この夏観に行こうと思ってた映画「祝の島(ほうりのしま)」を観に長野ロキシーに行く。長野市のアーケード街権堂の中にある鄙びた映画館。一度観に行けば、“友の会優待券”と称する1000円で鑑賞できる割引券を毎回渡してくれる映画館。
近くに長野グランドシネマズというシネコンが出来、人気のある映画が上映できず、ヱヴァの新劇場版や、涼宮ハルヒの消失のような人気アニメ作品を上映しても(僕は合計6回観に行った)、休日やお盆でさえ、閑古鳥が鳴いてる映画館。
よく続いてるものだと思う。「祝の島」は、山口県の上関町にある人口500人の離島・祝島に一軒家を借り、一年七ヶ月もの長期にわたって撮影されたドキュメンタリーだ。
祝島は言うまでもなく、対岸にある長島の田ノ浦に建設される上関原発に28年もの間(映画公開時。現在で29年)反対をし続けてきた原発反対の島だ。島民の9割が反対をし、10億円を超える補償金を受け取っていない。
反対運動の激しさや、過疎に悩む離島が、原発という金のなる木に頼らず、自立していこうとする模索への回答と希望を描くために鎌仲ひとみ監督は、「ミツバチの羽音と地球の回転」で、自然エネルギーに求め、スウェーデンへと飛ぶ。
各地で自主上映がされている“ミツバチ”は、自然エネルギーへのパラダイムシフトへの導きの糸として、「3.11」以降、週末を中心に物凄い勢いで上映会が広がっている。
オフィシャルサイトで検索したら、18~19日にも、僕のウチから歩いて10分の信州大学キャンパスで上映会が開かれていたのを知って驚く。
さて、「祝の島」は、「ヒバクシャー世界の終りに」「六ヶ所村ラプソディー」と核問題について、ドキュメンタリーを撮り続けた鎌仲監督の“ミツバチ”から見れば知名度は、遥かに劣る。それに監督の纐纈(はなぶさ。普通だったら、こうけつって読むよね)あやさんは、30代半ばとまだ若く、本作が初の監督作品だ。
祝島を舞台にした映画である以上、原発に反対のスタンスではあるものの、鎌仲監督のように、“希望と解決”を描こうとはっきり意図して作品を作ってはいない。
冒頭に反原発の物理学者・高木仁三郎氏の言葉が引用され、緊迫した上関町議会の様子が映し出される。それを観れば、あー原発に反対する島民の運動が描かれた映画だな・・・って、普通は思う。けど、そこからが違う。
一貫して描かれるのは、原発計画が持ち込まれる前から続いている祝島の人たちの日常の姿。もちろん、カメラが入っているから、完全に“素”じゃあない。パンフレットに「島の人たちの普段の姿を撮る、というよりも、一緒にその空間で起こることを記録していく」と纐纈監督が言うように、“撮影スタッフと島の人たちの共同制作”というべき映画になっている。
祝島の風景の美しさに息を飲み、素朴な島の人たち・・・それを自然に記録していく距離の近さに、そっか、これがドキュメンタリーの一つの完成系なんだって、感嘆する。ホント、傑作だと思う。
映画終了後、舞台挨拶をした纐纈監督とプロデュ―サーの本橋さんのサインを貰いながら、「一番印象的だったのは、祝島の美しさです」って感想を言ったら、二人ともとても喜んでくれた。公開から1年経つけれども、ロキシーの上映がこの時期になったのは、スクリーンが新しくなるまで待ったからだという。
運動論的な押し付けがましさはこの作品にはない。清々しささえ感じて、思わずDVDを買ってしまう。そうさ、この作品には、それだけの価値はある。
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