられそうにないのはユシンさまを見るたび、一緒に逃げようと思った自分の気持ちを思い出すからです。思い出して頼りたくなるからです。ユシンさまは私に人の心を思い出させ、女として人として生きたくさせる。だけど、覇道において人の心を持つのは死と同じ。でも、心にその気持ちだけは残しておきたいのです。人として抱いた最後の気持ちとしてユシン様を思い出にしたい。共にゆけば、ユシン様を将棋の駒とみなすしかない。そんなの私には残酷すぎます」
 王となるための覇道を突き進むなら、時には命を投げ出してくれ、と言わねばならぬことだってあるかもしれない。そうするには一人の女としての感情が深く入りすぎている。
 ユシンは涙を流しながらトンマンの言葉を聞いていた。

 諦めきれないユシンは屋敷に戻り、父ソヒョンにトンマンの決意を報告する。
「それは王妃様とトンマンの廃位と、追放を意味するぞ」
 ソヒョンは取り合わない。
 それより、とソヒョンは、伽耶人を追放した理由で復耶会に自分たちが標的にされているという話をする。一族の危機にユシンは驚く。
 この時、ユシンはトンマンの言葉と決意に満ちた表情を思い浮かべる。
 人の道、恋の道を捨てねばならないのは一族の危機にさらされている自分も同じかもしれない。
 自分が向かわねばならないところはトンマンと同じ道の上にあるようだ。その道に何もかも求めてはならない。
 トンマンと同じく覇道に身を進めようと決意したユシンは父ソヒョンを説得し、一族をまとめるために飛び出していく。彼は身を捨てて復耶会の本拠地に乗り込む。
 伽耶人抹殺を企てるミシル軍の動きを察知し、トンマンも行動に移り、復耶会の本拠地に入ろうとしていた。
 そこでトンマンらを待っていたのは復耶会を傘下に収めたキム・ユシンだった。
 
 このドラマ、いつもラストがいいんだなあ~。次の土曜日までがまた長い。日は過ぎるのが早いのに、土曜日までは長い。
 やれやれ。
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