阿蘇に根子岳という山がある。別名を猫岳と言い、猫に纏わる昔話が幾つか残っている。
代表的なものは、旅人が迷い込んだ家が化け猫の棲み家であったと言う話。次いで、熊本の猫は(九州の猫という説もある)、7才になると猫岳にある猫の王国に修行に行くという話。
子供の頃に私が祖母から聞いた話は、これらとは少し違っていて、熊本の猫は一生に一度、必ず、猫岳にある猫だけが知っている猫の神社にお詣りに行くという話であった。そうして、自分が世話になっている家とその家人の無病息災を祈願するのだというのである。
我が家で飼っていた猫のたま(我が家では代々この名前であった)が行方不明になり、一ヶ月近く経ったある日、毛並みがぼさぼさで、瘦せ細った姿で、ひょっこり戻ってきたことがあった。
その時、祖母が「猫岳さんにお詣りに行ってきたんだよ」といって、話してくれたのが上記の話だったのである。