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雨の記号(rain symbol)

風の絵師第11話から

 キム・ホンドとシン・ユンボクは実在した画家であるらしい。二人が画家としてどのような交流をしたのか。しなかったのか。二人が恋をし、女人のシン・ユンボクを男装の麗人として登場させ、しかも御真画師の仕事にかかわらせたとなると・・・このドラマは史実に頓着せず(作品はそのまま取り入れながら)、思い切りロマンの羽をひろげてしまったことで、それらは少しも気にならなくなった。むしろ、現代人の我々が飛び込んでいきやすい物語舞台や空気が出来上がった。

 
 第11話は、御真画師の仕事にかかわり寝食をともにするようになり、ホンドとユンボクの二人に師弟の域を出た微妙な心の綾が生じ始める。そこがていねいに描かれだす。
 下絵が出来上がり、それを立てて位置の確認をやりながら、明かりにかざした時、ホンドは立ち現れたユンボクの透かしの影に女人の姿を見てしまう。実体より影の方が時に物の本質を指し示すことがある。ホンドはユンボクにお前はほんとに男なのかと問う。
「どうして答えない?」
「当たり前のことを聞くからです」
「お前の影は女人の姿のようだ」
「影は単に虚像に過ぎません。――師匠の影は山の妖怪のようです」
「影は実体を反映する。そうではないか? 実体があってこそ、影も生じる」
「だけど、実体も、実体を照らす影も、すべて真実ではありません」
「では、真実は何で、どこにあるのだ」
「真実・・・心の中に・・・」
 それは言えない。今までもそうだった。自分は誰にも言えないことをこの胸に抱え込んでいる。・・・
 ホンドもそんな彼女の思いを理解し、それ以上、言及しない。
 しかし、ユンボクの女人の影はホンドの心の奥に滑り込んでしまった。その夜の寝床の会話で、ホンドがヨンボクとの奇妙な兄妹愛をいぶかりだすのもその表れであろう。
 一方、図画署の別堤配下の妨害工作で、下絵への彩色ができなくなってしまう。朱砂に銀粉をまぶされ、変色させられてしまったからである。
 妨害した者を探しだし反撃に出ようとホンドは怒りにかられるが、ユンボクは兄ヨンボクの作った色を使おうと提案する。ユンボクの頼みを受け、ヨンボクは毒に蝕まれた身体にムチ打ち、彼女の求める色を顔料で作り上げる。ヨンボクの命を賭した仕事であった。
 正祖に「素朴でほのかに色を放つその赤色は何だ」と問われ、ユンボクは「兄ヨンボクが作った朝鮮の色です」と答える。
 その兄には死の影が差し始めている。大きなことをやり遂げるには捨てねばならないものもある。大きな犠牲の上でこそ生まれる。複雑な兄妹愛の底でそういう旋律も静かに流れている。
 二人の悲劇を予感して流れる歌がじつに物悲しい。
 この二人をつないでいた愛はどういったものであったのだろう。
 この回のラストは、夢とも現ともつかぬ、二人の永久の別れの場面だった。
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